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宇宙業界に求められる人材とは〜プロデューサー人材のすゝめ〜

この記事は、小野雅裕さん読者コミュニティPEQUODが手がけるnote部 に寄稿したものです。

初めまして。キドアヤノ(@kclutch3)です。

学生時代に中高生向けフリーマガジンTELSTARを立ち上げ、大学院でスペースデブリ回収ロボットアームの研究をする傍ら、友人たちと宇宙ビジネスメディア宙畑sorabatakeを立ち上げました。新卒でリクルートに入社し、休日に続けていた宙畑sorabatakeがきっかけでさくらインターネットに転職、新規事業部で衛星データプラットフォームTellusのサービス・UXデザインを行っています。TELSTAR時代、宙畑時代の仲間たちと共に、最近は株式会社sorano meという会社を立ち上げて、宇宙ビジネスを推進する人材プラットフォームを作るべく事業を進めています。

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宇宙産業を日本の誇る主産業にしたい!そんな思いでそれぞれのメディアを立ち上げ、様々な形で宇宙に携わる方に取材させていただきながら、自分はどうしたら宇宙業界に貢献できるんだろう?と考え試行錯誤してきました。

今はまだ何を成したわけでもなく、挑戦の途中です。

そんな中で私のような若輩者が「宇宙業界に求められる人材」なんて大きなテーマでお話するのは気が引けますが、若手の目線から、様々な先輩方の話を聞かせてもらい背中を見てきた中で、自分がこれから目指していきたい人物像、そして自分がこれから作っていきたいチーム像についてお話できればと思います。

やりたいことを自分だけでやりきれる人はいない

小野さんの「宇宙を目指して海を渡る」は大学生になった私の愛読書でした。Kindle版を何度も読んで、結局紙版も購入しました。でも、小野さんのように勇気を持って海外に渡り、何のつてもない中で道を切り開いていくなんて、並大抵の人には難しいんじゃないでしょうか。私自身も何度も海を渡ってアメリカの大学院で航空宇宙を学ぶのだと考えましたが、どうしても一歩を踏み出せませんでした。

小野さんは「やりたいことを自分だけでやりきれる人」に近い存在だと思います。だからPEQUODの皆さんも勇気をもらって、応援したくて、このメルマガに登録しているのではないでしょうか。

でもそんな小野さんですら、自分一人では火星にロボットを飛ばすことはできません。火星にロボットを飛ばすためには、それを飛ばすロケットも必要ですし、いつ飛ばす?どんなルールで飛ばす?運用はどうする?全てを一人でやるわけにはいかず、そのための協力者を見つける必要があります。

イーロンマスクですら、自分一人でFALCONロケットを作れるわけではないわけで、宇宙業界において、やりたいことを自分だけでやりきれる人は恐らくいないでしょう。(イーロンマスクがどのようにSpaceXを大きくしたか解説しているnoteもよかったらチェックしてみてください → https://note.com/soranome/n/n8de3d0570984)

小野さんの場合、JPLで研究するという明確な目標がありました。イーロンマスクの場合には、人類の存続のために宇宙に人類を送るという大きな目標があります。 もしかしたらPEQUODのクルーの中にも、宇宙でこれがやりたい!と言う人がいるかもしれません。その場合には、プロデューサー人材になるのではなく主人公になりましょう。それを実現する道筋を描き、夢を語り、やり抜くチームを作りましょう。これが一番です。

大事なことは共感する仲間を見つけることです。その夢の実現のためにロケットを打ち上げる必要があるのであれば、費用を集める必要があるかもしれません。共感して費用を捻出してくれる人を見つけましょう。衛星を作る必要がある場合、自分で全て作れるかどうかまず考えましょう。厳しいのであれば自分が担当する部分とそれ以外に分けて、それ以外の部分を作ってくれる人を見つけましょう。自分に技術がないのであれば、共感してくれるエンジニアを見つけましょう。

