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ラスボスが高人さんで困ってます!28

昼間、ミストルに帰る話をしてからチュン太の元気が無い。いつも通りにこにこしているかと思ったら、料理中ぼーっと考え事をしていたり、食べている時も口数が少なかった。

俺は自分の部屋で1人布団に潜り込む。
俺たちは今、各々の寝室で寝る様になっていた。
チュン太が目を覚まして暫くは一緒に寝ていたのだが、彼の身体が回復してからは自室で独り寝だ。
俺が少しの物音でも起きるようになってしまい、自分が側に居てはぐっすり眠れないだろうからと、チュン太自身からの申し出だった。
今はどちらも発情期ではないので床を共にする必要もない。断る理由も無く俺は彼の申し出を受け入れた。

受け入れた、受け入れたけど。

あいつの昼間の様子といい、さっきの様子といい……心配で、俺まで寂しくなってくる。

話せない事が多いのは仕方ない。それを詮索する気もない。話してくれたなら……俺に出来る事を……とは思うのだけど。

俺はガバッと起き上がると枕を持って暗がりの廊下へ出て、チュン太の部屋にそっと歩いて行く。

一緒に居ないからこう考え込んでしまうのだ。

コッソリと襖を開けると、チュン太がすぅすぅと寝息を立てて眠っている。秋の夜はだいぶ冷えるようになっており、フルリと身体を震わせた。

俺はチュン太の部屋に入り、彼の布団の空いてる場所に枕を置いて、ゴソゴソと彼の布団に潜り込む。
チュン太の温もりが、寒かった心も身体も温めてくれる。体温と共に香ってくるチュン太の匂いが心地よくて彼にくっ付いて目を閉じた。

やっぱり安心する。

「……高人さん……?どうしたの?」
「……寂しくなった。」
眠そうな声でゆっくり目を開ける。俺は布団に埋まりながら小さく言った。

それを聞いて、チュン太は嬉しげに笑う。
「……ふふ、俺も寂しかった。高人さん好き。」
俺の首の下に腕を差し込み、抱き寄せてくれる。

布の触れる音。彼の腕の心地よさ。温かな体温。
「いい香り……。」
彼の声に、仕草…。全てに安心する自分がいる。

擦り寄られ髪を嗅がれているのが分かる。
俺は胸元にきゅっとしがみ付く。
彼の香りに、温もりに鼓動が高鳴る。

好き、好き、好き、好き。心臓が、痛いほどに伝えてくる。彼の事が、好きで好きで堪らないのだと。口に出しては、中々言えない。

「高人さん……、俺、貴方が好きです。貴方の為なら死ぬ事も幸せだと思えるくらいには、貴方が好きです。」
不意にそんな事を言われてドキリとした。

俺もだよ。俺もお前が大好きだ。

「例えがいつも物騒なんだよ、お前は。」
けれど出てくる言葉は好きの返事とは程遠い言葉。

心の中ではこんなに嬉しいのに。
好きと言われたのが嬉しくて嬉しくて顔が熱くて仕方ないのに。きっと紅葉の様に赤く染まる顔をこいつには見せられず、俺はチュン太の胸の中に隠れてスリリと擦り寄った。
チュン太は俺を抱く腕をほんの少しだけ強くしてくれる。
「ふふ。だって。俺が死んだら貴方が寂しいでしょ?死ぬ時は一緒がいいんです。言ったでしょ?」
「じゃあ、お前が死ぬ時は俺も道連れか。」
俺は呆れた様に言う。
「当然です。」
こんな狂気的な愛の言葉なんて、そうそう言えるもんじゃないだろ。
俺は、ふふっと笑う。そして同時に目頭が熱くなる。どうしようも無く嬉しくて。

例え死の淵だとしても二人で一緒に、と言ってくれる。それが嬉しくて、愛おしくて堪らない。

「じゃあ、俺が生きたいつったらどうすんだよ。」
けれどやはり口に出るのは強がりな言葉ばかり。
生きたいのは本当だ。お前と一緒にこれからも生きてたい。

「高人さんが生きたくても俺は手を離す気は無いです。」
チュン太はふふっと笑い、俺の髪を撫でてくれる。
「高人さんも、連れてってくれるんでしょ?」
「どうかな。」
「嫌ですよ?俺だけ置いてけぼりなんて。」

