さよならだけが人生か。でもさよならにも言い方がある。(08)

11月29日。
母の主治医より電話。
先日からゼリー食で
嚥下の状態を見ると同時に、
造影剤を入れて、どのくらい食道に、
どのくらい気管に入っているかを
検査したとのこと。
結果としては、飲み込めているように見えて、
ぜんぜん食道のほうに入っていっていない、
との報告を受ける。

実際のところ、一旦治った肺炎が、
口から食べる練習を始めてから、再び再発し、
再度、治療が必要になってしまったという。

とはいえ、鼻の管はやはり苦痛なようで、
放っておくと自分で引き抜いてしまうので、
手袋をしている状態だという。

嚥下の問題は、パーキンソンの進行による
ところが大きいようで、こちらの薬の調整も、
とる時間帯を変えてみたり、工夫をしているが、
効果が見られない、とのことだった。

この先も、すべての必要な栄養を
口からだけとることは、
難しいだろうというのが、
主治医の見立てだった。

主治医によると、口から栄養が取れない場合、
考えられる方法は以下の3つになるという。
①経鼻胃管:現在母が装着している鼻から胃に
チューブで栄養を送り込む方法
②胃ろう:胃に穴を開けて、そこから
直接栄養を取り込む方法。
③静脈点滴:点滴で栄養を静脈に送り込む

通常、腸が機能している場合には、
①か②が常套手段だが、母の場合、
胃ろうは感染症リスクもあり、
現在の経鼻胃管のままがよいのでは、
とのことだった。

今後も口から食べられるようになる
見込みはほぼなく、
経管栄養に頼らなければいけないこと、
また、サチュレーションが低く、
定期的に酸素が必要になることから、
肺炎の治療が落ち着いたら、
つぎの落ち着き先としては、療養型病院、
または経鼻胃管に対応できる施設、
ということになると思う、
とのことだった。

主治医からの話を踏まえて、同日午後に、
病院の患者支援室へ。
ここで療養型病院の紹介をしてもらう。
ただでさえ、唯一の生きる楽しみだった
口から食べることを奪われてしまうので、
できるだけ、天井を見て過ごすだけの
病院ではなく、
リハビリが充実しているところを
紹介してほしい旨伝える。

ここで、驚いたのは、経鼻胃管の威力だ。
もともと小柄な母ではあったが、
施設にいる間に、
体重は24キロにまで落ちていた。
それが、入院して経鼻胃管にしてから、
30.1キロにまで増えたのだという。
おそらく身体はかなりの飢餓状態に
あったのかもしれない。

ほんとうは、経鼻胃管よりも、
胃ろうにしてしまうほうが、
受け入れOKな病院が多いとのことなのだが
母自身も「胃ろうは絶対にいや」
と言っていたし、
いたずらに寿命を延ばしてしまう
かもしれない胃ろうを、
パーキンソン病で身体機能が
激しく低下していく母に施すのは、
家族としても、
どちらかというと反対だった。

経鼻胃管をしていても嚥下に関する
リハビリをしてくれる療養型病院は、
かなり限られているようで、
多摩地区にある3つの病院を
紹介してもらうことになった。

食べることだけが、最後の楽しみだったのに、
それすら失ってしまった母は、新しい場所で、
なんらかの、生きる楽しみを見出すことが
できるだろうか。

努力家の母だから、リハビリのなかで、
なんでもいいから、昨日できなかったことが、
今日ほんのすこしできたという、
わずかな手応えをつなぎながら、
生きていけたらいいのだけれど。

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