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高人さんが猫になる話。後日談3日目

次の日は、体の負担を考えてチュン太の部屋で1日ゆっくりと過ごす事にした。
本を読んだり音楽を聞いたり。
昼下がりの暖かい陽気がリビングに差し込み心地よい眠気を誘う。
チュン太も隣で台本を読み込んでいる。ぴたりとくっ付いているので温かい。

「お前、仕事は大丈夫なのか?」
「はい。調整してもらってますから。俺も高人さんがお仕事の日からです。CMの撮影2本と雑誌インタビューと、ラジオゲストですね。」
「…多くないか?」
「そんな事ありませんよ。夜遅くなるかもですが、高人さんはちゃんと佐々木さんに送ってもらって下さいね?」
念を押すように言われてしまった。まぁ1人で帰っていて行方不明になってしまった前科があるのだから仕方がない。
「はは、わかったよ。」
窓から入る陽気に目を細めた。
「暖かいな。こんな日は昼寝にかぎる。」
ぐぅーっと伸びをしチュン太にもたれ掛かる。
猫になる前はこんな事を思った事もなかった。

「猫の時の高人さんみたいですね。」
頭を梳くように撫でてくれる手が気持ちいい。
尻尾があればユラユラと揺れていそうだ。
「猫の時は自由だったな。」
思い出すようにつぶやいた。
「戻りたいですか?」
台本から目を離して、もたれ掛かる俺の髪にキスをした。
「戻りたいと言ったらどうするんだ?」
イタズラっぽく見上げてやる。
すると、少し驚いたような顔をするが、すぐに微笑んで言った。
「そうなったら、俺も神様に猫にしてもらいますよ。」
ふふふと笑うチュン太のそれが、この騒動でたどり着いた自分なりの答えなのだろうか。
「お前が猫になったら誰が養うんだよ」
ははっと笑って言ってやる。すると、チュン太はニコリとする。
「2人で港町とかで暮らしましょう?トラックに飛び乗って、港町まで行くんです。市場の近くでお魚をもらったり、静かな海を見て暮らすんです。どうですか?寿命もきっと同じくらいだし、置いて逝かれる心配も無いし、ずっと一緒です。」

こいつは…自分だけが残される未来を、恐怖を感じていたのか。考えもしなかった。

「…悪かったよ。俺はお前と人間でいた方が良さそうだ。」
「はは、そうして下さい。」
色々と思い出してしまったのか、困ったようにチュン太が笑った。
「そういえば、お礼に行かなきゃな」
ふと思い出したように呟く。チュン太を見上げる。
「ん?」
「高人さんがよく居た場所、たばこ屋さんあったでしょう?あそこの店主の女性が教えてくれたんです。高人さんが保健所連れてかれたって。」

そういえば、いつも笑いながら撫でてくれる人が居たな。お店のカウンターに登っても怒らないから、よく遊びに行っていた。
店主が居眠りしてる時にお客さんが来た時などは、よく起こしてあげたりもしていた。

「そうか。それは行かないとな。」
猫は視界がそう良いわけではない。匂いと音と気配で物を見るのだ。視界は広いが、人間ほど細かくは見えなかった。だから、近くに寄って見た2人目の人間は、笑顔が可愛いおばあさんだった。
あの人が助けてくれたんだな。

「じゃあ明日行くか。」
ふと窓の外を見ると、外はほんの少し日が下ってきている。あの店は夕方には店仕舞いをしてしまうから、今から行ってもきっと間に合わないだろう。

「そうですね。何か手土産買っていきましょう。」
そう言うと、チュン太は外を眺める俺を抱きしめてきた。
「な、なんだよ」
身動きが取れず、びっくりしてチュン太を見つめる。
「なんでもありませんよ。」
目を伏せて、擦り寄ってくるチュン太を撫でてやる。
「何を心配してるか知らねーが、猫の生に未練はないから安心しろ。」
「もうどこにも行かないで下さいね?行くなら俺も一緒に行きます。」
チュン太は顔を見せない。
「わかった。」
あやすように優しく答えて、頭を撫でてやる。
「絶対ですよ?」
天使は可愛い顔してキラキラと同情を誘ってくる。
……調子に乗ってる。
小さい子供なら可愛がってやった場面だが、こいつは俺よりデカい大人だ。一応撫でておいてやろう。今回だけだ!
「はぁ――――。コーヒー飲みたい。」
「あ、直ぐに入れますね!」
チュン太はパタパタとキッチンに行ってしまう。

