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愛すべき華の金曜日〜後編〜

5.ダンスは続いていく


最後の華金から3か月たった頃。
明けて2017年1月。俺とKZは梅田の風月にいた。

エビ玉が運ばれてくるのを待つ間、世間話もそこそこに、本題に入る。

要件はこうだ。

「このまま華金が終わっていくのが悲しいんで、自分にオーガナイズをやらせてほしい」

正直、嬉しさが最初に来た。
しかし、しばらくして、少なくない抵抗感に襲われた。

自分の中で静かに終わりを告げたと思っていたものが続いていく違和感、そして何より結婚生活を目前にして、再びあの気持ちを味わうのかという昏い感情が込み上げてくる。

迷った結果、俺は7年背負ったイベントをKZに託すことになる。

多分、KZでなければ俺は断っていたと思う、

それくらい、真摯に華金のことを捉えてくれていたし、しっかりとしたビジョンがあった。

もう一つ思ったのは、華金というイベントが誰のものなのかということだ。自分が長く続けてきたとはいえ、もとは創始者である蘭のものである。加えて、もはやあの場所はプレイヤー、リスナー問わず多くの人の集合場所の一つになっていたのではないか。それを、自分が幕引きして誰にも引き継がないのはエゴではないかと考えたからだ。

現場から遠ざかっていたKZが再びライブをやるようになったきっかけの一つだったし、ショットから始まって彼もまた、ずっと華金を見守ってくれていた一人だ。
一度はグダって終わっていったイベントの在りし日の姿を知っている彼ならば任せられるのではないか。
そう思って、よろしくお願いしますと頭を下げた。

結果的に、この決断は正解だった。


KZのオーガナイズする華金は各回ごとにコンセプトが設けられ、現行のシーンの流れをしっかりと見据えたものだった。
自分で手の回らない部分は手伝いを求め、しっかりお金も回していく。
レギュラー陣も若返りが図られ、活気を取り戻していった。
熱を取り戻したフロアを眺めながら俺は無力だった自分を恥じるとともに、生まれ変わった華金を見て本当に嬉しく思えた。

やがて自分も新生活に馴染み始め、また梅田サイファーも華金に呼応するかのように「NEVER GET OLD」で再び勢いを取り戻していく。

コロナで、世界的にLIVEが行えない状況でもKZは諦めなかった。

長年拠点だったSTOMPに囚われず、YELLOW BASEで配信という形でパーティを提供する。彼の執念が見て取れた。

襷を渡してよかった。

華金が笑っているように見えた。

このままずっと続いてくれたら。

そう思っていた矢先、新たな展開が待ち受けていた。

KZが新婚旅行で日本一周へ旅立つことが決まったのだ。

そして、俺は再びオーガナイザーとしてこの華金と対峙することとなる。

6.いつもの場所まで今迎えに行く

2021年2月梅田クワトロ。DJのSPI-Kとともに俺は再び自分のもとに戻ってきた華金の次の出演者を考えていた。正直、気が重かった。
読者諸君がどのような印象を持たれてるかは分からないが、オーガナイザーをやるメリットというのは実は驚くほど少ない。
段取りの大変さ、金銭面の苦労。ヘタを打てば、全責任がのしかかってくるし、上手くいったところで、甘い蜜吸ってるんちゃうんと邪推されることもしばしばだ。
強いて言えば、呼びたい演者を決められるくらいだが、過去の苦手意識が残る自分はそれすらキツく感じた。誰かを呼ぶことは、誰かを呼ばないことと同義だ。それを新旧の演者から選別することにも辛くなっている自分がいた。

あの頃とは状況も自分自身の環境も違う。

そう思っていても、どうしても後ろめたい感情が纏まりつく。

ネグレクトになってしまった子供と再び向き合うような心境。

せっかく、息を吹き返したパーティを自分がまたダメにしてしまうかもしれないプレッシャー。

事実、やっぱり自分がやるとうまく進まない部分もたくさんあった。

コロナによって昔よりオーガナイズの在り方も判断が難しくなってきていた上、何も変われてない自分のダメな部分が顔を覗かせた。

それでも開催まで進めていけたのは間違いなくSPI-Kが一緒にイベント作りに携わってくれたからだ。

細やかな気配りと真摯な姿勢が俺の背を押してくれた。

そして内に秘める情熱に俺は救われたような気になった。

回を重ねるごとに少しずつ憂鬱な感情が薄れていき、憑き物が落ちたように華金に向かいあうことができるようになっていく。

そうして一年、KZが再びSTOMPに凱旋するころ俺はやっとこのイベントに対する苦手意識を払拭することができた。人によっては何を大袈裟なと思うかもしれないし、まだお前全然できてないよって人もいるかもしれない。

そう思ってもらって構わない。

ただ、自分にとって再びオーガナイズに関わるということは、ただ騒いで収支を数えるということに留まらない、投げ出した過去への贖罪とこれまで関わってくれた人への感謝への体現でもある。
あの頃と変わったこと、変わらないことどちらもたくさんある。それを踏まえて、自分は自分の、華金をすればいいんだとそう思った。