PEQUODは仲間を見つけるのにとっても良いコミュニティだと思うし、他にも日本にはABLabやNEXTSPACEなど、様々なコミュニティがあります。TELSTARも、フリーマガジンを作ると言う目的はありますが、メンバーの中にはあなたの夢に共感して一緒に走りたいと言う人がいるかもしれません。

やりたいことがない人の方が多い宇宙業界

大学で航空宇宙工学を専攻していた私の周囲は、ほとんどがエンジニア志望で、物理や数学が得意な人たちでした。学生が人工衛星やロケットを自作するプロジェクトが盛り上がっていた時期でもありましたから、先輩や同期もそんなプロジェクトに関わって昼夜問わず休みなく開発に没頭していたりもしました。その「作ることが大好き」だった先輩や同期は、卒業して宇宙に関わっているメーカーに就職したり、研究所に就職したりしていました。

日本の宇宙産業従事者は8000人と言われています。これは、畳産業と同じくらい、とよく言われています。この内訳はほとんどが人工衛星やロケットの部品メーカー、インテグレーター、調達、運用…。今の宇宙業界は、そのほとんどが「実現できる人」です。「こんなことをやれたら良い」に対して方法が考えられて、実行できる人たち。もちろんJAXAはたくさんのミッションを掲げているし、それぞれのプロジェクトチームは自分たちの出番をまだかまだかと待ちわびているくらいですから、業界内にやりたいことがある人たちももちろんいます。しかし、製造技術がコモディティ化し始めた今、人工衛星やロケットが安価になり始めている今、宇宙業界では、「やりたいこと不足」が起きています。

やりたいことと宇宙の距離

宙畑sorabatakeを始めた頃、「やりたいこと不足」に気づき始めました。

例えば「データを使って彼氏を探す」という私の記事を見て、私が憧れる周囲の優秀なエンジニアや研究者の方々から「よくそんな企画思いついたね!」「協力したいわ!笑」とたくさんのお褒めの言葉をいただきました。※この記事で衛星データは利用できませんでしたが、その後のお声がけでいくつか衛星データを利用するアイデアも出てきたので、いずれやってみたいと思います。

そしてもう一つの課題。それは「やりたいことと宇宙の距離」です。

衛星データのプラットフォームTellusを作っていて様々な方にお話を聞くと、「衛星データで人間をリアルタイムで見れたら」というアイデアが出てくることが多いです。人間をリアルタイムで見れる未来は、衛星データの需要が急拡大していけばあり得ない話ではないし、今も世界最高分解能の衛星World-Viewシリーズなどを使えばビーチにいる人を見分けることはできますから、工夫次第です。(衛星の分解能基礎)ただしコストパフォーマンスが現時点では非常に悪い。なんといってもWorld-viewの画像は日本全域の最新データを購入しようとすると38.87億円もするのです…。(衛星データの価格)

店舗の出店やマーケティングに使いたいと言うアイデアをいただくことは多いのですが、これでは費用感が合いません。やりたいことがある人は、それが実現できれば方法は宇宙でなくても良いわけです。衛星データで人間をリアルタイムで見れたらというアイデアに対しては、携帯電話の位置情報を使ってのソリューションを考えた方が恐らくこの要望には応えやすいでしょう。

大抵の人のやりたいことを実現する方法は、宇宙ではないことが多いのです。

さらにもう一つの例を挙げます。人工流れ星の実現を目指すベンチャー企業ALEは、CEOの岡島さんの強い想いで立ち上がった会社ですが、この「人工流れ星」のようなことを自分でやってみたいと思う人は、宇宙業界外に結構いたりします。しかし、そのような人たちはそもそも自分で人工衛星を打ち上げるイメージがつかない。なので、ALEの人工流れ星を購入することはあっても、人工衛星プロポーズとか人工衛星花火とかそんなのを自分でやれるとはまさか思っていないのです。もちろん、一筋縄ではいきませんが、できるなら頑張りたい!と言う人は案外いるような気がします。

