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ラスボスが高人さんで困ってます!7

手が掛かる。

俺の配慮が足りなかったのは確かなのだけど。
何せ仲間とか友達とか…初めてなんだ。
俺はただこの国の長で学校の先生。これだけだ。
同等に接してくる相手の接し方がわからない。後から考えて反省する事ばかりだ。

夜が明け、太陽はだいぶ高くなったが、チュン太はよく眠っている。そう言えば、こいつの寝顔なんて初めて見たかもしれない。いつも俺より早く起きて食事の支度をやら家事やらをしてくれていた。
サワサワと心地よい風が吹く。ここは村と違い夏でも過ごしやすい。
翼で影をつくって少しでも長く寝ていられるようにすると、俺もまた一眠りする事にした。

しばらくして目を覚ますと、チュン太の重さが無い事に気付く。
ムクリと首を起こし、キョロキョロと周りを見渡す。

『チュン太??』
「あ、高人さん起きましたか?」
また水浴びをしていたチュン太が泉から上がる。

『また波が来たのか』
「はい、まぁ、仕方ないですし1人で居るよりはだいぶマシなので。」
着物を着ながらチュン太は言う。
『チュン太、せっかく山まで来たし、村の皆んなに土産を準備するか。』
「お土産ですか?」
チュン太はきょとんとする。
『肉だよ肉!この辺の魔物は大きくて食いでがあるんだ。ちょっと大きめなやつを狩って持って帰ろう。お前も身体訛ってるだろ。』 
チュン太が少し驚いたように目を見開くと、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。いいですね。お土産。俺も色々試したかったので、丁度良かったです。」
『じゃあ、狩場行くか。大物狩って土産にしよう。』
ムクッと起き上がり、背を低くしてチュン太を見ると、気付いたように背に乗ってくれる。
「失礼しますね。」
『しっかり捕まってろよ』
ヒュぅぅっと風が、俺の周りに発生し、身体を包む。
翼を広げ、軽く羽ばたくとフワッと浮いた。
そのまま下から吹いた強い風に乗り更に高く飛ぶ。
「この風って…昨日も思いましたけど、竜化したら言霊要らないんですか?」
『簡単な事なら思うだけで手伝ってくれる。』
「へぇ。思えばいいんですか?竜は凄いですね。というか高人さんはやっぱり凄いです!。」
『だろ!』
ふふん。と笑うように言う。チュン太がふふっと優しく笑っていたが俺は気付かない。

あった、あそこだ。
泉からさほど離れていない場所に狩場があった。
適当な場所に降り立つとチュン太が背中から降りる。
『そういえば、試したい事ってなんなんだ?』
「ああ、昨日習った事を活かして木の枝でどれだけ戦えるかなっと思って!」
ニコニコ笑いながら、チュン太が木の棒を楽しげに拾い集めている。

「俺、どうも無意識に魔力を身体強化に使ってたみたいです。火事場の馬鹿力かと思ってたんですけど。だからSランクになれたんです。」

『ふーん?』
竜の血が入ってるなら当然だろう。
「今まで、周りの人とはどこか違うくて、俺の感性が特殊だからかなって思ってたんですけど…」

チュン太集めた木の棒をバラバラと地面に落として、その前に立つと手をかざす。木の棒は、パキッ…パキッと音をさせながら浮き上がる。

削るのではなく、凝縮させて錐のような型に仕上げていく。俺はチュン太のやる事をジッと眺めていた。

「ここに来て、自分が掴めたような気もします。…でも、やっぱり全てに共感できる訳でもなくて、自分が人間なんだと実感する事もあります。」

ズドン…ズドン…と地鳴りのような音が近づいてくる。
木からバサバサと鳥たちが飛んでいく。その木をバキバキと押し倒して現れたのは巨大なイノシシの魔獣だ。だがチュン太はまったく気にする様子がない。

「人間族にも亜人族にもなれない。俺は結局、どっちなんでしょうね。」
『…。』
何も答えられない。

チュン太はふっと笑ってイノシシを見る。
「俺が倒してもいいですか?」
『ああ、頼む。』

木の棒を浮かしたまま、言葉に魔力を込めていく。

―"風の精霊にお願い申し上げる。"―
ひゅぅうっとあたりの風が集まり始める。
―"その息吹をもって我が刃を覆い大地との繋がりを断ち、疾風のごとく駆け抜け彼の者を貫け。"―

