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遊郭で高人さんを見つけました。25[BL二次創作]

東谷邸で二晩身体を休めた俺は、花房屋に戻るだけの体力を回復させて無事に帰ってくる事ができた。
チュン太は花房屋に俺の状況を報告していたらしく、お咎めは一切なかった。

今日から仕事復帰だ。
今日はお国のお偉いさんが外国の要人を連れてくるとかで、遊郭地区はこの御一行に貸切にされている。

朝、いつものように外を眺めていると、東屋の荷馬車が入り口に着けられているのが見えた。

花房屋は、座敷での宴を担当するため沢山の食材が運び込まれいてるようだった。
「こりゃ厨房も大変だな。」
花房屋の料理は美味くて有名なので、その点は問題無いだろうが、予約人数も多いため、てんてこ舞いなようだ。
忙しそうに荷を運ぶ男たちに指示をして、花房屋の板前と話をしているチュン太を見下ろす。

「働いてるなあ。」
ふふっと笑うと、チラリと視線が合って、ほんの一瞬ふっと優しい目で見つめられる。
「――っ!?」
途端に顔が真っ赤になってぱっと顔を隠してしまった。ドキドキと心臓が高鳴る。最近、些細なことでも心臓が騒ぎだす。
「前は、こんな事無かったのに」
あの余裕はどこ行ったんだ俺!顔の火照りが落ち着くと、またはチラリと外を覗く。しかし馬車はあれど、チュン太の姿は無い。建物で隠れているのかな?と周りを見るが居ない。

「高人さん。」
「ひやぁい!?」
耳元で囁かれて飛び上がる。顔が真っ赤になり耳を抑えて振り返るとチュン太がいた。
外ばかり見ていたから部屋に入った事に全く気付かなかったらしい。
声を掛けた当の本人は、驚いたのかきょとんとして止まってしまっている。
「…、高人さん今のもっかい聞きた…―」
「無理に決まってんだろっ!ばか!」
「えー…」
残念そうにしていたが壁を背に俺の隣に座ると俺の顔を覗き込む。
「さっき、俺のこと見てくれてました?」
「見てたよ。働いてるなーって」
「俺も気づいてましたよ。」
先ほど、下から向けてくれた優しい笑みを見せてくれる。
「しってる…」
一瞬目があったから。恥ずかしくて顔が見れない。
「高人さん、顔みせて?」
「やだ…」
しばらくチュン太は俺を見ていたが、目を合わしてくれない事に諦めてふぅとため息をついて、話題を変えてきた。
「そうだ。これ。頼まれてたものです。」
話題を変えてくれた事で俺もチラリとチュン太を見る事ができた。手元を見ると綺麗な細工のされた護身刀があった。
「…綺麗だな。」
「使わないに越した事は無いので、できれば装飾品として楽しんで下さいね」
「ん、そうだな。」
手のひらくらいの刀身に鍔の無い護身刀。鞘から少し抜いてみると、刃紋が揺らめく翼のように見える。本当に美しい。
「チュン太、ありがとうな。」
ゆっくり鞘に戻して引き出しに仕舞った。

「さて、今日はもう帰ります。高人さんも忙しいでしょうから。」
帰りますと言いながら、頬に手を添えて啄むように口付けててくる。
「…っ…ん…ふっ」
くちゅっちゅっと少しずつ深く味わうように深く深く口付けてくる。ひとしきり口付けを楽しむと唇が離れてしまう。名残惜しくてチュン太を見ると困ったように笑う。
「今日は見世貸切なんでしょう?だからちょっとだけ…。高人さんを補給させてもらいました。」
口付けの余韻が抜けきれず思考がふわふわしてしまう。そんな俺を見てクスリと笑う。
「また明日来ますね」
「ああ…」
チュン太はそう言うとまだ余韻の抜けない俺の額に口付けて部屋を出ていった。

―――――――――

夏の夜。
夜の帳が下りる頃、遊郭地区は軍人の客で賑わい、花房屋は政治家と海外の要人達の接客でてんてこ舞いだ。
俺はと言うと、今日は座敷には上がらずに裏方仕事だ。勿論、服装は花魁で、あまり派手すぎず装飾も少なめである。
要人は海外の軍人で海兵のようだった。部下の数は数百人うち役職持ちが30人程度。花房の宴に参加しているのはそのお偉い方とお国の軍人、政治家達だ。
後の部下達は思い思いに遊郭地区で遊んでいるようだった。
軍人は気性の荒いものも多い。座敷に引っ込んでしまうと何かあった時に対応できない。男衆も今日は外の見回りと中の見回りで人手が足りない。
そこで俺も加勢する運びとなったのだ。

花房は客を取る事もない座敷のみの予約なので手の空いた遊女たちに給仕の指示をしながら、3つの座敷でそれぞれ進む宴の様子を見て回った。


「お前も遊女だろうが…少しくらいよかろう?」
「お客様いけません…私は禿でございます…このような」
渡り廊下の暗がりを通っていると、さっそく良からぬ声が聞こえてくる。宴が始まりまだそれ程時も立っていないというのに、もうこれだ。

