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【お店雑記】もの選びの基準と対話。

どうやって陶芸家さんやうつわを選んでいるのですか?

と聞かれることがある。

そのたびに、あぁ…こればっかりは、直感です!などとかっこよく言いたいんだけど…

じつは、私には「影のアドバイザー」がいる。
元うつわ屋店主の鎌野さんだ。鎌野さんには、私が奈良に移住してきたときから、あらゆることで相談しまくっている。

「あなた、これはセンス悪いわよ」
「私はこれ好きじゃないわ」

などとはっきりバッサリスッパリ切ってくれるのがありがたくて。
悩んだときはたいていラインや電話で相談する。
しかし意見が食い違ったとき、決まって鎌野さんはこういう。

「まぁ…あなたの思う通りにやってみなさい」

付かず離れず。
じつはこの瞬間が一番こわい。橋をわたっていいものなのかどうなのか。
しかし、最終的にはやっぱり自分で決めないといけないのだ。



お店をやっている以上、新しい陶芸家さんやうつわを発掘していきたいという気持ちはある。ある…ある…のだけれど、ここを焦って進めてしまわないよう、毎回必死で食い止める自分もいる。

たとえば、知人やお客さんから「この陶芸家さんいいよ」とおすすめしてもらったとき。ネットで写真を見て、いいなと思ったら見にいくし会いにいく。しかし、それがどんなにスッゴイ人であってもお店で取り扱うかどうかはまったくの別問題なのだ。

その、一つの大きなハードルになっているのが、「対話できるかどうか」。
私は、いいなと思った陶芸家さんのうつわを日々使いながら、対話をする。
自分や、うつわや、その周りのものたちと。対話は、「調和」とも言い換えることができるかもしれないなぁと思う。

まずは、自分の本心との対話。
お酒を飲んだり、おかずやスイーツを盛ったりするなかで、「このうつわ、いいなぁ」と心からの声が出ているか。それは第一印象がたとえよくても、そのときが最上級であってはいけないと思う。いいなぁという気持ちがすぐに薄まらず、逆に深みを増していくような「いいなぁ」であるのかどうか。

たとえば最近買ったデザインが特徴的なうつわがある。

写真で見ていいなぁと思って、お店でも同じくらいいいなぁと思って迎えたのに、使っていくとそのいいなぁは計算されたものだとわかることがある。第一印象のいいなぁを、なかなか超えていかないのだ。いいなぁが止まってしまっている。自分で見つけようにも見つからない。寧ろ、「写真のほうがずっといい」なんてこともある。見た目に期待して食べたのに、味はそこそこ以下の状態。これにはほんとうに困ったものだと思う。

いっぽうで、いいなぁが続くうつわもある。
というよりも、使ううちにますますよくなっていくのだ。写真やお店で見たときのそれとは比べものにならないくらいに、味わい深さが増していく。お酒を飲みながら、いいなぁと手触りや景色をたのしむし、おかずを盛りながらテーブルに並べていいなぁとため息をつく。洗い物をしながらいいなぁとまじまじと見る。うつわから見たらウザがられそうなくらい、いいなぁが増していく。

こういううつわに共通しているのは、受け手のいいなぁがコントロールされていないことだと思う。自分のなかから自然と出たもの。それをただ、いいなぁと思う人がいる。ただ、それだけのことなのだと思う。


そして次に、うつわや、まわりのものたちとの対話。
来たばかりのころはよそよそしさがあったのに、食器棚に置いたり、食材を盛って食卓に並べていくと顔つきが変わっていく。いつの間にか、我が家の他のうつわたちや家具や小物と仲良くやっている。なんだ、うまくやっているじゃないか、と親が子を見守るような気持ちで思えることがある。そうして対話を重ねていくとだんだんと、暮らしやわたしの一部になっていく。それは人のように立体的で、こころが育っていく過程のように感じる。

こうして対話を重ねて重ねて、自分の懐に飛び込んできたうつわを初めて取り扱うかどうかを考える。しかしね、これはもはや「鍛錬」だなぁと思う。人と向き合うような濃さで日々うつわと向き合っている。だから、このペースで経営をしていくとなるとちょっと気が狂いそうになるときがある。実態がないものと睨み合いっこしているような、そんな感覚だ。

そんなとき、お客さんから借りたある本を読んでいたら、こんな一文を見つけた。

人間でも、陶器でも、たしかに魂は見えないところにかくれているが、もしほんとうに存在するものならばそれは外側の形の上に現れずにはおかれない。

白洲正子『いまなぜ青山二郎なのか』新潮文庫

その「かたち」がなんであるのかは、きっと青山二郎もはっきりと言葉にはできなかったのだろう。しかし、たしかに「ある(存在する)」ということだけは掴んでいたのかもしれないと思うと、仲間がいる気分になり、すこしホッとした。

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そうしていま、私には会ってみたい陶芸家さんがいる。

去年うつわと出会って使っていくうちにすっかりハマってしまった。夫婦で作陶する陶芸家さんで、二人ともすごくいいものをつくる。なにかこう、使うたびにあたたかいものに包まれているような。それがなんだかわからないのだけれど、それをたしかめたくて、会いにいきたいと思い、手紙を書いた。

そして、返事がきた。祈るような気持ちで送ったからマジ泣きした。恥ずかしい。でも、うれしい。

来週、会いにいってきます。
もしタイミングがあえば、3月に彼らのうつわが草々に並ぶかもしれません。

そのときはまた、エックスやインスタでお知らせしますね。

うつわと暮らしのお店「草々」

住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00

▼インスタグラム(営業日はハイライトをご確認ください)
https://www.instagram.com/sousou_nara/

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