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Curtis Fuller with Red Garland - Curtis Fuller

Recorded May 14, 1957

Personnel

Curtis Fuller - trombone - except track 5 (22)
Red Garland - piano (34)
Sonny Red - alto saxophone - except track 2 (25)
Paul Chambers - bass (22)
Louis Hayes - drums (20)

フラーのリーダー・セッションの録音としては2作目。処女作New Tromboneの録音から三日後ですがリリースは63年と随分遅く発表されました。
サイドは前作から引き続きソニー・レッドルイス・ヘイズ。ベースはダグ・ワトキンスに代わりポール・チェンバースですが彼もデトロイト出身でフラーとは同級生ですから、もはや同郷同世代のメンバー同士、勝手知ったるというところなのでしょう。
今回のピアニストのレッド・ガーランドは、チェンバースと共にマイルスのバンドや自身のバンドで今となっては伝説級の録音を続々と世に送り出している最中での参加。
前作ピアニストのハンクのように他のメンバーより一回り上のベテランという立ち位置なのも注目です。レーベルこそ違いますがプロデューサーもスタジオも前作と同じなので、同コンセプトで録音されたアルバムなのでしょう。

ただ、『New Trombone』と今作を聴き比べると音響面での仕上がりの差に面食らいます。ミックスやマスタリングを当時はどのようにしていたのか、詳しいことは勉強不足で分からないのですが特にフラーの音色に関してはもう全く、全然違う。
スタジオも同じ、機材も同じで3日間では流石にそこまでの演奏の変化は起らないでしょうから、前作の中の一曲『Blue Lowson』だけフラーの音色が違う理由と同じで、やはりマイクとの距離があまり安定していないのではないかなと推測されます。マイクとベルが近いと近接効果というやつで、とてもあたたかい音像になるんですね。
ただ全体の仕上がりも結構違うのでマイキングだけの問題ではないのだ…とは思いますが、実際フラーがどのような音像だったのか?を想像するにはこの音色の違いは良い材料になります。
『New Trombone』では他の曲はマイクから少し離した感じでクリアに聴こえているので、その辺りの音色感で実際は吹いていたんだろうなと推測します。
それでもフラーの音色は、他のプレイヤーがマイクをベルに突っ込んだ以上にあたたかい音です。

Tracks

"Seeing Red" (Sonny Red, Barry Harris) - 7:35
作編曲はソニー・レッドとバリー・ハリスとクレジットされているので、なんであれソニーが持ち込んだオリジナルということになります。
アルバム・タイトルと曲名だけ見たらレッド・ガーランドのRedかなと思いきやソニー・レッドのRed。ただガーランドと共演するということで、オマージュの意味で洒落を効かせて持ち込んだのかも知れません。
bpm=190 key=F
構成は2小節目がサブドミナントのツーファイブになる、いわゆるコンファメ進行のブルース。チャーリー・パーカーですね。
せっかくなので前作ハンク・ジョーンズとガーランドのコンピングの違いがバンドサウンドにどんな変化をもたらしているかに着目してみます。
長めの音も多用し、歌うように美しいヴォイスリーディングで内声を紡ぎハーモニーを奏でるハンク。
対してガーランドはすべての音形が明確でリズムに躍動感を与えます。音域も広く駆使しているので高い位置からのコンピングが明るい印象にもつながっています。

"Stormy Weather" (Harold Arlen, Ted Koehler) - 7:00
Bbのバラード。フラーがフィーチャーされています。ミュートを着けて吹いているようなとにかくソフトなトーンですが、恐らく生音…だと思います。これがミュートでの演奏なら、このアルバム全曲ミュートで吹いていることになってしまう。。
発音に一切無駄がなく、舌で止めているのかサスティンが少ない音。ただそれだけだとストレートな音と表現に終始してしまうのですが、それでいてリラックスして響くのがフラーの音の特徴。
まるでソフトペダルを踏みこんだピアノのようです。

"Cashmere" (Curtis Fuller) - 7:17
Cマイナー。これぞフラーというようなダークな作風。プレイスタイルこそ以降の作品では試行錯誤も垣間見えますが、作曲も音色もこの時期には既に完成しています。

"Slenderella" (Sonny Red) - 6:45
ミディアム・ファーストのAbブルース、ソニーの曲はバップ全開ですね。この曲で着目したいのはフラーのソロの内容です。
この時期フラーは熱心にマイルスを聴いていたそうですが、この曲のソロでのスペースのとり方、モチーフの発展の仕方は当時のマイルスの影響を特に強く感じます!ソロを吹いているのはフラーなのですが、スペースによってリズム・セクションの一挙手一投足が曲に余すことなく反映され、バンド全体が徐々に無理なく熱を帯びていくのを聴くことができます。
高いテンションからドラムとのヴァースに移行しテーマに戻る。無駄がない完璧なアンサンブルを、ほぼ20代前半のメンバーがこなしてしまうのですから如何にビバップが成熟期にあったかがよくわかります。

"Moonlight Becomes You" (Johnny Burke, Jimmy Van Heusen) - 7:43
こちらはソニーがフィーチャーされたバラードナンバー。ソニーのファットなアルトの音色とガーランドのブロックコードのソロが堪能できます。

"Roc and Troll" (Teddy Charles) - 7:42
変則的な構成の曲。基本的なコーラスのフォームはABA’の24小節ですが、テーマと各プレイヤーのラストコーラスにはA'の7小節目から8小節間Vampを挟みます。
ファンファーレのようなモチーフと2管が絡み合うライン、ビルドアップしていくヴァンプと構成が見事な曲ですが、演奏はアレンジを再現するに留まっているのが惜しいところ。リハーサル、テイクともに最小限で録り終えたのだと思います。他の曲と『こなれ感』の差が顕著です。
この録音の四日後に別アルバム『Curtis Fuller and Hampton Hawes with French Horns』の録音があり、編成こそ違うものの同曲が再録されています。そこではよりリラックスした演奏を聴くことができます。

余談ですが作曲者のテディ・チャールズはジュリアード卒のヴァイブ奏者で、マイルスやミンガスのアルバムにも参加しています。プレイヤーとして活動しながらレコードの作詞・作曲・編曲・プロデュースなどの裏方もこなす才覚のある人物だったようです。曲名の"Roc and Troll"は当時流行の兆しがあった”ロックンロール”をもじったものですね。
60年代初頭には商業的にはロックが台頭し、レッド・ガーランドでさえ70年代に入るまでプロとしての活動を中断してしまいます。


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