さよならだけが人生か。でもさよならにも言い方がある。 (13)

12月16日。
看護師さんから電話があり、
またおむつとパッドを持ってきて欲しい、
とのこと。
すごい消費量のような気がするが、
言われるままに購入して、
いつものように自転車で持っていく。

療養型病院への転院の手配については、
病院の患者支援室にお願いしてあるので、
いまは、とにかく、待つしかないのだが、
話が進んでいるのかどうか、どうにも気になる。

患者支援室の相談員さんによると、
療養型病院では、パジャマも指定のものがあり、
洗濯も家族がするのではなく、
業者に一括して依頼するのが普通であり、
おむつやパッドなどの消耗品も、
一律で数万円、毎月の請求にのってくるため、
家族がすることは、なにもなくなる、
とのことだった。

そもそもの計画では、1月に施設に戻るという
予定だったので、家のなかのどこになにが
入っているのか、弟にもわかるように、
母の洋服を一点一点写真に撮って、
衣装ケースに仕分けし、
コートやカシミアのセーターなどは、
念のため、ドライクリーニングしたうえで、
整理していた。

高価な洋服を持っているわけではないけれど、
母は、どちらかというとお洒落なほうで、
改めて眺めてみると、
(身体が不自由になる前に買ったものは)
ちょっとだけ変わったデザインのものが多く、
彼女自身、ていねいに手入れをしていたようだ。

老健に入ったり出たりするようになってからは、
とにかく着やすいもの、すべりがよく伸びる素材、
というのが、優先事項になって、
それらの服には、彼女の名前入りのバーコードが
(施設で洗濯の際に紛失したりしないように)
貼り付けられている。

パーキンソン病が進行してからは、
朝の着替えにも、かなり苦労していて、
朝5時に起きて2時間くらいかけて着替えている、
と言っていた。
スタッフさんに手伝ってもらうことも
もちろんできたのだが、人に委ねてしまったら、
自分でできることがまたひとつ減ってしまう、
というのが、恐怖だったのだろう。

服についた名札は、
母の辛い生活の象徴のような気がして、
なんとなく見たくない気持ちになる。

療養型病院に行くということは、
おそらくもう、
これらの服に袖を通す機会もないだろう。

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