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遊郭で高人さんを見つけました。2 [BL小説#だかいち#二次創作]

夜も更けて、静かな座敷に2人きりだ。
そこで酒を勧められて困惑していた。

おかしい。俺はコイツに、たらふく酒を飲ませたはずだ。他の客以上に飲んでいるはずなのに、えらく涼しい顔をしている。

「東谷さま?…あれだけ飲まれたのにご気分は大丈夫なのですか?」

一応聞いてみるが、本人はきょとんとしていた。
「…言うほどの量は飲んでいませんよ。それよりほら、どうぞ。」
トクトクと注がれた透明な液体は、ゆらゆらと水面にを揺らす。

「では頂きます。」
ぐいっと飲み干すと、芳しい酒の香りと共に、喉が熱くなる。
その様子を見ていた東谷はニコリと笑う。
「イケる口ですね」
「当然でございましょう。花魁が飲めなくてどうします?」
お前も飲め。とばかりに、東谷の盃に酒をなみなみと注いでやった。
「夜霧さんも飲んでください?」
東谷もまた、並々と俺の盃に酒を注いだ。
上等だ。

ふたりでふふふと笑いぐいっと飲み干す。

「夜霧さん、ちょっと勝負しませんか?」
東谷が何か思いついたように提案してきた。
「勝負ですか?」

「お酒をどのくらい飲めるか勝負です。もし俺が負けたら、ここの代金2倍払います。俺が勝ったら、貴方の今夜を俺に買わせてください。」

ふーん、俺に興味があるのか。
俺は盃にちびちびと口をつけながら聞いていたが…。

「私ではなく、もっと若い花魁にしては?残念ながら、私はもう春は売っておりません。」

「今日のところは春を買うつもりは無い。貴方の朝までの時間を買いたい。貴方にとっては悪い勝負ではない時思うのですが、いかがですか?」
東谷は顔色を伺うように俺を見ている。

勝てば料金2倍。お連れの方々の揚げ代、飲食代、その他遊戯や舞の料金だ。おそらく普通に払っただけでも、軍人の給料2ヶ月分くらいにはなっているはずだ。それを2倍か。
ふふんと笑う。
コイツはこれまでかなり呑んでるから、俺が潰れる前に潰してやるわ!!

なにやら東谷が笑っている気がするがお構いなしだ。

「わかりました、勝負いたしましょう!」
「では決まりと言う事で」
東谷は楽しそうに酒の追加注文をした。

―――――――――――――

コロコロとよく表情が変わる面白い人だ。
准太は楽しげに夜霧を見つめる。
料金2倍の話をした時など、ぱっとこっちを見てまるで猫のように俺を見極めようとする。
自分に有利と思った時の反応に至っては隠れてクスクスと笑ってしまった。

面白い人だ。もっと見ていたい。

「ではどうぞ。」
「東谷さまもどうぞ?」
2人とも盃と並々と酒の入った徳利を手に持っている。
お互いに酒を注ぎ合って飲み進める。
しばらくすると、お互いのまわりは空の徳利がずらりと並んだ。

「…東谷さまァ〜?」
「なんでしょう?」
夜霧はトロンとした目でこちらを見ている。その顔にゾクリとし押し倒して唇を貪りたい衝動に駆られる。だが表には出さない。こんなに他人に興味を持ったのは初めての事で、知らない自分に驚くばかりだ。

「東谷サマァ〜!」
夜霧が急に叫ぶ。
「はいはい、なんでしょう?」
これは俺の勝ちかな?と思いながら酒をぐいっと飲み干す。

「東谷さまァ〜…、東谷ァ!なんで酔わないんらよ!見世は女と遊ぶ場所だろーがぁ!こっちはなぁ!お客に楽しんでもらうために命かけてんらよ!わかってんのかこらぁ。見世に来て楽しまないで帰るなんて許さねーぞぉ?…ヒック」

あれ、なんか口調が乱暴になったな。
ちょっとびっくりしてしまい、呆気に取られる。

「聞いてんのかぁ!あじゅまやぁ…ちゅんたぁ!」

「ふふっくくッ…っ」
顔を背けて口元を手で隠し堪える様に笑う。
「こらぁ!わらうなぁ!」
よほどお気にめさなかったのだろう。怒る姿が可愛らしい。
「あはは。十分楽しませて貰いましたよ。」

こんなに笑ったのは人生で初めてかもしれない。

勝負は…俺の勝ちだな。
夜霧くたりと眠ってしまった。

俺は立ち上がると夜霧を抱き上げて広間を出た。見世の者はすぐに駆け寄ってきた。今夜は夜霧と過ごしたい旨を伝えると、承諾されたので夜霧の寝間へ案内してもう事になった。

腕の中ですぅすぅと寝息をたてる夜霧を優しく見つめる。

「女性とばかり思っていましたが、すみません、男性だったんですね…。」
困ったように笑う。本当に面白い人だ。
酒に酔って声を荒げていたくらいから、あれ。となっていたが、抱き上げてみて分かった。
人を見る目には自信があったのだが、見破れなかったな。声色さえも女性に似せるとは。

男性か女性かなど、ただの情報の断片でしかない。
大切なのは、"貴方"である事だ。

「貴方の事がもっと知りたいです。」
歩きながら、眠る夜霧の額にふわりと口付け、床の間へと入っていった。

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