9月11日、アメリカ同時多発テロ。あの日。
その日の朝もいつもと同じように忙しかった。
夫を仕事に送り出し、生後7か月の長女のお世話と家事をしていた。
すると電話が鳴った。
日本にいる弟からだった。めったに国際電話をかけてこないのにめずらしい。
「今、ワールドトレードセンターがえらいことになってるけど、だいじょうぶか?」
我が家は朝は慌ただしいのでテレビをつける習慣がない。弟からの電話は何をいってるのかわからなかった。
「なんのこと?」と私。
「今すぐテレビをつけて見ろ!」と弟。
テレビをつけてニュースをみた。ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込み、噴煙をあげている映像が飛び込んできた。
観光のヘリコプターかプライベートの飛行機が間違えてつっこんだんかな?なんてのんきなことを考えていると、2機目がもう一つのタワーに突っ込んだ。
人はありえないものを目にすると、すべての感情や思考が停止してしまうものなんだと思った。
夫の会社のオフィスはワールドトレードセンターの真向かいのビルに入っている。
夫から電話があり、この日はミッドタウンのクライアントのオフィスに出向いている、テロらしいので今から帰る、と。
夫のアメリカ人の上司は、1993年のワールドトレードセンタービルの地下駐車場爆破テロも経験しているので、すぐ部下に家に戻るようにと解散させた。
夫の無事を弟に伝えようと日本に電話をするが、もう繋がらなかった。
マンハッタン中の救急車や消防車が気が狂ったようなサイレンとともにダウンタウンへ向かっていった。公共の交通機関はストップし、マンハッタンは封鎖され、しばらくするとまるで戒厳令下の街のように不気味なほど静かになった。
アパートのロビーでは、家族と連絡が取れないの!とパニックになっている住人が、ドアマンに慰められていたのをよく覚えている。
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幸い、私の周りの知り合いや友達、夫の同僚も全員無事だった。
我が家のバルコニーから遠目に見えていたツインタワーは、既に無く、そこからは煙が立ち上っていた。
不気味なほどの静寂とそぐわないほどに晴れ渡った青空のなか、長女をぎゅっと抱っこして夫と3人で言葉もなく、たち上る煙をバルコニーからただじっと眺めているしかできなかった。
9/11。毎年この日は言葉に詰まる…。