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高人さんが猫になる話-if-

14話の事後からの分岐です。

――――――――――


高人さんが人に戻った。
戻ってすぐに存在を確かめるように彼を抱いて、彼は今、俺の腕の中で眠っている。

でも、このまま俺が眠ってしまったら、また猫に戻ってしまいそうで…。不安から、ぎゅっと抱きしめる。
俺だけ置いて先に逝ってしまうような存在にならないで。どうか…。
「高人さん…。」
急に睡魔に襲われる。
いつもなら夜通し起きてるなんてなんとも無いのに、何かに眠らされるように、すぅーっと眠ってしまった。

朝日の眩しさに俺もは目を覚ました。
んーっと伸びをする。

ん?伸び??

手を見ると茶色い毛皮の猫の手だ。

目を見開く。

高人さんは⁈
横の高人さんを見ると、彼はちゃんと人の姿のままだ。ホッとする。

だがどうしようか。これは困った。

「なぁおーん。にゃぁーん(高人さん、起きて?)」
ぺろぺろと頬を舐める。

高人さんが、うぅんと寝返りをうった。
「チュン太、なんだよ痛いぞ…?」
高人さんは目を覚まして、覗き込んだ俺の顔にギョッとする。
「うわぁえぇっ⁈」
わかります。そうなりますよね。

「にゃぁーん。(俺ですよ)」
困ったような顔なんて出来ないけど、じっと見つめた。

「え…チュン太…?」
目をパチパチと2回瞬き。

「…チュン太」
「にゃぁん」

ちょっと泣きそうになってる。
ああ、泣かせたくない。高人さんの身体に乗って、唇を舐める。
泣かないで。

「んっ…チュン太っちょっ!大丈夫だから落ち着け」

その言葉に舐めるのをやめて顔を見る。

「にゃぅん?(大丈夫?)」

「大丈夫…大丈夫だけど、どうするか…」
高人さん思い詰めたように考え混んでいる。
「だめだ、これしか思いつかないな。」
よし、と、何かを決めたように頷く。

俺は、何を決めたの?と、首を傾げる。

「チュン太、お前が猫になったのは、多分俺と原因は同じだ。俺はキスできたら元に戻る呪いだったけど、チュン太のは条件が違うのかもな。」

聞いてるよ。と、尻尾を揺らす。

「とりあえず、あの裏路地に行ってみて、戻してくれないか聞いてみる。ダメならこのままお前と一緒に暮らすし、俺がまた猫にされたら、その時は2人で自由に暮らそう。」
俺を撫でながらいつもは見せない優しい笑顔で言う。
不安にさせない為かな?この人の不安はよく分かる。
昨日までとは逆ですね。

「とりあえず、もう帰れないかもしれないから、置き手紙と、少し部屋片付けとくか。」

高人さんが起き上がると、そこには俺の服と指輪があった。
「あ…っチュン太、ごめん、こんな気持ち味わってたのか。。っ…」
そこには昨日まで高人さんを抱きしめていた俺が居た場所がある。そして、もう居ない場所。

ボロボロと泣き崩れてしまう高人さんに慌ててすり寄る。
「にゃぁお、なぁぁーん(俺はここに居ます)」
泣かないで。居るから。
涙を舐めとる。すると、高人さんが俺を抱きしめる。

