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卵子凍結という選択について

こちらは2021年2月に書いた記事を加筆修正しています(2021年10月26日)

先日、新しい卵子凍結事業が立ち上がったことがニュースになり、あちこちで様々な波紋を呼んでいるようです。

賛否様々な意見を見かけますが、卵子凍結が抱える問題点について考えてみました。


卵子凍結という選択肢はありなのか、どうなのか?

私は個人的には卵子凍結という選択肢が広がっていくことはありだと思っています。
決めるのは当事者であって、周りが「卵子凍結なんて必要ない…」と言う権利もなければ、「卵子凍結をするべき…」と言う権利もありません。

早発閉経のリスクが高い人などは、卵子凍結という選択肢があることで将来的に自分の遺伝子を持った子供を持てる可能性を残すことだってできます。

個々が卵子凍結を考えるには様々な背景があるからこそ、メリット・デメリット・費用対効果をよく考えたうえで、卵子凍結をするかしないかは当事者が考えていくべきことなのだと思います。

ただし、そのためにはしっかりとした知識と情報の提供がまず必要なはずです。
しかし、果たして十分な情報が提供されているのか?と言うと、答えはNo…というのが今の現状なのだと感じています。

だからこそ、十分な情報も知識も提供されず、「卵子凍結をすれば明るい未来が待っている」というのは少々行き過ぎた考え方のような気がしてなりません。

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卵子凍結をすれば妊娠が保証されるわけではない

そもそも卵子凍結をしておけば、必ずしも妊娠が保証されるわけではありません。
まずその説明がどれだけ十分にされているのでしょうか?
卵子凍結はまずその説明から始まるのだと私は思っています。

何歳で何個保存すれば、どれだけの妊娠率があるのか?
すでにいくつかデータも出てきているようですが、まずはその情報を提供するのが先だと思っています。
そのデータを見たうえで、自分はどうしたいのか?個々が考えて決めていく必要があるのではないかと考えています。

卵子凍結は決して万能な技術ではありません。
あくまでも将来の選択肢が一つ増えるということだけなのです。

それにある程度有効なのは、30代前半までの女性です。
30代後半になれば、妊娠率は低下しますし、卵子凍結で妊娠率をあげようと思えば多くの卵子の保存が必要になってきます。

1個凍結保存すれば妊娠するわけではないのです。
そして多くの卵子を凍結するためには、排卵誘発剤を使ってなんどか採卵を繰り返す必要があります。
無理に一度にたくさんの卵子を採卵しようとすれば、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクもあがってしまいます。

そして採卵回数が増えればそれだけ費用もかかってきます。
そういう情報もきちんと提供したうえで卵子凍結をするかしないか考えていく必要があるのだと思います。

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卵子凍結をして終わりではない

独身の卵子凍結の場合は基本、未受精卵です。
ですから、凍結卵子を利用する場合は、精子と受精させて、培養させて、移植するというステップが必要になります。

もしかしたら、うまく受精しないかもしれないし、受精はしてもうまく育たない可能性もありますし、着床しない可能性もあります。

不妊の原因は決して「卵子の老化」だけではありません。
精子に原因がある場合、着床に原因がある場合、夫婦染色体に原因がある場合もありますし、着床し育ち始めたものの、不育症で流産を繰り返してしまう場合もあります。

卵子凍結はあくまでも最初のステップであり、その後にもクリアしなければならない点がたくさんあります。

そしてその後には妊娠・出産・育児がまっています。
ただ漠然と卵子凍結をするのではなく、どのようなライフプランを描いているのかも同時に考えておく必要があります。


サービスだけが独り歩きする危険性

私が個人的に一番危惧しているのはこの点です。
卵子凍結のメリットばかりが取り上げられて、卵子凍結サービスだけが独り歩きしてしまわないだろうか?と言う点です。

ここは推測ですが、多分卵子凍結は保険適用にならないでしょうから、薬剤費用も採卵費用も凍結処理の初期費用も各クリニックが自由に決めることが出来ます。
言い方は失礼かもしれませんが、一つのビジネスチャンスになります。
(ビジネスがダメとは言うつもりはありませんが…)

十分な知識や情報提供をすることもなく、ただビジネス目的で参入し、各クリニックが独自に好きなようにやるという可能性も絶対にないわけではありません。

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卵子凍結にもある程度の標準化が必要なのでは?

