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一泊二日、松本の旅。

6月末に長野県の松本市へ行ってきた。
一泊二日の弾丸旅行だったけれど、すごくすごくたのしい旅だった。奈良に帰ってきてすぐに「また行きたい」と思えるような場所は、自分にとってお気に入りの場所なのだなぁと思う。

今回の旅のメインはお店めぐり。
古い建物が多く残る中町通りをぶらぶらしながら、直感的にいいなと思うお店に入ってみた。現代作家の工芸品を扱うお店から、昔のものを扱う骨董屋さんまで。新しいものと古いものがいい塩梅で交わっていて、それぞれに個性もあって、なんだか不思議な心地良さだった。老舗が多いからだろうか。「長く生きていると力の抜き方がわかってくるのよ〜」といわんばかりのどっしりとした風格あるお店ばかりで、店主さんとじっくり話さなくてもお店の空気からその気概が伝わってくるようだった。

『松本民芸館』もよかった。
市内からすこし離れたところにあって、この日はざんざん降りの雨だったこともあってか人はほとんどいなかった。静かに雨音を聞きながら、松本の民藝との歴史や作品をたっぷり堪能した。

これは完全に個人的な趣味なのだろうけれど、こういう場所へいくと必ず足を止めてしまうのが、染付の磁器。
さらさらと描かれた絵がおおらかでさりげなくていいなぁと。どんな風に使われていたのかと想像しながら見るのが好き。

ふとした景色に惹かれることも多くて、いつかこういう部屋がほしいな、こんな道具を使って料理をしてみたいな、など妄想がどんどん膨らむ。生活への意欲がくすぐられてしまうのだから、柳さんが広めた思想はほんとうにすごいと思う。

「雨がすごいねぇ。あら、傘、さしてない人がいるよ。
ひとり、ふたり、さんにん…よにん。あ、ごにん」

あるお店に入ったら、外を歩く人の数を永遠に数えていたおばあさんの店主がいた。

カチコチと時計が鳴る音とサーっと流れる雨音がセッションして、おばあさんの声を聞きながら眠たくなってきた。このお店は『ちきりや工芸店』といって、このおばあさんのお父さんが民芸館をつくったという民芸に造詣が深いお店だった。陶器、磁器、カゴ、和紙など色々なものが並んでいたのだけれど、私にとってはおばあさんの佇まいそのものが民芸だなと思った。

陶芸家の砂田政美さんとも、旅の途中で合流した。

砂田さんと松本の歴史は長くて、40年以上前、砂田さんが桂木一八さんの弟子だったころ松本にアパートを借りて住んでいたのだそう。
それから砂田さんが独立後、すぐに松本の老舗ギャラリー『グレイン・ノート』さんで砂田さんのうつわの取り扱いがはじまり、それから同じく老舗の『ギャルリ灰月』さんなどともお付き合いがはじまり、現在もお付き合いが続いているという。

グレイン・ノートさんに入ると、砂田さんがつくったうつわがたくさん並んでいた。いつも草々で見ているはずなのに、違う場所で見るとまた新鮮で食いつくように眺めてしまった。やっぱり砂田さんのうつわはすてきだなぁ…とうっとり。

グレイン・ノートさんはお店をはじめて40年。
おもしろいなぁと思ったのが、このお店は毎日違う店主さんがお店に立ち接客をしている。しかもみんな木工作家さんなのだという。ちょうどこの日も椅子をつくった木工作家さんがいて、色々話を聞かせてもらった。木のこと、かたちへのこだわり、長く使うための工夫など、お話がたくさん溢れ出てくる。やっぱりつくり手と話すのはおもしろいなぁと、私たちの好奇心も止まらなかった。

グレイン・ノートさんを立ち上げた指田哲生さんともお会いすることができた。
指田さんは、日本の代表的な工芸イベント『松本クラフトフェア』を立ち上げた方でもあり、指田さん自身もまた木工作家として椅子をつくっている。あまりベラベラとお話する方ではなかったのだけれど、ぽつりぽつりと心に響く話をしてくれた。とくに忘れられないのが、私が「なぜグレイン・ノートや松本クラフトフェアをはじめたのか?」と聞いたとき。「作家同士が集う場所をつくりたかった」という話をしてくれたこと。そういえば砂田さんも以前インタビューで、作家同士が集う場所があったことで救われたし、ものづくりを続けることができた、という話をしてくれた。

同時に、あらためて「つくり手は孤独な存在である」ということを、今回の旅で感じた。自分ではいいと思ってつくったものが、果たして世のなかに受け入れられるのだろうか。そんな不安と隣り合わせでものづくりをしながら、日々あたらしいものを生み出し続けていく。
そのなかで、ものを届けるお店の立ち位置はどうあるべきなのか。
砂田さんとそばを食べたりお茶を飲んだりしながら、ほんのり語り合った。

そうそう今回松本へ行きますということをnoteに書いたら、松本の近くに住む方がサポートとともに松本ホテル花月の喫茶室、『八十六温館(ヤトロオンカン)』がおすすめだとメッセージをくれた。松本民芸家具に囲まれた店内はとっても居心地がよくて、2日連続で行ってしまいました。ビーフシチューもプリンもケーキも最高でした。この場を借りてお礼をお伝えさせてください。ありがとうございました。

ホテルから見えた景色もよかった。気持ちよさそうに大きな鳥が飛んでいて(鳶か鷹かな)、しばらくずっと眺めていた。
ひとり旅をすると結局はこういう景色がずっと思い出として残るんだよなぁと思う。

お店をやっていると、どうしても他のお店と比べてしまうときがある。

展示会の回数や、陶芸家さんのラインナップ、発信している内容、お客さんの数…
私は影響を受けてしまうタイプだから、自分なりに情報との距離感を考えながら、最終的には「自分は自分」と思うようにやっているつもりだ。

しかし今回の旅でもそうだったけれど、歴史あるところにはやはり根っこの部分で揺るぎないものがあるのだなぁと感じた。それは感覚的なものであるけれど、過去に精通しながら、いまの時代をしっかり捉えている。自然との距離をうまく取りながら、生活で使われるものへの落とし込みがそれぞれの切り口でしっかりと表現されている。私もそんなお店でありたいなぁと、奈良に帰りながらぼんやりと考えた。

人生の先輩たちにたくさん出会った松本の旅。
「かっこつけなくていい」と色んな人からいわれたような気がしました。

誘ってくれた砂田さんに感謝。また必ず行きます。
ありがとうございました。

***

うつわと暮らしのお店「草々」

住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00

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