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限界なのか?もっと出来るのか?

「足の具合はどうだ?」
試合前、監督にそう聞かれた。
そんなことは初めてだったので、少しドギマギしたぼくは、とっさに「少し痛いです」と答えてしまった。
あれが全てだったと、後になって気づいた。

めっきり寒くなってきた秋、いまだにぼくたち三年生は、サッカー部を続けていた。
とは言っても、三年生はたったの三人しか残ってはいない。
一年生の最初に35人いた部員は、練習の厳しさに耐えられず、どんどん脱落していった。
ここ数カ月で「受験勉強のため」という理由で、まとまった人数が辞めてしまった。
ぼく自身も現状では受験が上手くいく成績では無かったが、早々に一浪する覚悟を決め、退部をしないと決めていた。

   全国大会出場!

などといった、カッコいい具体的な目標があるわけではなかったのだけど、出来るだけ勝ち続けて、出来るだけ長くサッカーを続けたかった。

高校サッカーで最も大きな大会は、高校選手権だろう。
毎年お正月にテレビで放映されることで、一般にも知られている。
この年、ぼくたちの高校は県大会のベスト16まで進んだ。
あと一回勝てば、次の試合からはテレビ埼玉で放映される。
そのため、ここは是非とも勝ちたい。
ちなみに高校野球は一回戦から放映される。
実に不公平だと思うが仕方がない。
それがスポーツ間の格差というものだ。
高校生ながらに、何となくそのように理解していた。

いつの試合でも相手のエースをマークするのが、ぼくの役割だった。
当時はツートップと言ってフォワードが二人いるフォーメーションが主流で、たいていはそのうちのどちらかが上手くて、チームのエースで得点王だ。
それで行くと、その試合の対戦相手にも明確なエースがいたので、いつもならぼくがそのマークにつくはずだった。

最後の大会前だというのに肉離れを起こしてしまったぼくは、勝てそうな相手との大会1試合目はベンチで観戦させられていた。
いつもはどんな試合でもフル出場していたが、とにかく休むことが治る近道だったのだ。
その甲斐あって、いつも通りのパフォーマンスで2回戦以降は出られるようになっていた。
それでも完璧に大丈夫かと問われると、そうとは言い切れない怖さはあったのだけど。

「そうか」
監督は少し考えてから、相手エースではなくもう一人のフォワードのマークに、ぼくのポジションを変えた。
そしてエースをマークする事になった後輩は、俄然張り切ってしまった。
しまった、というのは、それが裏目に出たということだ。
前半、無理にラインを上げすぎてスルーパスに対応できずに1点目。
そこで耐えている時間がしばらくあったのだが、後半の開始早々にペナルティーエリア内でスライディングタックルがエースの足をさらってPK。
これをきっちりと決められた2点目が、ほぼ試合を決定させた。

終わってみるとスコアは5対0だった。

完敗過ぎて涙も出なかった。
これが限界だったのか、それとももっと出来たのか。
ぼくにはわからなかった。
やり切らなければ、やはり後悔するのだろう。

そして三月、順当に一浪が決まった。

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