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ミャンマーで予防教育を広めたい。

 ”死”はもっと遠くにあっていいはずーー。ミャンマーへの留学経験から、「予防教育」の重要性を感じてきた大学院2年生の仲野由貴子さんが、いよいよ明日14時から”SEEDs”(※)のファイナリストとしてピッチを行います。前夜となる今日は、仲野さんがどんな想いから今回の活動に繋がり、そしてどう活動していくかについて伺いました。<聞き手・編集=青木(KBC16期)>

 ※ SEEDsは、KBCが主催する”with COVID-19, after COVID-19”をテーマにした国内最大級・学生団体初のオンラインビジネスコンテストです。明日6月21日(日)14時からYoutube チャンネルにて、3次審査を通過したファイナリストによるプレゼンテーションが行われます。

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――これまではどんな活動をしていましたか?
 チョコレートが好きだったので東京外国語大学ビルマ語専攻に入ってから「カカオ・児童労働」に興味を持ち、大学1年生の時にミャンマーのカカオについて調べるため短期留学にいきました。当時、ベトナムやフィリピンなど、東南アジアがが結構カカオの産地として狙われていて「ミャンマーはどうだろう?」とまだ情報が無かったので留学に行きました。ただ、その時はもう本当に(現地の)ご飯とか(自分の体調を崩していたり)生活にいっぱいいっぱいで、他の人の健康まで考えもしませんでした。
 大学3年生の秋から「トビタテ!留学JAPAN」プログラムで10ヶ月、ミャンマーのヤンゴン大学に交換留学をしました。最初の2ヶ月くらいは、やっぱり食べ物が原因でお腹を壊して、人のことまで考えることができませんでした。プログラムが半分くらい経って、自分の体調が落ち着いてきてから、「健康」に目がいくようになったのが本プロジェクトのきっかけです。

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 例えば、ミャンマーでは水を飲むときコップをみんなで使い回します。誰かが飲んだあと、お風呂の桶みたいなところにコップの口の部分をポンッと水の表面つけるだけで、また同じコップを他の人が使う。使った部分を少し水につけただけで「綺麗になった」として他の人が使うんですよ。でもそれって日本人では考えられないことじゃないですか。両親が医者だったこともあって、衛生的によくないのかなと感じて。
 他にも新しい寮に作っていた膝丈までの「プール」は、どう見ても見た目が「池」で。蚊もすごくたくさんいるんですよ。それが感染症をばらまく可能性があるのに、この大学はミャンマーでトップレベルの学校なのに、その先生でも知らない。そういう簡単なことで死ぬ人たちがいっぱいいるんだということことに気付きました。

「”死”って、もっと人間から遠くていいことなんじゃないか」と感じ、公衆衛生を学びたいと思いました。本当は理系の学問ですが、慶應義塾大学大学院の健康マネジメント研究科だけは統計のテストがなく文系でも入れると知り「ここしかない!」と思って、ミャンマーから帰国後、本校の大学院一校だけ試験を受け、合格しました。


 昨年8月、大学院で公衆衛生や経済発展と健康を勉強する中で「経済が発展していくと、食生活が変わってお菓子が増えてくるけど歯磨きの習慣はない」ことに気づきました。都市化した、いわゆる東京のような都心では、お菓子もくるけど、綺麗な歯をしたモデルさんの広告を見ることがあるから「歯をきれいにしなきゃいけないんだ」と(人々に)歯ブラシの習慣が根づくんですよ。逆に、すごく地方に行くと、まだお菓子も来てないから歯も綺麗みたいなのですが、でもちょっとだけ都心から離れている地域はお菓子は入ってくるのに、歯を綺麗にした方がいいという情報が来なくて、虫歯が増える。最初はただ単に、それをミャンマーで研究しようと思ったんです。

 でもデータがまだなくて、研究するのに時間がかかるし、歯がダメになることをわかっているのに、研究数値を取るためだけに(大学院の)2年間、ただそれを見過ごすのは悲しいなと感じました。何ができるかなと考えていた時にちょうどFacebookでSEEDsのイベントが出ていて、元々ビジネスコンテストは出るつもりがなかったのですが、慶應だからやってみようと思って応募しました。

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 プロジェクト名の「ミンガラーバー」は、外国人が使うためにHelloの対訳として、生まれたビルマ語と言われています。自分がミャンマーで過ごしたことで、日本や他国のことを知ることができた、という状況に似ているなと思い、この名前にしました。

