写真展『ここで種を蒔く』
幼かった頃、両親が共働きだったので、学校から帰るといつも祖父母と過ごしていた。
祖父は、朝早くから畑仕事に精を出し、祖母は夜遅くまで薄暗い明かりの下でミシンの内職をしていて、一日中休むことなく働いていた。
祖父母からはいつも土の匂いがして、僕はその匂いが好きだった。
実家を離れて生活するようになり、写真に興味をもつようになってから祖父母にカメラを向けるようになったことはごく自然なことだった。
あるとき、ファインダーを通して祖父母と娘を見ていると、自分の幼い頃にタイムスリップしたような感覚を覚えた。懐かしさとともに、湧き上がる祖父母に対する幼き日の想い。それは僕を今まで支えてくれていた記憶だった。
この写真は祖父が亡くなり、その後次女が生まれ、長女が小学生になるまでの家族の記録だ。
子どもの頃から永遠に続くと思っていた実家の景色も祖父を失ってから、少しずつ変わっていっているけれど、祖父が残した畑に立つ祖母の姿だけは今も変わっていない。
僕は、祖父母が僕のカメラの前に立ち、伝えようとしてくれることを娘に伝えたいと思う。
いつの日か訪れる実りの日を待ちながら。
最後までご覧いただきありがとうございました。これらの写真は、僕が撮り続けている祖母と娘の写真を現時点でまとめた『未完』の作品です。家族の形は時間とともに変化し、その中で関係性も少しずつ変わっていくと思うけれど、きっと変わらないものがあると信じて、これからも彼女たちにカメラを向けていこうと思います。
いつかすべて写真になる日まで。 2020年6月 川原 和之
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