見出し画像

「ありがとう」のシーンが多い、接客の仕事

学生時代、私はド〇ール系列のカフェでアルバイトをしていた。

「いらっしゃいませー」
「店内でお召し上がりでしょうか...?」

仕事中は、マニュアルに沿って呪文のようにこの言葉を唱えていた。
私は「フェ」の発音がどうも苦手で、

「カヘラテお待たせしましたぁー」

と言っては店長によく、「カフェラテだよ!」と怒られていた。アルバイトをしていたのは、旅行にいきたいから・買い物をしたいからという私的物欲のために仕方なくやっていたことだったので、ただ時間を浪費する対価としてお金をもらう感覚でやっていた。

と同時に、「接客の仕事は大変で苦手だなぁ」と感じていた。接客は当たり前のことだけどお客さんと接する時間が多い仕事。お店に出て、ちゃんとしていなければいけない。私はアルバイト時代、お客さんに感情を込めて話すことができなかったし、つらいことがあってもお客さんの前ではいつもにこにこしているなんて私には無理!と、ずっとずっと思っていた。

***

そんな私が今回奈良へ来て、久しぶりにやる接客の仕事。正直どきどきしていた。

私はならまちにある、『風の栖(かぜのすみか)』というお店で働いている。

この場所で接客をしはじめて日々、感じることがある。それは、お客さんに『 "ありがとう" と言いたいシーンが多い』ということ。

風の栖は奈良町にあるお店。東京や大阪など都心の場所にあるわけではないので、奈良近郊に住んでいないとなかなか気軽に行けるお店ではない。わざわざ来てくれること、まずはこれがとってもありがたいと思う。


ふらっと入ってきてくれるお客さんには、「見つけてくれてありがとうございます」とご縁のようなものを感じるし、ホームページやSNSを見て遠方からわざわざ来てくれるお客さんには何度も、「ここまで来ていただいてありがとうございます」と言いたくなる。

さらに、お店の中をじっくり見てくれて、洋服を試着してくれるときなんてとてもとてもありがたい。
お店へ行って試着するって、けっこうなハードルだと思う。試着室へ行って洋服を脱いで着てって…。特に女性はお化粧をしていたりするからフェイスカバーをつけなきゃいけないし、靴を履いたり帽子をかぶったりするように決してさくっと試せることではないと思う。それを、興味を持っていただくだけでもうれしいのに、試着までしてくれるなんて。嬉しさが満開になる。

そして、試着室で袖を通してひとり鏡を見たときに、まずはお客さんだけが感じたときめきを、試着室から出て私にも見せてもらえるときはさらにほっこり嬉しい気持ちになる。幸せのお裾わけをしてもらっているよう。

また、風の栖はオンラインでも商品を販売しているので、全国のお客さんに日々奈良から発送をしているのだけど、そのときに1人1人へお手紙を書いている。お客さんがどんなものを買っているのか、どうお店と関わってくれているのか、情報を見ながら書いていくと「本当にありがとうございます」という気持ちがどんどん入っていく。発送は、単純作業と捉えてしまえば簡単なことかもしれないけど、お客さんの生活にこの洋服がどう入り込んでいくのか想像しながら少し丁寧にやってみるだけで何だかわくわくが倍増する。

***

カフェでアルバイトをしていた頃は、接客マニュアル通りにやるだけでお金がもらえた。分量もきちっと決まっていたし、お客さんと会話して商品(ドリンク)を提案することなんてほとんどなかった。

でも、今の仕事は真逆で、接客マニュアルはないからこそ「自分の言葉で」お客さんと話をしている。自分が本当に使っていいと思ったものをおすすめしたい。ベースにはそういう気持ちがあるし、お客さんにも私が感じた心地よさを、勝手ながらお裾分けしたいなと思いながらやっている。

ちょっと話した言葉で、お客さんが笑顔になってくれたりするととても嬉しい。例えば今日の接客ではお客さんが手に取ったワンピースを、「桜色できれいですよね」と言ってみたら顔がだんだん柔らかくなってほんとうに嬉しそうに微笑んでくれた。

買う・買わないにかかわらず、来てくれたことや見つけてくれたことが嬉しいし、これをきっかけに、いつかまたどこかで関係性が始まるかもしれない。そう思うと、お店って一期一会なわけではないんだなぁ。

『ありがとう。』

それは、お客さんへかける言葉だけではなくて同じ場所で働いているスタッフへも日々思うこと。この気持ちを大切に、ずっと仕事をしていきたいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?