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遊郭で高人さんを見つけました。21[BLだかいち二次創作小説]

「やれやれ、やっとか。」
テーブルに肘をつき、大きくため息を吐く。
一升瓶を2本、空にした頃に旦那サマはようやく眠りに着いた。

俺は、酒と熱で汗ばんだ身体が気持ち悪くて長着と襦袢の襟を緩める。
「あっつ…。」

さて、どうしたもんか…。
「とりあえず、鍵もらうか。旦那さま〜ちょっと失礼しますねぇ」

ガサゴソと鍵の束を見つける。牢と表の鍵がついている。足枷の鍵だけが見当たらない。

「クソ…。千早、もういいぞ。」
「高人?…だ、大丈夫?」
「ああ、朝まで起きねーだろ。たらふく飲ませてやったからな」
ククッとイタズラっぽく笑う。

「しばらくは…大丈夫だ…」
椅子からゆらりと立ち上がると、牢の鍵を開けてやる。
すると、コトコトと天井が鳴る。
「…なんだ…足音?」
訝しげに天井を見ていると、かぱっと板が一つ外れてて、ひょこっと顔が出てくる。
「ぷはぁー!やーっと顔出せたっす!」
その顔には見覚えがあった。

「あ、お前、チュン太んとこの…なんで天井なんかに…。」
「あー、今は綾木さんとこで働いてます。成宮っす!」
ニッコリ笑うと、ひょいっと降りてくる。
「綾木さんと准太さんに頼まれて、偵察に来たんすけど、いやぁ、お見事でした。オッサンが粗相しそうになったら飛び込もうと思って見てたんすけど、そんな必要なかったっすね。」

成宮は気持ち良さそうにイビキをかいて爆睡する男を見て、タハハっと笑う。
「チュン太と綾木はもうここを突き止めたのか?」
俺は驚いたように言う。
「はいっす。もうすぐ来られると思うっすよ。多分、准太さん1人で来るんじゃないっすかね。」

「1人って…。大丈夫なのか?」
「心配ないっすよ。取り巻き連れた方が邪魔になるから」
あははと明るく笑う成宮。
そ、そうか、ならよ良いのだが。

「なら、成宮くん、千早を先に連れて行ってくれないか。騒動には巻き込みたくないんだ」

「いいっすけど、夜霧さんはどうするんスか?」
成宮はきょとんと俺を見る。
「俺は、まぁ、これが取れないんだ。鍵を探しながらチュン太が来るの待ってるよ。」
足枷をみせて困った様に笑うと、じっと俺を見てくる。
「ん?どうした?」

「いえ、准太さんが心配してたんで、あまりご無理はされないようにして下さいね」
それ以上は何も言わずに、千早に声をかけに行く。
え…体調悪いのバレたのか?

「それじゃ、俺と千早さんは先に行きますね」
「高人!…私、何もできなくてごめんなさ…」
うるうると泣きながら千早が抱きついてくる。
「怖かったろ?もう大丈夫だから、成宮についてけ。いいな?」
千早の頭を撫でてやりぱっと身体を離す。
「早く行かないと、騒動に巻き込まれる。俺も後から行くからな」
千早はこくりと頷くと、成宮に付いて部屋を出て行った。



「は――、やっと1人だぁ――」
ドサッと座り込む。身体が重い。体調が悪いせいで酔いの回りも早い。

力なく座り込んでいると、外の扉が開く。ああ、チュン太が来たのか…

「オヤジこんな離れ作って1人で楽しみやがって…」

チュン太じゃない…っ

どうしよう、鍵はある。牢の中に逃げてしまえば…っ

「お、遊女じゃん!」
ズカズカと入ってきたのは酔い潰れた男の息子のようだ。
「…っ!?」
咄嗟に立ちあがろうとすると、くらりと目眩がして脚がもつれ倒れてしまう。

そうしている間に床に組み敷かれる。
「…やめっ」

「あ?なんだ…お前男か。オヤジが男色家だったとは思わなか…」
舐める様な視線が気持ち悪い。身体が動かない。
「…っ…はな…せっ」
汗ばんで張り付いた髪、熱に浮かされた瞳でキッと睨みつける。 

「こりゃあまた…、オヤジがご執心なわけだ。そうだ。丁度良い、お前で試してやるか。」
俺に馬乗りになったまま、男は袖から小瓶を取り出す。
だめだ…逃げないと…。でも身体が動かない。必死にもがくがびくともしない。
「これ、知り合いの薬師が良く効くってんで買ってみたんだ。媚薬だってよ。」

暴れたせいで酔いが回り、意識が混濁してくる。夢なのか現実なのか分からなくなっていく。

遠くで声がする。

ああ、だめだ、起きなきゃ。今日からまたお座敷だった。…あれ…なんで、お酒飲んだんだっけ…。

―くちあけろ―
なに?