ーーSEEDsのメンタリングを受けての変化はありますか?
 私の場合「ミャンマーで何をしたいか」がもう既にあって、それで書類審査を通過したから「作りたい世界をただ書いていけばいいのかな」と思っていました。でも今のメンターである金子裕さんが「ビジネス評価するのは購入者だから、ちゃんと売る人たちにとって価値のあるもの、ミャンマー知らない人にとってもいいなと思うものでないと実現可能性、持続可能性がないよね」と言われて、ハッとしました。
 今、日本もCOVID-19で大変じゃないですか。その状況で、なぜミャンマーにするのか、そこも含めた明確なビジョンにしないと限定的だという指摘も受けて。「トレンドとかも考えて、ちゃんと応援されるものを。買う人もミャンマーの人も、双方にとって自分事化するサービスを考えること」が発見でした。
 ビジョンだけあって、売り方がよくわからないタイプだったのでありがたかったです。色んなビジネスをやっている人がここまで考えてくれるんだってことが本当に。

ー実はこのプロジェクト、ここ1週間で大きく変わりましたね。

 はい。これらの経験から「現地の素材を使った歯ブラシをこだわって作ろう」と思っていたのですが、事業を見直しました。

 ミャンマーで病気になって死んでしまう子どもがいる根本の理由は「予防教育」の機会がないから、つまりこの「予防教育」の必要性を現地の人にわかってない事に問題があります。ただ情報が伝わっていないことで、困っているのは、ミャンマーだけではありません。日本でも情報がないことで、給付金をもらえなかったり、留学を諦めたり......、どこにでも起きている問題だったと気がつきました。

 そこで「LINEポイントのようにユーザーが広告を見ることで、ポイントを得る仕組みのように、そのポイントを使って通信料を買う」仕組みを利用し、「普通の広告と『いじめ相談窓口はこちら』というような伝えたい情報の抱き合わせ」というビジネスモデルを考えました。
 このモデルでは、顧客は広告を見ることで通信料に使用可能なポイントを得られるため、何度も広告を目にする機会を作ります。また、広告に「いじめ相談窓口」のような伝えたい情報を載せることで顧客が自分では辿りつかなかった情報にたどり着くことを可能にします
 今回は、ミャンマーで歯ブラシを買ってもらうために「広告に歯ブラシをしないと虫歯になって、素敵な笑顔でいられなくなる」という情報を抱き合わせ「歯を磨こう!」という気持ちが起こすことが先決でした。だからこそ、次の段階である歯ブラシは、今回のプランから一回、置いておこうと思いました。

――大変そうです。
 もちろんピッチを変えることになるので大変です。ただ、メンタリングでものすごく丁寧にフィードバックをくださって。前回も1時間とか、50分くらいかな、元々の時間を超えてしまったのですが、伸ばしてくださって。私、前回のメンタリングの途中で「これから実際にミャンマー行く」ことをメンターさんに伝えたんですよ。

ーーこれからミャンマーに?
 はい、実は4月に現地で就職することが決まり、そこでちゃんと生きていくだけの収入を得ながらプロジェクトを進めたいと考えています。それをメンターさんに伝えたときに「本当にやるんだね」と感じてもらえて、より本格的にアドバイスをいただけました。

 それこそ今もメンターさんからの課題が出されていて「ロールモデル、現地マークとなる会社を10社以上調べて、それも自分が体験したことのあるもの限定で、あなたのビジネスに活かせる点を10社分書き出す」と。だから今は自分が体験した商品はなんだろうと色々考えています。

ーープロジェクトはこれから他の国でも進めていきたいと思っていますか?
 自分が、ミャンマー以外に行くことはあまり考えていなくて。でもいろんな国で、歯ブラシをしようと考えている人がすでにいるので、使いたい人がいれば「是非これをやってください」と渡すことも考えています。
 私の最終的な目標は、ミャンマーの人々が長生きすることで「将来について考える時間を増やしたい」ということです。健康になれば、長生きできるじゃないですか。日本にいるとわかりにくいんですけど、(現地では)お腹痛くなって、下痢してとか、感電でも、いきなり人が死んだりするんですよ。そういう人たちの未来はそう長くないから、将来計画も日本人が考えるものより短い。健康になって将来のことをもっと考えられるようになったら。「考える教育」という言い方も変ですけど、日本でよくある自分が将来やりたいこと、そのためには何をすればいいんだろうと道徳みたいなことを考えて欲しくて。

 だから、プロジェクトから発展して、ミャンマーの人たちが自分たちのやりたいことや健康について考えられるようになったらいいな、と思います。

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ーー21日に向けて、意気込みを。
 ミャンマーに関係ない人にも応援してもらえるようなピッチをしたいです。興味があったらミャンマーにぜひ来てください。

 おっとりとした話し方ながらミャンマーについては人一倍熱い。2度の留学経験をしている仲野さんだからこそ気付いた課題に、ビジネスのアドバイスを一つひとつ「自分のこと」として生かしている。自分も今晩、ちゃんと歯ブラシで歯を磨こうと改めて考えるきっかけになった。<編集・聞き手=青木(KBC16期)>

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〈SEEDs ファイナルピッチ情報〉
6月21日 (日) 14:00-17:00 開催!
配信はYouTubeにて。チャンネルはこちら

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