ある人が「昔の緩い時も、好きでしたよ」と言ってくれていたことを聞いて救われたような気分になる。同時に浮かんだ罪悪感を忘れないよう、少しだけ噛み締める。不恰好な過去が肯定できるよう、胸を張ろうと思えた瞬間。もう一度、その機会を与えてくれたKZとSPI-Kそして、ここまでの歩みに関わってくれた多くの人に、この場を借りて改めて御礼を申し上げたい。

7.rhymeし数を重ねていく華の金曜

そして2022年。12年間大阪STOMPを拠点として走り続けた老舗イベントはさらに新たな展開を迎える。

福岡、名古屋、仙台、広島、北海道、大阪、東京、7都市を回る全国ツアー。大阪は敢えてのSTOMPではなく、梅田ShangLira

ここ数年で俺らを取り巻く環境はガラリと変わった。

小さな箱でしかLIVEできなかった俺らが梅田サイファーとしてもソロとしても、色々な形で、色々な人たちと触れ合い交流するようになった。

LIVE、音源、PV、配信、動画、TV、ラジオ

それらで知ってくれた、俺らの遊び方を伝えたい。

昔より状況は変わってきたとはいえ、クラブイベントというものには、まだまだネガティブなイメージが根強く残っていると思う。

傲慢かもしれないが、自分たちのパーティはそのイメージから、かけ離れたものだと思っている。

ドラッグも喧嘩とも無縁のそんな空間。

それに触れてもらうために、いつも大阪に来てもらっていた。

だが、コロナによってイベントの意義が問われるようになった今、今度は俺たちが会いに行く。

12年続けてきた俺らのパーティの在りどころは、場所ではなくISMだ

採算度外視したこのツアー、案を出してきたのはまたしてもあの男KZである。

はっきり言おう。俺は根っからの出不精だ。

出来ることなら気楽に近場で遊べるのが一番いいと思うタイプなのだ。

だが、この企画を聞かされたとき、俺の心は躍った。

そして、GOする決断をしたことを、6都市目大阪まで、終わった段階で、俺は褒めてやりたい。

いつかの言葉を思い出す

「いい人達集めて、みんなが楽しめるパーティやりたい。それでできたら細くでもいいから長くやりたい」。

昔は、「めんどい人抜きで楽にパーティできたら」という意味合いだったこの言葉が、あの時とは違い今は意味も志も額面通りのものになっている。

人も環境もずっと同じでは心から楽しめない。

変わらないために変わり続ける。

偉そうに言ってはいるが、自分はただ、このイベントに寄り添っただけだ。

今は重荷に感じてしまったことを申し訳なく思う。

こんなにも活力を与えてくれる遊び場なのに。

ツアーを周り各地のお客さんや演者から、こんな楽しい空間があるのかと嬉しすぎる言葉をもらうことがある。

色々な声があるのは承知の上だ。

だが、これは日本語ラップの遊び方を自分達なりに捉えた12年間の結晶だ。これを疑わず、最後まで俺らは走り抜ける。

ツアーラストは東京。場所はWWW。

3年前、梅田サイファーのツアーで挑んだ場所である。

GUESTはSHINGO西成。

正直、名前を書いてもまだ実感がない。

ただ、一つ、えらいとこまで続けてきたなと単純に思う。

大阪の餓鬼レンジャー同様、いつかのマクドで語った与太話の実現。

他にも同年代を過ごしたパンチラインフェチ。

そして、数年前出てくれた頃と比べ物にならない飛躍を遂げたテークエム。

ちょうど華金13周年。

紛れもなくこの日が集大成。

ここまでの歩みを知ってくれた貴方。

13年上がり下がりを繰り返した華金というイベントがどこにたどり着いたか、そして最新の俺らのパーティーの在り方是非、見届けていただきたい。

とまあ、仰々しく語ってしまったが、俺からはそんな集大成のパーティーでもオーディエンスのみんなはいつも通り、飲んで騒いで楽しんで欲しい。お酒飲みたい人は声掛けて欲しい。

あ、一つだけ意気込みがあった。

鉄兵、今度こそ美味い肉を食おうな。



それでは、長文にお付き合いいただき誠にありがとうございました!



以下、華金、東京場所の詳細。初めて来る人も、馴染みの人もいい夜を過ごしましょう!

華金2022ツアー 東京 at.渋谷WWW
9/18 14:30〜
料金 ¥4,500 +1Drink

▼SP GUEST
SHINGO★西成&DJ FUKU

▼LIVE(東京公演)
テークエム
パンチラインフェチズ

華金クルー
KZ
KBD
teppei
Kyons
Draw4
SKRYU
DUMMY&DJ開斗

DJ
SPI-K
開斗


▼配信チケット
https://www.shinkukan.live/event-details/hanakin2022zenkokutour


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