ああ、チュン太?…なんだチュン太だった。
「ちゅんた…口…?」
素直に開けると、とろりとした液体が流し込まれる。
それを、何の疑いもなく飲み込む。喉の奥が熱い。 

「なに…これ…ちゅんた…何を…っ」
また少し意識が浮上する。

「すげー色っぽいな。」

目の前には、俺を組み敷く知らない男。
熱っぽい視線に背筋に寒気が走った。

今、俺は何を…っ。

「もう動けないだろ。」
男は俺を抱き上げると、寝台へと運ぶ。
「は…っ…」
抱き上げられた布ずれだけで身体がビクリと跳ねる。

乱暴に寝台に寝かされると、ジャラリと足枷が鳴った。

「オヤジには悪いが俺が貰ってやるよ。」

「うる…せ…だれが…お前なんかッ」
身体が熱くて、呼吸がうまくできない。
ったく…旦那サマ起きてくれ…お前の息子なんとかしろ!!チラりとみやったテーブルでは相変わらず呑気に眠っている旦那サマ。怒りで意識だけはハッキリしてきた。

「反抗的な態度も唆るねぇ。」
ニヤニヤと笑いながら首筋に顔を埋めてくる男。
息が当たるだけで身体がビクリと反応する。
怖くて涙がこぼれ落ちる。

「…助け…っ」
 
ガタン
突然、戸が開く音がする。
男は気に留める様子も無く首筋を舐める。
「ぁ…んっ!」

「…!?…高人さん!!」
チュン太だ!
「…あ?」
男は苛立たしげに身体を起こした。
その下には呼吸も絶え絶えの俺の姿。
「ちゅんた…ごめ…。」
呼吸が上手くできず涙が溢れる。
「……ッ!!」
空気がざわりと凍りつく。
チュン太は男の着物を掴み、寝台から引き摺り下ろすと、身体を床に叩きつける。
男は身体を床に打ちつけられ腰を摩りながら怒鳴りちらす。
「…いってぇ!!何だてめえ!!」

チュン太は男には目もくれずに寝台で着崩れ動けない俺を見る。足には枷が付いている。
「高人さん、遅くなって…すみません…大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫だからそんな顔するな…。」
泣きそうなチュン太の頬を撫でる。

「てめぇ!無視するんじゃねぇよ!」
男は骨董品の中から刀を掴み取り、鞘から抜くと斬りかかってきた。
チュン太は俺を抱いたまま寝台から飛び退く。
身体を動かされるたびに布が擦れて…身体に快感が走り抜ける。身体が跳ねるのを必死に堪える。
「…んっ」

「高人さん…?」
「大丈夫だから、早く帰りたい…っ」
「そうですね。早く帰りましょう。みんな待ってます。でも、少し待って…」
優しいいつものチュン太のはずなのにヒヤリとする。

チュン太が立ち上がると、男がすぐにまた斬りかかってきた。
「…チュン太あぶな…っ」

刀に速度がついた瞬間に体を躱と、相手の持つ刀の柄を掴み反対の手で刀身を押さえ込む。そのまま切先を回すように刀身を打ち上げ相手に斬り込み刀を奪う。刀を奪いながら腹に切り込む無刀術。
「ひっ⁈」
男は早々に刀から手を離して飛び退く。

「…あー、不意打ちで失敗か。まぁ刀は貰ったからいいか。」

刀を肩にトントンと当てて遊びながらヒタヒタと男に近づくと殺気の籠った目で見下ろす。
「………。」
「よ、よせ…ひっ」
男は尻餅をついて、じりじりと後ろに下がり壁に突き当たる。