わかります。俺も寂しいです。
「ごめん。ごめんな?お前ここに居るのにな。」

いいです。分かってます。

「早く準備して行こう。」

高人さんは、軽く部屋を整頓して、リビングには書き置きと、指輪を2つテーブルに置いた。

「戻れたら万々歳だ。戻れなかったら俺もまた猫になりたい。」

俺を抱き上げると、高人さんは俺の部屋を後にした。

朝早く、まだ人通りの少ない繁華街で、裏路地へ入っていくと、そこにはあの猫の影がゆらゆらしていた。

「ヴゔぅ…」
あれが良くないモノだと一瞬で理解する。高人さんは俺が落ち着くようにと撫でてくれている。

「お願いだ、チュン太を元にもどしてくれないか?」

言葉が頭に響いてくる。

-いやだ。僕1人は寂しい。君は猫で居たくないようだから、君の番を猫にする-

「じゃぁ、3匹なら寂しくないだろう?俺から番を引き離さないでくれ。」

-ああそれは良いね。じゃあ君も猫に戻してあげよう-

-幸せになってね-

クスクスと笑う声が聞こえて、高人さんはグラリと倒れた。

「にゃ⁈にぁぁん!」
倒れた高人さんがどんどん小さくなっていった。

――――――――――――――

「高人さん!」

「チュン太、どうなったんだ…。」
俺はよろりと立ち上がる。

チュン太を見ると、猫のままだ。
「あれ、声分かるな、」
「高人さんも猫ですからね。」
困ったよいにチュン太が言う。
ああそうか、猫になれたんだ。良かった。
「高人さん、高人さん…これからよろしくお願いします。」
擦り寄りゴロゴロと喉を鳴らす。
「こちらこそよろしくな。」
恥ずかしくなってぷいっと顔を背ける。
猫になって思ったが、
「猫でもお前はキラキラしてるんだな。」
毛足が長い明るい茶色い猫だ。ガタイも良くて、タレント猫と言われても納得してしまうほどだ。

「高人さん分かってないですね、貴方もかなり美人猫ですからね?自覚してください?」

2人で笑い合う。

「さて、これからどうするか、」
俺が考えていると、
「港町にでも行きましょう。都会よりは過ごしやすいと思いますし。荷物を降ろした魚屋さんのトラックを狙いましょうか。」

チュン太はふっと姿勢を正し、耳と鼻を有効活用する。

「もう猫らしいな、お前。」
「頂いた能力はフル活用する主義なので♡」

いきましょうか!と、チュン太が走り出す。
俺はその後をついて走った。

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あまり遠くない港町に向かうトラックを選び、こっそりと飛び乗る。冷蔵付きだと乗れないなという判断だ。高速道路を直走るトラックの中でチュン太は始終鼻をクンクンとしていた。

「何してるんだ?」

「周囲に何があるのかなと思って、嗅ぎ分けの練習です。」
ふーん。
おれもやってみるが、排気ガスの匂いしかわからない。
「これ嗅ぎ分けれるか?」
げんなりしたように言う。
「まぁ…多少は。あ!海が近いですね。高速道路降りるかもですね。」

減速するトラックは下道を走り始める。
今度は、俺も分かるほどに海の香りがしてくる。

「そろそろ止まりそうですね。」
チュン太の耳がぴんと立つ。

海の音と、人の声、車の音。
「開いたら飛び出ます。」
「おぅ!」
チュン太が隣にいるとなんでも出来そうな気がした。

トラックが完全に止まると、荷台がガタンと開く。
開いた瞬間勢いよく飛び出して走り去る。
「高人さん、車気をつけてくださいね!」
「う、気をつける。」

「わぁ、チュン太!海だ!」

そこは、市場近くの小さな港町だった。船着場は今は誰も居ない。
「新しい居場所ですね。ナワバリ争いとかありそうですけど、まぁ、なんとかなるかな。」
スンスンと鼻で情報収集をしている。

「完全に猫思考だな。」
呆れたように言う俺に、
「順応能力には自信ありますから。」
にこにこと笑い、俺の毛繕いをしてくれる。
「チュン太、ありがとうな」
俺もチュン太の頭の毛をペロペロと舐めてやる。

「あれ、高人さん?」
「ん、なんだ…?」
突然、チュン太が俺をパタンと押し倒して仰向けにする。

「高人さん、雌ですね…」

「はぁあ?!!嘘だろ?…」
ほんとだ…無い…。あるはずのものが…。

「やられましたね」
あははと笑うチュン太。
「でもこれで、あなた、妊娠できちゃいますけど…?」
俺の顔を覗きこみ、ニィとチュン太が笑う。
「落ち着いたら子作りせっくすですね〜。」
ふふふ。と鼻を舐められた。

あの猫の霊に3人で…と言ったからだろうか。
なら、幸せになろう。
もう少し待っててくれな。



このお話は、もしものお話。
俺とチュン太が猫になる話。

end

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