不妊予防という言葉が独り歩きするリスク
最近ネットニュースなどでもよく見かけるようになった”不妊予防”という言葉。
国が施策としても打ち出したことで、「不妊は予防できる」と思われてしまうのではないかと危惧しています。
不妊の原因がわかっても予防できるとは限らない
不妊の原因は様々です。
検査しても特に原因はみつからないというカップルも少なくありません。
そして、診断名が付くもの(例えば子宮内膜症など)であっても、なぜそのような状態が起こるかはわかっていないものも多くあります。
確かに無月経や、生理痛、生理過多には不妊の原因となるものが潜んでいる可能性があります。
早い段階でそれらのリスクに気が付き、婦人科で相談しながら適切な対応(ピルの服用など)を取ることは大切です。
また、妊娠を望んだ際にも10代、20代からのかかりつけ医がいて、相談できる環境は不妊治療へ素早くアクセスするためには必要なことだと思います。
しかし、不妊の原因はそれだけではありません。
検査をしても特に原因がみつからない、体外受精までステップアップしても妊娠にたどり着かないと悩んでいる人も少なくありません。
確かに、10代、20代の間に子宮内膜症や生理不順に気が付き婦人科を受診をすれば、早いタイミングで不妊治療にアクセスできるでしょう。でも、だからといって、必ずしも”不妊に悩まず妊娠できる”とは残念ながらならないのです。
そしてそれらの受診を早期の不妊クリニックへの受診につなげるためには、婦人科に携わる医師の理解も必要です。
しかし、残念ながらすべての婦人科の医師にそこまでの理解があるとは思えないのが、今の婦人科や不妊治療を取り巻く現状なのではないでしょうか?
不妊の原因は女性だけではない
そして今回の不妊予防の取り組みは女性へのアプローチばかりですが、不妊の原因は男女半々。女性だけが原因を持っているわけではありません。
仮に不妊予防を謳うのであれば、男性への働きかけは必須です。
そもそも喫煙は100害あって一利なし。
男性が積極的に不妊検査を受診しないのも、不妊治療を長引かす要因の一つにもなっています。
また男性の場合は生活習慣病(肥満 糖尿 高脂血症など)と精子の状態の関連性も示唆されているデータもあります。
不妊予防を考えるのであれば、これらも含めてきちんと啓発していく必要があります。
今回の取り組みでは、”不妊の原因=女性”という誤った認識を植えつけかねません。
不妊を自己責任論で片付けられるリスク
不妊が予防できるという間違った認識が広まってしまうことで、不妊を自己責任論で片付けられてしまう可能性もあります。
1年少し前に、不妊治療の保険適用ことがSNSで話題になった際も、不妊を女性の自己責任論で片付けようとする投稿をあちこちで見かけました。
不妊は当事者ではどうすることもできません。
不妊になったのは予防を怠ってきたからだ…なんて言う論調が独り歩きしないことを切に願うばかりです。
そもそも今回の不妊予防支援案は啓発活動と自己申告によるセルフチェックがほとんどです。
せめて不妊予防を謳うのであれば、妊孕性に関わるホルモン値の血液検査や婦人科検診の内容をもう少し健康診断項目に組み込んでもいいのではないかと思います。
そのうえで、不妊に関する啓発がされるのであればまだいいのですが…
詳しくはHPで記事にしました。
根拠のない不妊予防ビジネスが広がるリスク
そしてもう一つ懸念しているのが、根拠のない不妊予防ビジネスが広がるリスクです。
そうでなくても、妊活市場にはエビデンスの乏しいトンでも妊活商法が溢れかえっています。
温活、〇〇栄養学、デトックス、子宝〇〇… 妊活スピリチュアル
極端な添加物批判や、無農薬押し、トンでもなサプリメントや施術類
最近は妊娠の為の体質改善を謳う医療機関すら出てきています。
妊活や不妊で悩んでいる人に向けた怪しげな妊活広告をネット上で目にしない日はありません。
そんな中、”不妊予防”なんて言葉にお墨付きを与えてしまったら…
ますますそれらの怪しげなビジネスが広まっていってしまうのではないでしょうか?
国のお偉い方々が思っているほど、このトンでも妊活ビジネスの構造は単純ではありません。
そもそもこのトンでも妊活ビジネスの厄介なところは、通常の不妊治療にアクセスさせないところです。
まだ、不妊治療しながら…であればよいのですが、”不妊治療をする前に”や”不妊治療は必要ない”などいう言葉をキャッチコピーとして使っているため、本来不妊治療にステップアップするべき人が、自己流のトンでも妊活や体質改善にはまり、結果的に不妊治療へのアクセスが遅れるなんてことも出てきます。
”不妊予防”という言葉の独り歩きには、トンでもビジネスまで付随してしまうリスクも潜んでいるのです。
プレコンセプションケアの概念が広まることは大事 でも安易に不妊予防と繋げないでほしい
プレコンセプションケアとは…
今回、厚生労働省から発表された不妊予防支援パッケージを見ていると、このプレコンセプションケアの考えが基にあるのではないかと思っています。
HPVワクチンの普及、子宮頸がん検診の普及、月経に伴う不調時の婦人科へのアクセスなど、どれも重要な支援であり、今まで置き去りにされてきた部分でもあります。
しかし、これらは子供を産む、産まないに関係なく、女性のヘルスケアに関わる支援の一つです。
本来、子供を望む女性だけが受けられる支援ではないはずです。
女性の健康に関する支援を安易に”不妊予防支援”という言葉に結びつけるのではなく、女性のヘルスケア支援として打ち出し、取り組んでいってほしいなと思います。
その中で、産む産まないを自分で決められ、妊孕性に関する正しい知識を男女ともに得られる社会になればと思います。
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