宇宙でやりたいことを実現できることが、大抵の人にはわからないことが多いのです。

宇宙に簡単にものを打ち上げられるなんて思っていない。まさか自分がロケットを契約して衛星を打ち上げるなんて考えていない。

そういう「やりたいこと」と「宇宙でやれること」を結びつける作業は骨が折れます。しかし、ユーザーニーズと宇宙技術は距離がとてつもなく遠い。だからこそこれを愚直に結びつける人が、宇宙業界には必要なのではないかと思うんです。この力を私は「プロデュース力」と呼んでいます。

宇宙業界に必要な、プロデュース力

私の中でのプロデュース力の定義は、
1. やりたいことを見つける力
2. 実現する道筋を描く力
3. やりきるチームを作る力
この3つです。

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上述の通り、今の宇宙業界には「やりたいこと不足」が起きています。一方で宇宙業界の外には「やりたいこと」がたくさん転がっていますが、それが宇宙で解決できるかどうかはわかりません。

リクルートで数々の新規事業を生み出した麻生要一さんも、著書「新規事業の実践論」の中で、”やりたいこと(WILL)を見つけるためにはまずはゲンバとホンバを見に行くことが大事だ“ と言っています。

「やりたいこと不足」の中でやりたいことの源泉となる“ゲンバ” は宇宙業界の外のことです。ITでも農業でも不動産でもゲームでも、とにかく “ゲンバ” に足を運び、話を聞く。困っている人を見たら放っておけないと言う人間の責任感を呼び起こし、課題をとにかく深掘り自分事化していきます。

そして”ホンバ”。宇宙業界の場合、本場は2つあると思います。一つ目の本場は「宇宙技術の最前線」、二つ目は「新規事業最前線」。これは、PEQUODのクルーであればNASAとかSpaceXとかが思い浮かぶと思いますが、その通りです。それ以外にも例えば中国とかインドとか、日本であればインターステラテクノロジズとか。ただし、宇宙開発は国の軍事力とも密接に関わるため、一般人が行ったところで見せてくれることはほぼないと思います。小野さん見せて、と言うのもありで私もそうしたいのですが、後はもうなるべく最前線の情報収集を頑張ると言うことです。世界の様々なニュースや研究の中で、日本語になっているニュースや論文はごく僅かです。なるべく最新の情報に触れ、自分なりに咀嚼しましょう。とはいえ私もそうなのですが、海外のニュースや論文を片っ端から読むのは結構気の遠くなる作業ですよね。そんな時は宙畑の週刊宇宙ニュースなどを時系列で読んでみると、それをフックにして英語のニュースも読みやすくなっていくと思います。(週刊宇宙ニュース)

それ以外にも、技術についてはエンジニアでなくともできる限り興味を持って、大枠で良いのでしっかり知っておくことが大切です。そうでないと「やりたいこと」を発見するたびにエンジニアに聞きに行く往復を繰り返し、いずれ体力の限界を迎えます。”ゲンバ”でやりたいことを見つけ、”ホンバ”でそれを実現できるか道筋をある程度自分で描くこと。これが、宇宙業界で今後求められるプロデュース人材のスキルだと思います。私もこうなれるよう、道半ばですが精進していこうと思います。

以上が、宇宙業界に求められる新たな人材タイプ「プロデューサー人材」です。読者の方の中には、こんな人材になれるか…?と不安になる方もいるかもしれませんが、プロデュース力は後天的なスキルの割合が多いので、全ては今後の努力次第です。先天的に大切なのはただひとつ、宇宙技術の力を信じて、諦めずに何度もやり直すこと。

とっても長くなりましたが、ここまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。今回は様々な活動を通して、私なりに宇宙業界に必要だと思う人材として「プロデューサー人材」を取り上げました。さらにそのスキルの中でも「1. やりたいことを見つける力」「2. 実現する道筋を描く力」について紹介しました。2号に渡り書かせていただけると言うことで、後編では「3. やりきるチームを作る力」について紹介したいと思います。

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