気を引き締めよう。また人としての暮らしをしていくのだから。また忙しくなりそうだ。

窓の外を見る。


明日は晴れるといいな。

――――――――――――

午前中の少し冷える風の中、店をを開けていると、2人の青年が店にいらっしゃっいました。

「すみません、開店準備中に。」

「あらあら、少し待ってくださいね。すぐ開けますから」
私はいつものように笑顔でお客さんにそう言います。
開店時にお客さんが来る事はよくある事です。仕事や学校へ行く前に、新聞や飲み物を買って行く人がいらっしゃるから。

けれど、今日のお客さんは少し雰囲気が違うわね。
お店を開けて、店舗に入るとお客さんをよく見てみます。
1人は黒髪で綺麗な青い瞳の男性。とても綺麗な方だわ。モデルさんかしら?
もう1人は黒髪のお兄さんより背が高くて、明るい髪をしたお兄さん。こちらもとても綺麗な…、
「まぁまぁ!あの時の方!猫ちゃんは見つかりました?」

わざわざ訪ねてくれたのかしら?
「はい、猫ちゃん無事に保護できました。ご店主のおかげです。ありがとうございます。」
きらきらした笑顔でお礼を言われてしまいました。まぁなんて礼儀正しいのかしら。
「そうなのね!心配していたのよ。本当に良かった。」

嬉しくて顔が綻んでしまう。
黒髪のお兄さんは、とても優しい笑顔で私を見つめているわ。
「お兄さん、なんだかあの猫ちゃんに似ているわね。」
「…ぇ、あはは。」
「あ、失礼だったわね。ごめんなさいね。」
「いえ、失礼だなんて…。うちの猫がお世話になったそうで、本当にありがとうございました。貴方のおかげで楽しく過ごせていたと思います。」

本当に優しい目のお兄さんだわ。どこかで見たことがある気がするのだけど、どこだったかしら? 
歳をとると物忘れがひどくていけないわ。

「とても優しい子だったから、助けてくれてありがとう。幸せにしてあげてくださいね」

なぜか、明るい髪のお兄さんが、はい!と返事をしていて、黒髪のお兄さんが顔を赤くしていて、私はなんだかふふふ笑ってしまいます。

お兄さん達はお礼だと、あたたかい膝掛けや、店番に役立ちそうな物をプレゼントしてくれました。
なんだか新しく孫ができてしまったような、とても温かい気持ちになったわ。
「お身体には気をつけて下さいね」と、渡してくれた黒髪のお兄さんが一瞬あの猫ちゃんと重なったのだけど、歳のせいかしらね。
ああ、本当に良かったわ。

「ああ、なんて良い日なんでしょう」
願わくば、あの子達がこの先も幸せにありますように。

私は後日、高校生の孫にこの話したのだけど…
「へ、おばあちゃん…それ多分、トータカと、東谷くんじゃない…?…この人達じゃない?」
孫は、テレビ雑誌を私に見せてくれました。

「あら、そうね。この人達…じゃないわねぇ…おばあちゃん忘れっぽいから。ほほほ」

有名な人なら来た事は、秘密にしておいた方がいいわよね。
「おばぁちゃんよく思い出して!!」と孫が発狂していたけれど、ふふふと笑って私はお茶を啜りました。

end

――――――――――――
-あとがき-

これにて、「高人さんが猫になる話」は終わりになります。長い間読んで頂き、本当にありがとうございました。

後日談1日目は、人間に戻ったとして、どうやって事態を収拾するかを書いておきたかったです。

後日談2日目は、高人さんのお仕置きモードの出所を書きたかったので書かせて頂きました。

後日談3日目は、たばこ屋のおばぁちゃんの話です。たった一文、高人さんを見つける手助けをしたおばあちゃんなんですが、お礼に行きますと、チュン太が言っていますので、最後に会いに行ってきました。

以上が私の心残り3日分です!

感想など頂けると嬉しいです。つたない素人の文章で誤字脱字や読みにくい部分もあったことと思いますが、最後までお付き合い頂きありがとうございました!

ぱすた。

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