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遊郭で高人さんを見つけました。24[BL二次創作だかいち]

真っ暗で何もないただの寝る為の穴ぐらだった。
引きっぱなしの布団も、澱んだ空気も、別に気にもならなかった。

そんな家に高人さんを連れてきた。朝起きて、高人さんが隣に眠っている姿を見て、俺に出来ることは何かないかなと考えた。初めて人の為に何かしたいと思った。

だから朝食を作った。
いつも1人分を作るのは億劫だったのに、2人分作るのはすごく楽しかった。

今もこうして、普段は憂鬱だった後片付けを楽しくこなせている。
何やらガタガタ、ガラガラと賑やかな音が聞こえてくるが、高人さんが雨戸を開けてくれている音だろうと、耳を澄ましている。
まるで家が生きているようだ。こんな日がずって続けばいいのに。

台所を片付け終わって居間に上がると、ぱたぱたと高人さんが走ってくる。
着物の裾を膝上で結び、生足を披露してくれていた。
「高人さん、…またなんて格好してるんですか…」その露わになった肌の隠れた先に手を伸ばせば、彼をその気にさせるのも容易いだろう…なんて考えが頭を過ってはダメだダメだと振り払う。今日は手は出さないと心に決めていた。なるべく見ないように心掛けよう。

高人さんはこちらの思いなど梅雨知らず、見世では見せた事の無い楽しそうな笑顔を見せてくれている。
「縁側明るくなったぞ!」

手を引いてくれる先には、眩しい日差しと初夏の風の香り。いつも真っ暗な我が家とは思えない。
へぇ、こんなにも違うものなのか。
「ほらな!こっちの方がいいだろ!」
そう言って振り返り、自信たっぷりに笑う貴方は、本来の貴方らしい貴方なのだろう。
キラキラ明るくて、とても綺麗だ。確かにこちらの方が素敵だ。
「本当ですね、凄く明るい。綺麗だ。」
この笑顔をずっと守れたなら、どんなに幸せだろうか。でも貴方は貴方の意思て俺の元に来る事は無いのだろう。
「なんでそんな顔してんだよ」
高人さんは困ったように頭を撫でてくれた。

生涯をこの人と共に歩めるのならば、俺は命に換えても貴方を守り幸せにすると誓えるのに。

「高人さん、本当に俺のとこ来てくれませんか?」

断られると分かっているのに口をついて出てしまった言葉にハッとする。

高人さんは本から目も離さない。
「くどいな。お前の提案だと、俺はお前の専属になるってだけなんだよ。俺が男娼でお前が身請けするってのはそういう事だ。お前だって分かってるだろ?お前には将来もある。なら俺は見世の子供達を育てる道を進みたい。」

…俺の将来ってなに?

俺は貴方との未来しか見えていないし見るつもりもない。この人は俺という人間をまだ分かっていない。人並みに生きて欲しいなどという心遣いなど無意味だ。
だって、貴方しか要らないのだから。

「…そう…ですよね。わかりました。」
分かってない。口元だけで笑う。
貴方は、本当の意味での自由を求めているけれど、それを待っていたら俺は貴方を手に入れる事はできない。

高人さん、欲しい物は自分で掴みに行かないと手に入らないんですよ。


「は?身請けってどういう事だよ!」
契約書を読んで、騙されたとばかりに抗議してくる。
貴方は人を信用しすぎる。危なっかしくもあり、そこが可愛いくもある。

「高人さん契約書っていうのは、署名する前に内容を確認しないとダメですよ。」
これで、貴方が考えなしに飛び出したとしても俺の物になると思えば喜んで貴方を助けられるだろう。
貴方の悔しがる顔を見ながら、俺は嬉しくて、ふふふと笑った。
彼はまた縁側の定位置に戻り本を開いた。
頑なに、身請けは受けないと豪語する彼の隣に座り、俺は空を眺めた。
身請けなんて嫌だと言いながら、俺のこの先を案じてくれる。
「そーですか。言ってて下さい。必ず、手に入れますから。」
貴方と過ごす世界は本当に綺麗だ。空も、海も、山も庭の草花でさえも。もう手放せない。
本に目を落とす彼に目を向けてじっと見つめる。
「高人さん。」
「なんだよ…」
本を読んでいるはずの彼から直ぐに返事が返ってくる。

「大好きです。」
「――っ!?」
身体をびくっとさせて本で口元を隠してこちらを見てくる。

「な…いきなり何…っ」
顔を赤く染めているのが目元だけ見ても分かってしまう。そんな彼を俺は見てふふっと笑う。
「俺、貴方を好きになれて幸せです。」

だから貴方のことも俺の手で幸せにしたい。

「高人さんは俺のことどう思ってますか?」
真剣に彼を見つめる。
高人さんは更に顔を赤くさせて目を泳がせていた。
「……す…――っ」
何か言いたげな高人さんの小さな声に耳を澄ます。
赤い顔で何を言ってくれるのだろうか。
「す…?」
思わず聞き返してしまう。

「…―っき……、ッやき!すきやき食べたい…!!」
「…え?」
俺はきょとんとしてしまう。
「今夜はすき焼き食べたい!」
高人さんの顔が真っ赤だ。
「ぷ…っははははっ…くくっ」
「何笑ってんだよ。いいじゃねーか!」
高人さんは、恥ずかしさを紛らわすように怒ってしまった。初めて身体を重ねた日以来、好きとあまり言ってくれなくて寂しくはあるけれど。こんな愛らしい姿を見たらもう何も言えない。

「すき焼きですね。わかりました。買い物いきましょうね。…ふふっ」
笑いすぎて浮かんだ涙を拭いながら俺は言った。

「……好きだよ。俺だって」
不意に隣から欲しかった言葉がかけられて、ハッとして彼を見る。本で顔を隠して、見えないようにしていた。
「高人さん、顔、顔見せて?」
すがる様に彼を抱きしめてそのまま押し倒して組み敷く。俺と高人さんを隔てる本を抜き取ると、真っ赤になって目を逸らす、可愛い彼の顔が現れた。

「高人さん、もう一回、お願いします。」
真剣に、乞うように、乾いた心を満たしたくて。彼を見下ろす。
「俺も…すき…っ」
恥ずかしさに耐えて顔を真っ赤にして…。
次の瞬間には、俺は高人さんに口付けていた。
「ちゅた…んっふっ」
「高人さん…ッ…すき…っ」
深く深く彼の舌を追いかけて、絡めて吸った。
少し呼吸が荒くなってきたところで唇を離した。
銀糸が糸を引き、高人さんの舌が名残惜しそうに追いかけてくる。でも、ここまでだ。
「ふふ、気持ちよかったですか?」
蕩けた顔でこちらを見る高人さんの頭を撫でる。
「もう、おわり?」
その言葉に胸が高鳴る。お酒でも薬のせいでもない、本当の彼のおねだりだ。
「これ以上やっちゃうと、すき焼き準備する時間無くなっちゃいますからね。」
困った様に笑う俺を見て、高人さんは顔を真っ赤にしてまた本で顔を隠しまう。
「夜に、また続きしましょうね。」
「…っ…」
耳元で囁くように言うと、高人さんはこくりと頷いてくれたのだった。

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