「…死ね」
チュン太は刀を振り上げる。
…だめ。これはダメだ。
「…チュン太!」
身体が勝手に動く。ヨタヨタと走り、男の盾になるように手を広げてチュン太を止める。鎖がギリギリで立っていられず、膝をつき、チュン太を見上げる。
「チュン太!…やめろ!」
チラリとチュン太が足枷を見ると嫌そうに眉間にしわを寄せる。
「退いて下さい」

「いやだ。退いたら殺すつもりだろ!?」

「貴方に酷いことしたコイツだけは許せない。」
チュン太は引く気配が無い。振り上げた刀も下ろしてくれない。
「退いて。殺しておきます。」
「チュン太!!」
今持てる気力全てで強く名前を呼ぶ。
「貴方どっちの味方なんですか?その男に抱かれて情でも沸いた?」
すっと刀を下げると哀しげに見下ろしてくる。
「そんなわけ無い!わかるだろ!」
誰よりも分かってる筈だ。なんでそんな事言うんだ。
胸がチリリと痛む。

…チュン太は、抱かれたと思ってるのか?
誤解だ。少しでも怒りを沈めて貰わないと。 

「人なんて殺したら、お前が苦しくなるだろ?荒んでいくだろ?そんなの嫌なんだよ。お前が悪くなるのも嫌だ!こんな奴ら殺す価値もないだろ。それに俺はコイツに抱かれてないから…。そこのオッサンも、酒飲ませて潰したんだ。何もされてない。元々体調が悪かったんだ…だからもう、帰ろう?チュン太。もう俺、クタクタなんだ…。」
力なく宥める様に微笑む。喋り終わると、ふらりと眩暈がして倒れ込んだ。
「…高人さん⁈」
チュン太が刀を捨てて抱き止めてくる。
喋りすぎたかな。空気が足りない。
はぁはぁと荒く呼吸する。

「くそっ…。」
チュン太はギロリと唖然としている男を睨む。

「…ひ」

チュン太は細かな道具の入ったを取り出すと、錐と針金を取り出し、俺の足枷の鍵穴に突っ込んでカチカチっと数回動かす。
程なくして枷は外れてしまった。

「今回は、彼がやめろと言うから殺さないでおいてやるが次はないと思え。」
男がコクコクと頷くのを確認すると、俺を抱き上げるスタスタと歩き出す。

あー…やっと…。
張り詰めていた精神が、チュン太の温もりで解されていく。同時に激しい欲情が身体の中を暴れまわる。
そうだった、まだ終わってなかった。

「ふっ…ふっぁっ。」
小さく隠すように呼吸する。下半身が気持ち悪くて、ズクズクと痛くて、衣服が擦れればそれが痺れる様な甘い感覚に変わり身体が跳ねる。何度か着物も汚してしまっている。熱もあって情けなくて辛くて、涙が出てきた。
「高人さん…どうし…」
チュン太がハッとした様に俺を見ると、苦虫を噛み潰した様に顔を顰める。
「…ごめ、ふっ…安心したら急に…」
「何か飲まされた?」
泣きながらコクンと頷くと、チュン太は怒りを吐き出すように、大きくため息をついた。
座敷牢の部屋から出て、隠れた場所に俺を下ろすと、自分の羽織を脱いで俺に巻いてくれる。
「もう少し我慢して…後で抜いてあげます。」
真剣な顔で頭を撫でてくれてそしてまた抱き上げて歩き始めた。

「だれ…も、いないのか…?」
「深夜だからみんな寝てるんです。今のうちに逃げましょう。殺したらダメなんですもんね。」
「だめだ。」
「…努力しますので、高人さんも危ない事に飛び込むの辞めて下さい。」

「…すまん。」
「身体治ったら、お仕置きなんで。覚えといて下さい?」
ちらりとチュン太を見上げると、全然笑ってない。
「はい…」
黙って出て来てしまった事、かなり怒ってるようだ。
身体は疼くし、怠しいし、眠いし、熱はあるし、酔っ払いだし…頭の中も身体もぐちゃぐちゃだ。

これで十分罰になってるのに…と。言い返したかったが勝てる気も気力もない。
今はこの疼きに耐えて、チュン太に身を任せることにした。


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