全ての枝の周りにゴゥッと風が巻きつく。バタバタって着物がはためき髪が乱れる。

『おま…まだ縛りが足りねーぞ』
「あはは。一本で良かったかな。全部使ったら食べるとこ無くなりそうです…ねっ!」
スッと上げていた手を、一気にふって下げると枝の一本が、ギュンッとものすごい速度でイノシシに向かっていく。

死を察したイノシシが踵を返そうとした瞬間、首に枝が刺さり頭が消し飛んだ。血の雨と共にイノシシは地響きをさせながら倒れる。

『……』
唖然と見つめる。なんでこんなに強いのか。
チュン太は他の枝の魔法を解くと獲物の方へ歩いていく。

「高人さん、ここで捌いて帰ります?血抜きだけしちゃいますか?」

体長10メートルはある魔獣を一撃で倒した男は俺を見てへらりと笑った。

結局、イノシシはそのままでは持って帰れなくて血抜きして捌いて持って帰った。村に帰るとそれはもう大騒ぎだった。肉はみんなに振る舞われその夜は大宴会だった。

「おかえり先生!居なかったから心配したんだよ!?チュン太も!」
颯太や雛菊たちがぱたぱたと近寄ってくる。

「ああ、ただいま!ちょっとお出掛けしてたんだ。お土産美味しかったかー?」
「お肉美味しかったー!」
「いっぱい食べたよー!」
俺は子供たちの目線になるように座ってニコニコと笑いながら子供達と話す。チュン太は村の男達に囲まれて酒を飲まされていた。話しながら肩を組まれてつぎつぎと酒を勧められて困ったように笑っている。

まぁ、通過儀礼だ、頑張れチュン太。

「チュン太が狩ったんだ。チュン太にもお礼言うんだぞ?」
子供達の頭を順に撫でながら俺は言った。

「おい…大丈夫かっ。」
たらふく飲まされたチュン太は顔を真っ赤にしてぐったりと俺に支えられている。

「すみませ、ここの人みんな酒豪ですね…俺も酔わない自信あったんですけど…むりでした。」

俺の部屋に連れていくと布団に寝かせる。
「俺の匂いあった方が落ち着くだろ。」
「うー…たすかります〜…」
枕を抱えてスンスンしながら横になる。スリスリと顔を擦り付けては幸せそうにまた匂いを嗅いでいた。パタパタ…パタパタと思い出したように尻尾が動く。

…変な動物が出来上がったな。
「水持ってくるな」
台所に行って瓶から一杯の水を汲む。湯呑みに入れてまたチュン太のとこに持っていく。
「チュン太、ほら、水飲め。」
横に座って湯呑みをヒタリと頬に当てると目を開けて見上げてくる。
「ありがとうございます〜。」
ムクリと起き上がると、水を受け取りごくごくと飲み干す。湯呑みをコトっと置くと、ぐいーっと布団に引き込まれてしまう。
向かい合わせに俺を抱きしめて擦り寄ってくる。
「高人さん、一緒に寝ましょう。俺頑張りました…疲れました。ご褒美は高人さんがいいです。」

確かに頑張った。10メートルの巨大を捌いたのはこいつだ。精霊魔法を駆使して、スパァンスパァンと切り分けていった。
魔法便利です!なんて意気揚々と言っていたが、あんだけ魔力使ったら、そりゃ疲れるだろう。その上あれだけ呑まされたのだ。新参者の宿命とはいえよく倒れず最後まで頑張ったと思う。

「よしよし。よく頑張ったな。」
チュン太の髪を撫でてやると嬉しそに目を細める。
「高人さんが褒めてくれるなら何でも出来そうだ」
撫でる俺の手を取りキスをしてくる。
「なぁ、昼間に言ってた、やつ」
「ん?」
「人間にも亜人にもなれないって言っていたやつ。」
「…はは。弱音…すみません。」
「チュン太は人間族と亜人族の両方が分かるんだろ?凄い事だぞ?お前は平和の象徴で宝だ。だからそんなに自分を追い込むな。」
チュン太に寄り添い背中を撫でると、ぎゅうぅっと体を抱きしめられる。
「高人さんは俺を喜ばせるのが上手い。いつか俺が貴方の手を引いて歩ける日が来ると嬉しいな。今は貴方に手を引いてもらってますから。」

「こんな大きな子供は大変だな。でも可愛いから俺は構わないぞ?」
擦り寄ってくるチュン太の髪を撫でてやる。本当に、俺が居れば落ち着いている。寝る時は一緒がいいな。
しばらくすると、チュン太の寝息が聞こえてくる。

「おやすみ、チュン太。」
月明かりが差し込む部屋で俺達は寄り添いながら眠る。

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