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歴史的V逸から優勝へ。万年2位から横綱野球までに激変させた「1点の価値」にこだわった哲学。【阪神タイガース】

阪神タイガースが18年ぶりのアレ、いや優勝が片手でカウントダウンできる日までやってきた。これを書いている本日の巨人戦のカードを3タテで終えれば、最短で無事甲子園にて歓喜の輪を見届けることができる。

ご存じの人も多いがタイガースというチームは90年代から振り返っても春先は調子が素晴らしく優勝できるチャンスを何度も掴んだ年を持ちながら、

夏場から秋にかけて大失速を繰り返し世間からは「万年2位チーム」と揶揄されいつしかファンまでもが自称し卑屈になり果てた。

極めつけは現監督でもある岡田氏前政権の08年の13.5ゲームのV逸、2010年の歴史的打線を有して悪夢のような引退試合からの失速、そして21年の同率1位による勝率差でのV逸は記憶に新しく、次世代に続くファンへ着実にトラウマを深く刻みつけられてしまった。

「戦力は整っているのに優勝ができない。」そんな負けを味わうジレンマを抱えつつも、時折歴史に刻むようなドラマチックな試合を見せられる球団もこのチームだけだとファンはまた惚れてしまい今や全国の球場を埋め尽くすほどのファンを巻き込み応援し続ける。

そんな中今オフ決まった第2次岡田政権の就任劇。超変革から種を撒いてきた阪神球団社長や副社長の勇退から阪急組織に権利が変わった上でのこの就任劇と矢野政権時から不快ともとれる批判解説も多かった岡田氏の指名に賛否はありながらも、ここまでの戦績で批判していたファンも黙らせた。

春先の快進撃からさらに成長し続けシーズンの集大成と呼べる9月の2位広島直接対決では勢いだけでは寄せ付けない3タテ。
まるで勝ち方を熟知した見事な「横綱野球」を見せ既に確信に近い強さで「V逸のジンクス」はまるで感じさせない。

歴史的V逸から18年を経た岡田前政権と万年2位球団を横綱へと進化させた違いは何なのか。記事も引用しながら考察したい。



「普通のことを普通にやる」遂行の裏にある、監督の哲学


岡田氏の戦い方はとにかく相手に「流れ」を渡さない作戦を徹底していた。
ランナーが出れば確実に送りバントで進めチャンスを作って初回から流れを持ち込んだまま守り抜く野球。

リードをしていてもそれは徹底しランナーが出れば確実にチャンスメイクし一振りで決められる打者のカードを切りながら得点を積み重ねる。

守りでは「1イニング1失点まではOK。複数失点には持ち込まなければいい」を投手陣には声をかけ、複数失点すればスパッと変える采配も一貫している。

とにかく奇襲や守備の綻びによる自分たちの自滅で相手に流れは渡さない、渡したとしても渡しっぱなしにはしない。

「普通に野球をやれば勝てるチーム」であることを選手にも分からせるように采配を振るい「このチームは成長し続ける」と言い続けていた。


それほどにも彼が気にする野球における「流れ」とはそもそも何なのか。

こういう見えないものを言語化するのはアメリカなどにはなく日本だけだとも言われているが、よく言われることとしては「投手心理」における影響だとも言われる。

攻撃による好機で無得点のあとのマウンドや守備におけるミスで流れが傾くと言われるのもその後の投手心理に影響し四球や失策が連鎖的におきるのもそのためだろう。

投手の打席でのバントが勝利に繋がるというのもこの論理だけで言っても当てはまる。

その中で岡田氏は初回からランナーが出ればバントをさせて確実に1得点を積み重ね、確率の低い奇襲によって結果的に投手心理も影響させない攻撃は徹底している。

また投手の守る側の心理も尊重している。

「四球出して失点するのはいい。ただ複数までは止めないとあかん」という言葉をかけている。

試合の流れはどうしたって動くことは計算に入れて許容しながら、複数失点によって相手に流れが傾くことは敏感に見ている。

基準は明らかなため他の投手に分業制への切り替えも早いが、1失点であれば攻撃で引き戻せる余裕感は常に持っているともいえる。

また時にイニングで3人以上の継投する試合もあり問題視されることもあるが、それも一貫した流れを断ち切るための采配なのだろう。

しかし攻撃面では昨今セイバーメトリクスという数値が出てからは送りバントの得点期待値は低いという数値が広まり、「2番最強説」の言葉が出るほど現代野球にバントは揶揄される風潮となった。

