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やきとり

匂いは記憶を呼び覚ます、プルースト効果と呼ばれているらしい。

かわいた風が気持ちいい春の日に、散歩をしていたら、香ばしい鳥肉のにおいがつたわってきた。

焼き鳥のにおい。近くの居酒屋から煙が上っているのが見える。

その瞬間、大学生だった頃の記憶が溢れるように蘇ってきた。

ざわついた店内。ビール瓶が入っていたカラフルなケースが、椅子がわりに無造作に置かれている。隣に座っている友人とは、少し動くと膝がぶつかるほど、人でごった返していた。

安い!が売りの焼き鳥屋だったから、会社員だけでなく大学生もつめかけて、とても繁盛していた。

お酒を飲んで笑い合っていたあの頃。
少し煙たい店内に響く笑い声が、カラフルに色彩を帯びていく。


「すみませんー!」

酔いとテンションで行動が雑になり、隣にいた会社員のお兄さんに、お酒をこぼして平謝りした日もあった。

昔好きだった友人に、飲み会で彼女を紹介されて、トイレで号泣してしまった日もあった。

飲みすぎて…

おっと、危ない記憶ばかり。
もっと良い記憶よ蘇れ。


「乾杯ー!」

「発表おつかれー!!」

研究室の発表がおわったり、論文が煮詰まると、飲みにいっていた。何を話していたか正確には思いだせないけど、ほとんど教授の愚痴だったと思う(笑)。

「前に言っていたこと違うじゃん。」

「来週までとか間に合うわけねーし。」

こんなことを言っていた気がする。工学部だったから周りは男ばかりで、タイプの女性とか、彼女のこととかも話していた。そういえば好みの女性店員さんに連絡先を渡すとかもあった。

くだらない話ばかりしていた気がするけれど、とにかくよく笑っていた。

大学生だった頃、わたしたちは今よりもう少し無邪気だったし無敵だった。

将来のやりたい事なんてよく分かっていなかったけど、他人からの評価を気にせずに、可能性を信じていたように思う。

ああ懐かしい。


今はどうだろう。

ときどき飲み会にはいく。主な話題は会社の愚痴だけど、一緒にいる人の顔色をどこか伺ってしまう。評価されることを覚えてしまった。

社会人、そしてコロナを経て、どんどん大人しくなっていく。

あまり大声で笑うと、チラッとみられて嫌な顔をされることもあるから、笑った顔をそっとマスクで隠す。

色々なことを忘れてしまった。

昔に戻りたくはないけれど、無邪気に笑い合って、可能性を疑っていなかったあの頃を少しだけ取り戻したい。


ちょっと感傷的な文になってしまいました。

わたしの幸せのうち1つは、気のおけない友人や家族と、一緒に楽しくお酒を飲んで食事をすることだったりする。

そう、これが足りていない。

コロナも落ち着いてきたし、そろそろ飲みたいな。最近はめっきり弱くなってしまって、ビール1、2杯しか飲めないけれど、ビール片手に笑いたい。

ちょっとばかしリミッターを外して、無邪気に笑いたいと思うこのごろです。


今日もお読みいただき、ありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょうー!

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