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虚誕解説 Part1(Ever17 Loop1)

この解説は、以下のinfinityシリーズのネタバレを含みます。
以下の作品をプレイしたことのない方は、解説をご覧になる前にプレイすることをお勧めします。
なお、このマガジンでは、Ever17についてXBox版の内容を含みません。

  • Ever17 -the out of infinity-

観測問題

打越・中澤氏のゲームの特徴として、分岐を可能性の重ね合わせと見立てて量子力学的な世界を構築することが挙げられます。
infinityシリーズは、選択肢で分岐を表現する典型的なADVゲームです。
そのいずれかを選択することは、可能性の観測を意味します。

量子力学の観測に関する解釈は様々です。
その中で、多世界解釈(エヴェレット解釈)を取った時は、全ての可能性が並行世界として存在することになります。
これは、Ever17の真の主人公であるBWと密接な関係があります。

並行世界内の視点人物を当事者と呼ぶこととします。
当事者は、自身が属する世界以外の並行世界を認識出来ません。
対照的に、当事者より高次元であり、並行世界を外側から観測出来る存在を俯瞰者と呼ぶこととします。
ゲームの世界を並行世界として見た場合、当事者は登場人物、俯瞰者はプレイヤーになります。

俯瞰者と当事者

Blick Winkel

BWは、当事者と俯瞰者両方の側面を持つ例外的な存在です。
ただし、ゲーム開始時点では、当事者BWは俯瞰者BWとは分離しています。
当然、俯瞰者としての視点を持たないので、別の並行世界の当事者BWや俯瞰者BWを認識出来ない状態になります。

第3視点発現計画は、武視点と少年視点が同時間軸であるかのように騙すことで、当事者BWが当事者として振る舞おうとするほど、2つの視点のパラドックスに陥るように仕向けます。
当事者BWは俯瞰者としての顔が隠せなくなっていき、最終的にホクトに宿った記憶喪失の少年がBWであると自覚すると、全ての当事者BWと俯瞰者BWが統合されます。

この時に注意すべき点が2つあります。

  1. 統合BWは当事者と俯瞰者の性質を併せ持ちます。
    当事者は自身が属する世界に介入することは出来ますが、他の並行世界を観測出来ません。
    一方、俯瞰者は並行世界を俯瞰することが出来るものの、高次元体なのでそれ以上のことは出来ません。
    この2つを統合すると、別の並行世界の情報を得ながら世界に介入できる超越的な存在になります。
    Ever17の魅力は、俯瞰者であるプレイヤーが同じ立場であるBWと同化することで、ゲームの世界に介入する感覚を得られることでしょう。
    俯瞰者か当事者かではなく、俯瞰者と当事者の両方を併せ持つことでその感覚を得ることが出来ます。

  2. 全ての並行世界とそれに属する当事者BWは遍在します。
    統合BWに至る経験は、プレイヤーにとっては直列的ですが、BWにとっては並列的ということになります。

[補足]遍在は、空が自分の特殊性を説明するために用いた言葉です。
この時の説明は、不思議なことに、BWが統合に至ることを暗示するかのようなものになっています。

「私は――遍在している」
「ええ、そうです……」
「同じ空間の中に、時間の中に、複数の私が存在できるのです」

(中略)

「そう、そしてこれは、3次元空間においても同じことです」
「あなたが4次元的視野を獲得したとき」
「つまり、倉成さんが、3次元的空間から脱出して、4次元空間内から、その空間を『見下ろした』とき」
「そのとき初めて『自分がΨの字の一部であったこと』に気づき」
「さらに『枝分かれした他の自分がいること』にも気づけるのです」
「…………」
「異なった歴史、異なった世界、異なった空間の中に……」
「別の自分自身が存在する、ということが、わかってもらえたでしょうか?」
「世界に、自己は遍在しているのです」
「あなたと同様に、私という存在も、遍在しています」
「あなたも、私と同じ……」
「単一から分かれた『Y』……」
「ですが……」
「遍在する自己は、ひとつになれるのです……」

(中略)

「なぁ……」
「ひとつだけ、訊いていいか?」
「どうぞ……」
「どうして『俺』にその話をするんだ……?」
「ふふっ……いい質問ですね……」
空はくるりとその場で一回転して、にっこりと笑む。
「伝説ですよ」
「このLeMUの由来の……レムリア大陸に伝わる、伝説です」
「そういうことにしておいてください」
「……内緒ですよ?」
空は人差し指を口の前に立てて、また微笑んだ。

Ever17 -the out of infinity-

5月3日 武視点 空を吹く風

ヤミオニ

Ever17には、クリア後も説明されない現象がいくつかあります。
その多くは、前作であるNever7に登場した概念を導入しなければ解決出来ません。
現段階で説明出来ない現象は、Never7の解説後に取り上げるとし、今回は、その中でも比較的Ever17の内容で説明することの出来るヤミオニを取り上げます。

ヤミオニは、大きく分けると2つの謎に分類出来ます。
そのいずれも、BWが第3の眼を開眼しかけていることが原因の現象です。

1つ目は、何者かに蹴られた缶です。
これは2017年と2034年で描写の違いがあります。
2017年では、蹴った人物以外の不自然な点は言及されておらず、実際に蹴られていると思われます。
2034年では、桑古木の証言などを参考にすると、音だけが鳴って缶自体は蹴られていなかったと推測出来ます。

この謎の鍵になるのは、ピピの存在です。
2017年のピピはココに飼われており、ヤミオニにも参加しています。
オチからも推測できる通り、缶を勝手に倒していたのはピピです。
一方、2034年のピピは優春に飼われて地上にいるので、ヤミオニに参加していません。
しかし、未統合BWにとって2017年と2034年は区別されないため、2034年でも同様の現象が起こると勘違いします。
その結果、缶を蹴る音だけが鳴るという現象を引き起こします。

2つ目は、少年の声です。
2017年のみ、桑古木が武達と合流した後にも関わらず、別の場所から少年の数える声と缶を蹴る音が鳴り響きます。

この謎もやはり2017年と2034年を同一視していることが原因の現象です。
2034年の少年視点では、ホクトが鬼になる場面が存在します。
一方、2017年の全員が合流する場面で、桑古木は自身が鬼であるという自覚がありません。
これは、2034年のホクトと違い、桑古木は捕まっていなかったからだと推測出来ます。
以上の点から、2017年で武が捕まえて鬼になったと思われた少年は、2034年の少年視点が原因の幻視だったと考えられます。

ヤミオニの実体と幻影


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