「まぁまぁ、こんな暗がりで何をされているのです?」
俺は月夜に照らされた渡り廊下でしっとりと笑みを湛える。
「あ、いや、なんでもない。」
男がこちらに気を取られている隙に、チラリと禿を見て逃げろと合図を送ると、さっとその場から離れていく。男は気付かずに、こちらに釘付けのようだ。

「さぁさぁ、旦那さま、お座敷はこちらでございますよ。」
「今宵は楽しまれて下さいましね」
「あ、ああ。」
最上級の笑みを贈り、座敷に戻すと、また見回りを始める。
「勝手が分からん客は何するか分からんな。」
はぁーとため息をつきながら歩いた。
その後も同じ様な出来事が3件、廊下でぶつかってご立腹な要人が1件。海外の軍人さんで言葉が分からなくて、道に迷っていた迷子を座敷に戻すのが5件。

外国語はわからないけれど、目を見れば大体思っている事はわかる。厠を探していたり、座敷に戻りたがっていたり、夜風が当たる静かな場所を探していたり。

本日8人目はそんな夜風を求めた御仁だった。
金髪で目が青い。異国の容姿の男だ。
廊下でキョロキョロと周りを見る姿が目に止まり、優しく肩に触れる。
「何かお役に立てる事はございますか?」
男はすっと後ろを振り向くと、ほっとしたように何かを喋ろうとするが、口をつぐんだ。

ああ、言葉か。
頭ひとつ高い彼の瞳をずいっと近づき見上げて見つめた。
彼は顔を赤めて、目逸らしてしまう。まいったな。という風に虚空を眺める。
「…You are close.」
「くろーす?」
きょとんとして相手を眺める。どこに行きたいか知りたいだけなのに。やけに美麗で、軍服だが軍人には見えなかった。
とりあえず、色々連れ回してみよう。このまま放っておくわけにもいかない。

相手の袖を引っ張りこちらを向かせると、にこりと笑って、一緒に行こう。と廊下を指さす。

彼は、うんうんと頷いて付いてきた。

まずは王道から。
「ほら、廁だ。」
もう英語しかわからないと気づいたので普通に喋る。
男は廁は分かるようで、あはは。と笑って被りを振った。違うらしい。
「そっか。んじゃ次は、座敷の前で困ってたから迷子じゃないし…。」
うーんと悩む様子をにこにこしながら見られている。

「宴会で疲れた感じか?」
ふと思い立って、中庭に案内する。敷地も広くて散歩もできて酔いを覚ますのにちょうど良い。

渡り廊下から石畳へ降りるための下駄が準備されており、それを履いて外に出る。
ちらりと男を見ると、ふふっと笑ってコクリと頷いた。
1人になれる場所を探していたようだ。
「良かったな。」
こちらもニコリと笑う。
俺はもう行かないといけない。その旨を伝えるべく、自分を指差すと、今度は渡り廊下を指差して一礼した。男は名残惜しげに手を振ってくれる。

渡り廊下に戻り、月夜を見上げて、時折吹く風に気持ちよさげに目を細めるそいつを見る。
「軍人でも話の分かるやつがいるんだな。」
良いものを見た。チュン太に言ったら嫉妬しそうだから言うのはやめておこう。クスクスと笑いながら見回りを再開した。

つぎに見つけたの酔っ払いの外国軍人。ヨタヨタと渡り廊下を歩いていたので危ないと思い声をかけようと近いた。廁なら反対方向だし、こちらにはもう中庭と厨房があるのみだ。

「もし、大丈夫でございますか?」
歩み寄りヨタつく身体を支えると、ギロリと睨まれる。
「Don't talk to me!」
あーもう。外国語!!なんだよったく!!
何言ってるかわからないから内心腹が立ってくる。
頭2つ分くらい背が高いそいつは、俺を威圧的に見下ろしてくる。俺は日本語しか喋れないからここの言葉で伝えるしかない。
「こちらには、もう厨房しかございません。あちらへお進みください。」
そう言って相手の後ろを指差す。
何かガミガミと言っているが、俺も引かない。
そんな威圧されてもさして恐くも無いため指を刺したまま相手の目を見つめるのみだ。

逆上した大男は俺に危害を加える事にしたのか、大きくを振り上げた。

あ、これもしかして身請け案件か?
いや、これを適応させるのは、流石に横暴というものだ。また暫く店に出れない…――な?
目を閉じて痛みに備えていたら、大男は何もしてこない。

ふと後ろを見ると、さっきの金髪軍人が俺の後ろで大男を見上げていた。
俺が見ているのに気づくとニコリと笑って俺の前に出た。

「Go away」
何を言っているか分からないが、怒っているのはわかった。大男は青ざめた顔で敬礼をしたあと、もと来た道を走り去って行った。

「あ、ありがとう…ございます。」

「いいえ。無事で良かったデス」
へ?と、呆然と金髪軍人を見る。
彼はニコリと笑い、座敷へと戻っていった。

そんなこんなで、その後は特に問題もなく宴は続き、そして夜遅くにお開きとなった。


ようやく全てが終わり、休めるころには朝方になっていた。布団に入ると今日の出来事が色々浮かんでくる。

「チっ…アイツ喋れるなら最初から喋れよ。」
おかげで要らない時間をくってしまったではないか。
ふん!と不貞腐れたように言うとバサっと布団を被って眠りについた。

明日はチュン太に会える。楽しみだ。

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