その中で徹底した流れを引き渡さない野球で手堅く得点を積み重ねられるのはなぜなのか考える。


手堅い攻撃を成功させる「走塁意識の強さ」と「木浪近本の得点圏打率」

今シーズンの考察する上で前提として持ちたいのは、岡田監督がここまでの躍進を果たした裏には金本政権から種を撒き、その成長の世話をした矢野政権の戦力の積み上げと構築も含まれた上での話であるということである。

得点期待値が低いとバント攻撃が揶揄されている昨今になぜ阪神はこれを積み重ねて勝ち続けているのか。

ここには大きな要素として「走塁」と「打線の流れ」の二つの要素で考えられる。

確かにバントを混ぜる攻撃は複数得点はまず期待できない。今年の阪神のスコアボードを振り返っても1イニングで1得点しかしていない試合はかなりの数がある。

しかし裏を返せば今年の阪神の強さは得点をどの打順からでも積み重ねることができるのである。

もう一度今年の試合をなんでもいいがスコアボードで振り返ってほしい。そう、1番から始まろうが6番から始まろうが着実に1点を積み重ねてリードを守ったまま勝ってる試合が多い。

もちろん12球団1の投手力と中野をセカンドに落ち着かせたことで生まれた内野守備力もあってこそできる作戦ともいえるが、この辺のことは既に分かり切ったことで自分もかいたのでそれを見てほしい。

監督が複数失点を嫌がる理由はここにも繋がっていると思える。


ただ攻撃面の視点で分析すると、バントを混ぜながらどの打順でも1点を積み重ねられる一つはまず全選手の「走塁意識の高さ」だろう。

これは4年にわたる矢野前政権によって培われた「積極野球」が確実に根差された強さである。

バントで2塁に送るからには単打1本で帰られる走塁がランナーには確実に求められ、これができないランナーであれば得点期待値はさらに下がる結果になる。

また走塁能力が低いとバントも決まらず流れを渡しかねない作戦にもなる。

ただ阪神の強みはこれを1番からクリーンナップまで関係なく全選手高い走塁意識が根差され4年にわたる積極性で洗練されているということだ。

佐藤は盗塁を10個以上決められる能力を持ち合わしていることから言わずもがな、大山は4番ファーストというポジションにいながら現時点でWAR(勝利貢献数値)は現時点で4位で5.5と異常な数値を持っている。

打撃面だけに特化されがちなポジションで盗塁以外での走塁貢献値でも一時期1位になるほどの活躍を見せるほど走塁面での貢献は大いに影響している。

実際に試合に注目すると彼の走塁は光るものが頻繁に見られる。控え選手からコアと言われる4番や5番の外国人野手まで走塁力意識は浸透し、どこからでも堅実な作戦が得点に結びついている秘密はここに一つあると言える。

また本塁打以外で、イニング複数得点に結びついているのも相手の隙をついた走塁意識で奪った試合が数多く存在しているのはうなずける。


そしてもう一つの要素として「打線の流れ」が大きく影響している。

打線は「点ではなく線にならなければいけない」というのは勝つための定石として言われる。

本塁打を60本打つ4番がいても後続が続かない打順では意味がなく、他が線になっていても真ん中の3番や4番が打てない「点」になると勝利に繋がらない。

個々が役割を担い、打順が流れるような線になることで得点期待値は大きく跳ね上がる。「監督が寝てても勝てるのが理想のチーム」と落合氏が言ってるのもここに起因する。

今年の阪神の場合も1番から9番は1年通して循環するように回るいわゆる「打線」として機能する試合の多いシーズンだった。

特にその大きな要因、そして「打線」の肝となったのが8番木浪と1番近本の得点圏打率の高さだ。

8番木浪は3割3分、1番近本は4割とチームで1位2位の数字をマークしていることからもその貢献度は分かるが、特に価値があるのは彼らが打つ打順を含めての数字。

セリーグには9番に投手が入るため下位打線から上位に上手く繋げられず途切れることは多く永遠の課題となっている。

そこで7番に敢えて打てない選手を置いてバントの役割を多く与え、打撃が期待できる木浪を8番に置くことで投手はバントや見逃し三振をしてもまた上位に繋がるという役割に循環するようになった。

