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川崎市市制100周年記念 第49回川崎大師薪能 インタビュー/観世三郎太さん(観世流シテ方能楽師)

「厄除けのお大師さま」として親しまれ、全国から参拝客で賑わう川崎大師 平間寺(かわさきだいし へいけんじ)。
川崎大師薪能」は、毎年初夏の頃に、川崎大師平間寺の屋外特設舞台で能楽を上演しています。

川崎市市制100周年を記念して選ばれた演目『船弁慶 前後之替』は、華やかで分かりやすいストーリーから、初心者の方にもおすすめです。
今回、二十六世観世宗家 観世清和さんとともに親子で共演する観世三郎太さんにお話を伺いました。

川崎市市制100周年に豪華な演目を 
今年は市制100周年記念の大きな節目ですので、華やかさがあり、初めて見る人でもストーリーが分かりやすい演目『船弁慶』を選びました。平家追討に功績をあげた源義経が、兄の頼朝に疑いをかけられ、弁慶らと共に西国へ落ち延びてゆく様子を描く物語です。前場(前半)では、義経と静御前の別れの様子が描かれ、後場(後半)では滅亡した平家一門の総大将、平知盛の怨霊が義経一行に襲いかかります。前後での静と動の対照が際立つ、劇的な構成が魅力です。

前後のシテを親子で
記念公演ならではの特別な演出
今回、前場のシテ(主役)・静御前を父(ご宗家)が演じ、後場のシテ・知盛を私が演じます。普段、多くの演目は前後のシテを一人で演じますが、40歳も年が離れた親子で前後のシテを勤める演出は大変珍しく、今回の見どころの一つです。前場では静御前による舞や、烏帽子(えぼし)を落として帰る所作から悲しみが醸し出されますが、後場では一転、知盛が薙刀を持って登場し、弁慶との戦いのシーンとなります。年を重ねた父が演じる静御前のしっとりとした様子と、若い私が演じる知盛の荒々しさ、そして子方(子役)が演じる義経の純粋さとの対比をお楽しみいただけると思います。

能「船弁慶 前後之替 早装束」観世三郎太(撮影:前島吉裕)

子方といえば、昨年の演目『鞍馬天狗』でも、牛若丸(幼少期の義経)の役を子方が勤めました。大天狗との兵法の稽古を経て、平家追討を約束した牛若丸が、今回は武将の義経として登場します。昨年ご覧いただいた方には、義経が成長している時間軸も楽しむポイントになるかと思います。

また、囃子方(はやしかた)の出演者も素晴らしい方ばかりですので、屋外であってもお囃子の音色を存分に味わえます。錚々たるメンバーが来てくださるからこそ、豪華な演目を上演できるありがたさを感じています。

令和5年度 第48回川崎大師薪能上演風景(撮影:前島吉裕)

初めての方もリラックスして観てみて
分からないからこそ感じること
昨年、様々な会場で公演を行う中で、アメリカから来日されたお客様がとても喜んで感想を伝えてくださったことがありました。日本語や古語が分からなくても、その方自身の感性で受け取っていたのだと思います。能楽は古語を使いますが、いっそのこと日本語と思わない方がいいのかもしれませんね。例えば普段、洋楽やK-POPの歌を聴くときは、歌詞というよりもリズムや雰囲気、ダンスの良さなど、感覚で入っていきますよね。そこに時々自分でも分かる単語が出てくると、より想像が膨らんでいく。そんな風に、あまり理解しようと気負わずに、リラックスして楽しんでいただくといいかもしれません。

700年前から現代に受け継がれているもの
能楽はおよそ700年前に確立された芸能ですが、現在に続くまで、礼儀をとても大事にしています。挨拶はもちろん、お客様からは見えない場面でも、例えば、面(能面)をつける前には一礼をするなどの作法を受け継いでいます。目上の人を敬い、先祖の生き方に学ぶことは、現代社会にも通じる普遍的なことだと感じます。日々の稽古でも、先生(父)はよく「演技の良し悪しや舞台のことよりも、まずは礼儀が大事」と説きます。そうした礼儀は誰かに見せるためのものではありませんが、誰にも見えていないところでの立ち居振る舞いが、舞台にも表れるものなんだろうと思っています。

初夏の薪能といえば川崎
2021年に川崎大師薪能に初出演させていただいた『土蜘蛛』は、雨天のため信徒会館で上演しました。薪能は天候リスクが高く、開催の機会が減ってきています。また、薪能は秋に行われることが多いので、川崎のように5~6月の開催は珍しいです。「初夏の薪能といえば川崎大師様」ですね。このような貴重な機会に、能楽がどんなものなのか、ぜひ足を運んで体感いただきたいです。映画を観に行くような感覚で、気軽にお越しいただけたら嬉しいです。

「薪能では、演じている私どもも普段とは違う新鮮な感覚です。屋内の能楽堂とは声の響き方も、明るさや気温も違います。虫や、かがり火から火の粉が飛んでくることも。薪能でしか経験できないことがたくさんありますね」

「川崎市市制100周年記念 第49回川崎大師薪能」開催情報

【開催日時】2024年6月28日(金)17:30開演 
 ※開演前17:00より出演者による解説あり
【会場】大本山川崎大師平間寺 特設舞台(雨天時:信徒会館)
【料金】S席 6,500円、A席 4,500円、U25(A席)2,000円 
 ※S席残席僅少(2024年5月4日時点)
 ※A席、U25チケットは雨天時払い戻し
【出演・内容】
 薪能法楽
 仕舞 「高砂」観世恭秀
 仕舞 「田村 キリ」鵜澤光
 仕舞 「羽衣 キリ」鵜澤久
 仕舞 「猩々」岡本房雄
 狂言 「附子」三宅右矩
 能  「船弁慶 前後之替」前シテ 観世清和、後シテ 観世三郎太


プロフィール

観世三郎太(かんぜ さぶろうた)
二十六世観世宗家観世清和の嫡男。観世流シテ方能楽師。1999年生まれ。父・二十六世宗家観世清和に師事。5歳のとき能「鞍馬天狗」にて初舞台、2009年「合浦」にて初シテ後、「鷺」のシテを勤め、2015年「経正」にて初面。2016年7月ニューヨーク・リンカーンセンターにおける招聘公演へ父と共に出演し批評家から極めて高い評価を得るなど大成功を収めた。令和元年10月には天皇陛下御即位に伴う「即位礼正殿の儀 内閣総理大臣夫妻主催晩餐会」にて祝言曲「石橋」を披露した。令和5年にはG7広島サミット社交夕食会で各国首脳へ我が国の伝統文化を代表して能を披露するなど、国内外を問わず活躍している。


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