交渉力~結果が変わる伝え方・考え方 著者:橋下 徹
みなさん、おつかれさまです。
本日は、新書の紹介です。著者は、大阪府知事、大阪市長、維新の会代表を務めた橋下徹氏です。
巨大組織をまとめてきた中で、体得してきた「橋下流の交渉術」が伝えられています。
交渉に勝つための3原則
交渉に勝つための原則は、「利益を与える/譲歩する」「合法的な脅しを使う」「お願いする」の3つ。
交渉は「相手に何をどれだけ与えられるか、何をどれだけ譲るか」で決まる。こちら側がマイナスにならずに、相手には利益になるものを見つけ出すことが大切になる。
一例として、はじめにわざと厳しい期限を設定し、あとから期限を延ばすのはその典型だ。これを「仮装の利益」という。最も重要なノウハウのひとつである。
「合法的に脅す」というのは、相手に「交渉を決裂させたら大変なことになる」と思わせる。できれば交渉に挑む前に圧をかけておくことが望ましい。
できれば他人の力を借りずに自分の力によって脅しをかけるべきだ。
上手くいかない場合は、「お願いをする」ことも検討するべきだ。
しかし、相手が全く譲る気がない場合は、交渉を終わらせるしかない。
交渉の終わらせ方も原理原則がある。「交渉は握手で終わる」というものだ。
敵対的交渉でも握手できる余地は残しておく。人間関係を決定的に破壊しないように注意。
「利益を与える/譲歩する」交渉術
交渉前に、自分や相手の要望を整理し、優先順位をつけて、譲歩できる内容を用意しておく。そして、優先順位の低いほうから、1枚ずつカードを切っていくべきだ。
相手の要望については、推測するしかない。会話を重ねながら相手の要望を探り、それらの優先順位を把握する。
相手の手の内を読むには経験しかないが、著者の経験上、有効なのは相手の業界や組織特有の価値観、判断基準から推測する方法だ。
要望と譲歩できるものが把握出来たら、あとは譲歩のカードの切り合いだ。
交渉は自分との闘いだ
交渉には互いの「価値観」「思想・信条」「哲学的なもの」を入り込ませてはいけない。交渉がまとまらなくなるからだ。
現在の日韓関係がその典型例である。歴史認識の違いという価値観・哲学的なものを交渉に持ち込むから、平行線の議論が延々と続いてしまう。
また、交渉は自分との闘いでもある。自分の獲得目標を最小限に絞り込めるかどうかで、交渉が成功するかどうかが決まる。
膨大な交渉事項に優先順位を付けられるかどうかで、勝負は決定する。
交渉がまとまらないときはどうするか
交渉が膠着したら、互いの要望をさらに細かく要素に分解すると、自分と相手の一致点を見つけやすい。
絶対に譲れないラインであっても、譲歩の余地を見出していくべき。
国のトップの交渉術から学べ
アメリカのドナルド・トランプ氏は交渉の名手だ。
2020年のイランとのやり取りを例に挙げよう。
アメリカがイランに対する経済制裁を加え続けることで、軍事衝突が続いた中で、ついにアメリカ兵に死者が出た。さらにアメリカ大使館が攻撃を受けたことで、イランの革命防衛司令官を空爆によって殺害した。
これに憤ったイランは、アメリカへの報復を宣言したが、トランプ氏はイランが報復してこれば、さらにイランを攻撃すると宣言した。
そしてイランがイラク国内のアメリカ軍事施設を攻撃し、「アメリカ兵80名を殺害した」と宣言した。
いよいよ全面戦争に突入か、と世界中に緊張が走った。
だがトランプ氏が「アメリカ人に被害はなかった」とし、「これ以上は軍事力を使いたくない」と発言したことで、戦争は回避された。
世間では非難一色のトランプ氏の行動だが、「これはアメリカとイランの要望と譲歩を極限まで整理した一手だった」という。
要するに、トランプ氏にとって「アメリカ国民の命」が絶対に譲れないラインであり、それ以外は譲歩したということだ。
だからアメリカ軍施設が破壊されても、「アメリカはイランのミサイル攻撃におじけついた」とイランが発表したことも許した。
一方でイランも「アメリカに対する報復」以外は譲歩することにしたのだろう。実はミサイル攻撃前に、アメリカ国民に死傷者が出ないように攻撃目標を明らかにし、アメリカ兵が逃げられる時間的余裕を設けていた。
こうして絶対に譲れないものと、譲歩できるものを明確にシビアに整理することで、どちらも「やるときは、やる」というメッセージを世界に示すことができたのである。
北朝鮮の金正恩氏は、小国が中国やアメリカなどの大国と交渉できるのも、国際社会は力と力のぶつかり合いだという事を理解し、核開発に拘り続けることで、結果として力を得ているのである。
翻って日本の政治家は、どうだろうか?外国と対等にやり合える政治家はどれほどいるだろうか?トランプ氏や金正恩氏の交渉術に焦点をあてると、その態度や振る舞いに注目してみてほしい。学ぶべきところは大いに学ぶべきである。
交渉は単なる押し引きではないし、粘るものでもない。ましてや感情に訴えるべきものでもない。
互いの要望を整理し優先順位をつけ、譲歩のカードを1枚づつ切り合う、知的な技術だ。
著者は、「絶対に譲れないことだけ死守すれば、それで交渉は成功だ」とも言う。
本書によって、自分自身や相手の価値観を、より深く理解しようとする姿勢や交渉に必要なものは、自己理解と他社理解であることを気づかされた。
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