また7番が途切れることで「点」になっても、打撃や出塁が期待できる木浪がいることで上位に繋がる期待値は常に持っている。

つまり9番投手の打順を置くセリーグにおいて岡田監督は

「7番は『点』になっても8番に出塁できる選手がいれば『線』として循環する」という一つの答えを作ってしまったのである。

そしてそこに続く近本が得点圏打率4割を持っていることが何よりも大きい。

これによって木浪が出塁してしまうと高確率で下位からも得点ができてしまい、なおかつ次の7番まで打線が途切れるのを期待できないのである。

例えると阪神は1番から打順が始まる得点期待値が大きいパターンをどこからでも期待できてしまう打順になっている。相手からすれば7番と9番以外はほぼポイントゲッターになりうる打線に見えているはず。

だからこそバントを使っても流れを呼び寄せることができ、どこからでも得点を積み重ねることができていると言える。

そして最後に忠告したいのはバントで積み重ねてはいるが多用はしていないということ。基本的に2番と7番という打線の流れに沿う場所で作戦をとっている。

そして2番最強説ともいえる中野の四球による出塁率とチーム4位となる得点圏打率を残しての「打線」であることは忘れてはならない。


四球革命は「投手王国」育成法と繋がっていた?

今シーズンの躍進を語る上で誰もが語るのは四球による出塁の多さであろう。

昨日の記事にその秘密を今岡打撃コーチが話している。


「自分は選手に『ボール球を振るな』と伝えたことは一度もない。打ちにいきながらボール球を見逃せる技術と、ヒットを打つ技術。この2つは間違いなく同レベルの技術だと思っているので」

「たとえば浮いたボールを狙ってほしい時、その高さを狙えと伝えるのか、低めを振るなと伝えるのか。僕は『絶対にこの高さに来るから、そこにタイミングを合わせる』というタイプだった。だから『誘い球が多いから振るな』とはあまり言いたくないんです」

おそらく要約するとこういうことだと思う。

そしてこの記事を見ての個人的な見解はこれです。


つまり今岡コーチは「ボール球を振るな」と言うと野手はボール球を振ってしまう性質であることを熟知しているから、そうではなくて

狙い球のアプローチだけに集中すれば自ずとボール球を見送れるという判断で「ボール球を振るな」とは伝えなかった結果が繋がったということ。

そこは岡田監督がキャンプから選手に言っていた「追い込まれてもホームベースの大きさは変わらない」の言葉の意図と共有できていたのだろうと。

「ボール球を振るな」と意識するのではなく、追い込まれても確実に来るボールに合わせて「変わらず打ちに行く中で判断すればいい」という指導は合致していたと思える。

そしてその指導は投手育成にも通じる部分はあるのかもしれないということ。

斎藤コーチのような「コースを狙ってボール球が増えるならゾーン内に強いボールを投げられればカウントは稼ぐことはできる。」指導法は阪神にも似たような形であるのは投手を見ても見受けられる。

逆に一つの四球を咎め始めると投手はどんどんコースを狙い始めて四球がむしろ増えていくという例はソフトバンクの監督の発言からも現してしまっています。

岡田監督は投手に技術的なことは教えていないが、先述した
「ピンチになって1失点はしてもいい」という発言からも投打の指導論理は合致しておりむしろ統一感が出たのかもしれないとは考えられる。

この辺も人間がやるスポーツだからこそ声かけ一つだなと思える記事だったので最後に共有しました。


今年の阪神は「派手さはないけど気づいたら淡々と勝っている」という本当に不思議なチームで、1試合通じての勝利のデザインを監督が描いておりあとは手堅く遂行していくという試合の連続だった。

オールスター後は9敗しかしていないというニュースもあるし、書いている今も8連勝中と、

聞かれても実感はないが気づけばそんなに強かったかというのは同じような野球に慣れて安心して見ていられるファン心理の一つだと思える。

このまま自然の流れのまま18年越しの歓喜の輪を見送りつつうまい酒を飲みましょう。




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