そもそも不妊治療には標準的なガイドラインと呼ばれるものがありません。
各クリニックが独自の方法で不妊治療を行っています。
今後、保険適用に向けてこの部分がどれだけ改善されるのかはわかりませんが、卵子凍結も広く一般的に行うのであれば、ある程度の標準化が必要なのではないかと感じています。

例えば、30代前半である程度の妊娠率を確保したければ、海外のデータですが凍結卵子の個数は20個~30個程度とも言われています。(Cil AP, Bang H, Oktay K. Age-specific probability of live birth with oocyte cryopreservation: an individual patient data meta-analysis. Fertil Steril. 2013 ;100(2):492-499)

採卵できる卵子の数は卵巣の刺激方法によってかわってきます。
もちろん個々の状態に影響されますが…例えば高刺激と呼ばれる卵巣刺激であれば、1回もしくは2回の採卵で目標個数が確保できるでしょう。
しかし、低刺激と呼ばれる卵巣刺激だと、人によっては4回、5回と採卵が必要になってくる場合もあります。
そうするとそれだけ費用もかかってくることになります。

また、この凍結する目安の個数もクリニックによっては様々です。
「とりあえず10個程度」と卵子凍結希望者が手を出しやすい数を示しているクリニックもあります。でも10個での妊娠率の確率をどこまで説明し、希望者がどこまで納得しているかは怪しいところです。

そして何より気になるのが凍結保存できる年齢の制限です。
基本的には34歳未満が推奨されていますが、何歳までという明確な決まりはありません。
ビジネス目的だけで考えれば、40歳過ぎて、凍結卵子での妊娠の可能性がかなり低くても採卵できればと受け入れるクリニックも出てくるでしょう。

しかし、その卵子凍結は本当に当事者のためのものになるのでしょうか?
とはいえ、良心をもって凍結を断っても、他のクリニックで受け入れてくれればそちらに流れていってしまいます。

実際に不妊治療では似たような現象が起こっているように感じています。
何も標準化されることなく、個々のクリニックが独自路線を進んでしまば、それは不妊治療の世界の二の舞になってしまう可能性だってあるのです。

卵子凍結を進めるのであれば、並行してしっかりとガイドラインも作っていってほしいと願うばかりです。

決めるのは周りではなく当事者自身

ただ10年前、もしこのような選択肢があれば、私の場合は未受精卵ではないけども受精卵での卵子凍結を選んだかもしれないなと思う時があります。

受精卵で凍結をしておいて繁忙期2年ほどをやり過ごしてから、移植をするという選択肢もあったのではないかな?と…

この2年が私にとっては35歳を超えるか超えないかの2年だったため、当時は不妊治療退職を選択したのですが、あの当時に卵子凍結という選択肢がもっと一般化されていれば考えただろうと思います。

もちろん会社の状況にあわせて妊娠のタイミングを考えなければならない社会を変えていく必要があるのでしょうが、理想を言うのは簡単で、そう簡単に企業や社会が変わっていくわけではありません。

10年後も同じような状況であっては欲しくないですが、社会を変えていく間にも、自分は年齢を重ねていくわけです。
だったらその時に出来る最善の選択肢を取ることを考えただろうなと思います。

卵子凍結するかどうかを最終的に決めるのは当事者です。
それに対して周りが、あれこれジャッジをすることはできません。
周りが出来るのは、あくまでもニュートラルな適切な情報提供なのだと私は思っています。

第3者は、卵子凍結を煽るわけでもなく、卵子凍結を否定するわけでもなく、判断するための情報を提供していくべきなのだと思います。

ただ現時点では、卵子凍結が不妊予防につながるわけではありません。
卵子凍結をして終わりではないという項でも書きましたが、不妊の原因は「卵子の老化」だけではないからです。

こちらについてはまた別記事でふれていこうと思います。

そしてもう一つ懸念していることがあります。
それは卵子凍結によって、社会が女性の産み時をコントロールしてしまうリスクです。

リプロダクティブ・ヘルス・ライツの考え方がまだまだ浸透していない日本。
産むも産まないも、いつ産むのかも、卵子を凍結するのか、しないのかもすべて決める権利は当人あります。
でもそれらの理解がまだまだ進んでいないのも現状なのです。

こちらもまた別記事でお伝えしていければと思います。

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