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この作品は本物だよ

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パブリカの幻想が忘れられず、劇場に誘われました。もう、なんか、やばかったです。終演後に画面に縛られる感覚は久々です。もうふわふわして掴みを書いています。見終わった友達にLINE送りまくったのは公然の秘密。

こっからはネタバレありです。

感想

アイドルグループを脱退し、新人女優として活動を始めた未麻は、
自分の意向とは裏腹に舞い込む、
過激なグラビアやTVドラマの仕事に戸惑いを隠せない。
だが、彼女の周囲でその関係者を標的とした殺人事件が
次々と発生し始めて--------

MADHOUSE公式ホームページより引用

簡潔に述べると、とってもオシャレに怖い。これに尽きます。目まぐるしい場面転換の繰り返しで見てる側も現実なのか夢想なのかがわからなくなってしまう作りは完全に少しずつ混乱に陥る未麻と同じ視点にさせてくれます。そこに強めのテキストが加わることでカオスが生み出される。至高。その中で今回はホラー描写もしっかりありでめちゃくちゃ怖い。手で顔を覆うけど指の間から見たくなる感覚に近い怖さです。数の設定が目まぐるしくローテーションされて、その中でのセリフが他の設定にオーバラップされていく。この見せ方はまじで他の監督作品で存在しているのだろうか?浅学非才なだけであると思うが自分は唯一無二であると感じます

そして最もアツいのが1998年公開の作品にも関わらずこの令和でもまったくもって色褪せていないメッセージ性だと感じます。人類は大きな変化を常に経験しているが不変の真理もいくつか存在していることを痛感します。この作品のパンチラインである「あなた、誰なの?」の言葉の通りで「自分自身」がテーマです。自己とはどのようにして自己たりうるのだろうか?自分の意志はどこにあるのだろうか?そんな地平線の奥に向かうような問いを投げかけられているような気がしてなりません。

未麻はアイドルをやめて女優になりレイプ撮影、ヘアヌードなどの辛い仕事を経験します。そんな矢先、家の金魚が死んでいるのを見て気丈に振る舞っていた強さは一瞬にして壊れて、号泣するシーンは印象的でした。そこから、アイドルの自分が目の前に現れて混乱していきましたが、個人的には未麻はアイドルに戻りたいとの発言は一切していないのが興味深かったです。確かに、女優の仕事はかなりつらいものが多いのでアイドルに戻りたい気持ちは一理あります。しかし、そんな言動は一切していないのです。本人にすら認識できない深層心理に刻まれている根源的欲求なのかもしれません。サブタイトルの「もう自分のことがわからない」はまさに言い得て妙。

黒幕が内田を操って事件を起こしていた結末ですが2人の共通点は自分の人生を生きていないところ、どちらも自分の夢を未麻に託してしまったことで悲劇は生まれたのです。結局のところはどこまで煮詰めても最後に残るのは自分なのです。ただただ自分が残るのです。その事実を無視して他人に全てオールインしてしまうのはもはやその人の人生ではないのです。破滅が始まってしまうように感じます。落合えりがドラマ撮影中に発した、「幻想が実体化するなんてありえない」が響きます。トラックのライトをステージのスポットライトと勘違いしてしまうのは皮肉が効きすぎです。

そして最後。個人的には霧越未麻の成長を覚悟を感じました。てなわけであれは未麻本人であると思います。作品の中で「自分自身」を常に探し続け、虚像に振り回された経験から、「自分自身」は自分の中にはあらず、鏡などに映し出される像にこそ現わされていることを理解したのではないのでしょうか?他者との関わりで「自己」が形成される。それだからこそ、ルーム”ミラー”越しのセリフだったのではないかと感じます。

この作品から千年女優、パプリカと続いていきます。今敏監督は「現実と虚像」の対比を表し続けてきました。そのテーマは令和になった今でも不変であることは今監督の慧眼なのか偶然か。。。古い時代を感じるが古臭さがまったくみられないこの作品、劇場見終わったあとにトイレの鏡に問いかけてしまうかもしれません。。。。

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