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遊郭で高人さんを見つけました。6

「……」
窓辺で父からの書簡を読む。後ろには、父の側近である卯坂が立っていた。

花房屋と契約を結んでから、その事が父の耳に入ったようだった。
「若様、どうなさるおつもりで?」
「父がやれと言うのであれば、やりますよ。」
卯坂に向き直りニコリと笑う。
「陰間にうつつを抜かしている場合では無いのでは?」
東屋の裏の顔は情報屋だ。だから驚きはしない。「彼を理由に仕事を蔑ろになどしません。」
「蔑ろ所の話じゃあらへんわ。旦那様の商会を泥舟にする気か言うとんのや。」
眉間に皺を寄せた卯坂が苛立たしげに言う。
だがそんな言葉で萎縮するようなら最初からこんな大博打はやっていない。
「泥舟になるか、鉄船になるかはまだ分かりませんよ。」

書面にもう一度目を落とす。
そこには、花房屋との契約についてと、それに伴う損害について、その損害を埋めるべく新しい事業を立ち上げ2ヶ月で軌道に乗せろ、と命令が記載されている。出来る出来ないではなく、やれと。実に父らしい。

…2ヶ月以内でとは。一回で必ず当てろと言っているのだ。俺に対するペナルティーのつもりだろう。
だがアテが無いわけじゃない。
今からこの国に必要になるも。この国は今発展の最中だ。手を出せる先はいくらでもあるのだ。
問題は取引先だ。大々的に宣伝していかなければならない。

「やりますよ。父にはご心配なくとお伝え下さい。」
ニコニコと笑顔で卯坂に言った。


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あれから3週間が経った。
輸入先も取引先も目処がついた…残り1ヶ月と少しだ。
「ふー。さすがに…」
…会いたいな。
窓の外をぼーっと眺める。

朝から晩まで忙しく働いているため、仮眠の時間くらいしか取れていない。会いに行くなんて夢のまた夢だ。

これに失敗すれば恐らく俺は今後自由に行動出来なくなる。父の敷いたレールの上を行くだけの人形だ。
それだけは避けたい。
人生で初めて手に入れたいと本気で思える人を見つけたのだ。こんな事で失ってなるものか。

そんな時だった。
門の前に人影が見えた。ガタン!と窓枠に手を置くと、観察するように、確認するように、その人物を凝視する。

まさか、幻覚なんじゃ…。

だが、潮風に髪を揺らし、誰かを探している姿はやはり現実で…。

「高人さん…なんで…。」

気付いたら走り出していた。
なんで…なんでなんで…!俺が行くまで待っていれば良かったのに!

許可を得て来たのか…?なら共の者がいるはずだ…彼の周囲にそれらしき人物は居ない。
あんなに、身請けを嫌がっていたではないか。

足抜けは重罪だ。見つかる前に早く戻さなくては!

「高人さん!!」
彼は声の主を探している様子だった。

オレを見つけた時の嬉しそうな顔に、すぐにでも抱き締めって、唇を奪いたい衝動に駆られる。

だが、ぐっと衝動を堪える。それどころじゃ無い。

「行きますよ」
早く、人目の触れない場所へ。

自室へと手を引いて歩いていると、

「すまん、すぐ帰るから」
と、不安そうに言う。

だったらなぜ来たんですか…。
そんな不安な思いしてまで、なんで?

この人をこのまま放り出すわけにはいかない。
どうにかバレないように帰してあげなければ。

ああでも……帰したくない…、帰したくない帰したくない!

くそ…っ!!

高人さんをソファーに座らせ少し乱暴に顔を覗き込む。
「…どうしてここに居るんです。」
…帰したくない…!

「お前が、ずっと来ないから心配で…。」
申し訳なさそうに見上げてくる。
大切にしたい。大切にしないと…

「あなた、こんな場所に来ちゃまずいんじゃないですか?」

少し目線をさげてしまう。

やはり黙って来たのか。
なんで…勝手な事を…。

「お前が無事なら、罰を受けてもいいかなと思って。仕事が忙しいんだな。邪魔して悪かった。」
手を伸ばしてきて、安堵したように笑う。

俺に触れる指は少し冷たくて。
極度の緊張状態だったのだろう。自分が罪を犯している事は重々承知なのだ。

あなたは自分の事より、俺の心配をしてくれたんですか?
俺は、貴方の気持ちなんて本当の意味で考えていなかったのに…。ただ自分の利益のための優しさだ。

こんな…。自分を犠牲にしてまで俺を想わなくてもいいんだ…。貴方がこんな…
「…―――――冗談じゃない…こんな…」
泣きそうになる。
俺のせいだ。高人さんの気持ちを、…あなたがどう思うかなんて考えてもいなかった。

高人さんが心配そうにこちらを見ている事に気付く。
「東谷、こっち来い」
俺の頭を抱き寄せて撫でてくれる。
俺が悪いのに。俺が貴方の人生に入り込んだせいで、こうなっているのに。
「…っ…高人さん」
ごめんなさい。
…でももう離してあげられそうにない…。

「そんな顔するな。せっかくの綺麗な顔が台無しだぞ?」
明るい声で、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
たまらずに、彼を抱きしめる。
好きです。好きです。

もう、家だとか、仕事だとか…役割だとか…すべてかなぐり捨てて、貴方と生きていけたらどんなに良いだろう。そんな事は許されないのだけど。

帰したくない。けれど帰さないと…この人が酷い目に遭ってしまう。

困ったように笑い、高人さんを見つめる。

早く帰さなくては。

高人さんの唇にちゅっと口付ける。何度も何度も。
次第に深く、歯列が開いたのを見計らい舌を差し込む。

もう少しだけ。

おずおずと差し出された舌を絡め取り吸う。ちゅっちゅっと音をさせ、口内を蹂躙する。
頬が赤く染まりトロリとしている。
高人さんの手を握り指を絡める。
好き。好きです。

ちゅっと音をさせ口付けを終わらせる。

「俺、多分あと1ヶ月は会いに行けません。でも、手紙を送ります。だから待っていて貰えますか?」

ちゅっちゅと顔に口付けをする。じゃれるように。
高人さんの指先はもう温かい。

良かった。

おれ

「俺は、お前が元気にしてるなら大丈夫だ。手紙は…欲しい…かな。」

正直に恥ずかしそうに視線を逸らして言う。姿にふふっと笑う。

「では帰りましょ。早く帰らないと」

「…わかった。」
なんだか寂しそうにしている姿は、期待しても良いのだろうか。

俺が行っては目立つので、信用できる従者をつけて廓まで送らせた。もちろんバレないように荷に紛れさせて。

帰ってきた従者に報告を受け。安堵する。
高人さん、なるべく早く貴方に会いに行きます。
日が高くなりつつある窓の外を見つめて決意を新たにした。

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