「……そうだな。お前は俺の墓作ってから来い。待っててやるから。」
俺はチュン太を見上げた。人の寿命は短いから。
たった20年やそこらで終わらせてしまうのも忍びない。
彼は寂しい気持ちを補うように俺を抱く腕を強めた。

「高人さんは意地悪です。すぐに連れてってくれないと俺、何するか分かりませんよ?知ってるでしょ?」
顔を覗き込まれ、ちゅっと唇に口付けられる。
若草色の瞳が不安げに揺れる。

そうだな。こいつは命を削って暴れてまわるだろうな。俺よりも魔王らしく。その姿が容易に想像できてしまう。
「暴れたら、洒落にならん。仕方ないな、
やっぱ連れてくか。」
愛しげに彼を見つめ、そう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
見つめ合い、またその唇が欲しくなって、俺は目を閉じて自ら唇を寄せる。

するとチュン太は、何度も強く噛みつくように口付けてくる。自然と声が出てしまう。

「……んっん…ぅ。ふぁっ」 

彼のしたい様にさせ髪を撫でてやると、彼は口付けながらゆっくり起き、俺を組み敷くように四つ這いになる。上から熱い視線が注がれ、恥ずかしさに目を閉じた。そしてまた口付けられる。

「んっふぅ……んンッ」
ぬるりと舌が入ってくると、俺が感じる部分を舌先で撫でるように刺激してくる。
「ちゅた……ちょ……ふっはッ…っ」
無理に喋ろうとすると口の端から唾液が垂れていく。
擽られる度に身体がビクリと竦む。呼吸が上がり蕩けたころ、ちゅっと唇を離された。

彼はじっとこちらを見つめる。欲情した瞳の奥がやはり寂しげに揺れていた。

「もし、一緒に居れないなら、俺か貴方、どちらかが死ななきゃいけないなら、俺は喜んで死を選びます。貴方が居ない世界なんて生きていても意味がない。」
チュン太は苦しげに言う。

何故そんな顔するんだ?何がそんなにお前を追い詰めてるんだ。
「……チュン太……それじゃ、俺を置いて逝くみたいになってるぞ?」
俺も寂しくなり彼を見上げる。頬を撫でるとその手をそっと撫でられた。

「…………高人さん抱いていいですか?」
答えを聞く前に、チュン太は俺の首筋に顔を埋めて唇を這わせる。左手は俺の腕をなぞるように摩り、指先に辿り着くと指を絡めるように握ってくる。

……お前は何を怖がってるんだ。

こんなに強い、世界で一番強い生物だって言われてる龍にも負けない人間が、この世の何を怖がってるんだ。

俺は空いている手で彼の髪を梳き撫でる。
チュン太はピクリと身体を震わせた。お前の顔は見えないけれど、きっと泣きそうになっているのだろう。

「大丈夫だ。俺がいるだろ?」
「…………。」
肩が震えていた。その理由は、彼の故郷にあるのだろう。けれど彼は話してくれない。ただ怖いのか、その怖さに理由があるのかすら分からない。
「お前も俺も死なないよ。大丈夫。……って、魔王がこんな事言うのも滑稽だな。」
俺はクスクスと笑う。こいつが何かを怖がっているように、俺だって勇者が怖い。俺の死の宣告だから。
けれど、チュン太が一緒なら大丈夫だ。
死ななくて良い気さえする。だから大丈夫。
たとえ、その時が来たとしても。
「大丈夫だよ。チュン太。」
「……。」
子供をあやす様に髪を撫でてやる。すると、チュン太はむくりと起きて俺を見つめた。
涙目で嬉しそうに微笑む。
「高人さんには、やっぱり敵いません。」
「当たり前だ。……浮上したか?」
よしよしと髪を撫でなが聞く。すると彼は笑って頷いた。
「はい。」

「よし!じゃあ、その……っ、続……き……?」
俺は恥ずかしさに語尾が弱くなって視線もヨロヨロと外してしまう。顔が熱い。
「高人さん。」
呼ばれてチラリとチュン太を見ると彼は幸せそうに笑っていた。
それを見て、ホッとする。
ああ、やっといつものチュン太だ。
良かった。本当に。

俺が口付けを求める様に腕を伸ばすと、チュン太は身を沈めて、優しく、けれど貪欲に俺を求めてくれた。

俺は、身も心も、お前の物だよ。チュン太。
与えられる快楽に、俺はなす術なく沈んでいった。 

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