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サブプライムの歪みと脆弱性がよく分かる【映画「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」】

あらすじ
<家>を守るために人間ができる事とは?かけがえのない〈家〉を突然奪われた、1人の男。何気ない生活と家族の場所を取り戻す為、非情なビジネスに加担した男を待つ、壮絶な運命とは?

ある不動産屋ブローカーがリーマンショックを利用した不動産のからくりで、家を立ち退かせて金を騙し取って儲けていた実話ベースの話になっている。「マネーショート」からは時系列が事後のデティールな作品。

主人公は立ち退きを専門とする不動産ブローカーガーヴァ―に家を立ち退かれ路頭に迷うが、ひょんなことから彼の下に拾われ奪う側に回り1%の金持ちになっていく。

周知のとおりアメリカでもかつては住宅バブルが起こり、信用の低い人間にも高金利で家を貸し出すサブプライムローンがあった。その根底には購入した家を担保にし、挙がり続ける金利で教育や医療、高級品などの他のローンにも乗り換えやすいという楽観的な世界だった。

こぞって人々は家族を作り家を購入し住宅バブルを支えるが、それがはじけてから職を失いローンを払えず立ち退かされる家族が急増する。

アメリカでは家を購入する際「モーゲージ」と呼ばれる譲渡担保権と言う形でローンが組まれるらしい。要は購入した債務者は債権を銀行に譲渡し、ローンが払い終わるまでは家の持ち主は100%銀行となる。

信用は低くても家は購入しやすくなるが、滞納などによって債権者が担保権を執行したら問答無用で追い出される。作中でもいきなり銀行から通知が来て翌日には警官とブローカーが訪れ強制執行される場面があったがあれは普通にあったらしい。

裁判所に差し止めの控訴をしても銀行が100-0で強いので1分で却下され従わなければ逮捕もされる。

日本では数パーセントは自己資金で賄うために債務者と債権者が持ち主になり、滞納や抵当執行権などの法律は債務者に緩いのでああいった光景は異様に見える。


ガーヴァ―はローン不履行によって立ち退きの強制執行業務をやった後、銀行や抵当金庫に法の盲点を突いた転売で荒稼ぎしていた。目的はほぼ後者にあるので老若男女問わず非情にも数百件の家を立ち退かせていく。

ガーヴァ―らの商法は

「鍵を現金化」・・・空き家にさせ差し押さえ物件に書類で借家人を装い、明け渡し期日までにカギを返すと現金数千ドルを受け取れる法律を利用し銀行から騙し取る。

空き家の設備を盗み転売・・・損失した空き家の設備は抵当金庫が全て補填しリフォームする法律を利用して窃盗し売り出す。

ガーヴァ―は「アメリカは勝者にだけ優しく、敗者には手も差し伸べない国。だからこそ銀行から奪われた金を取り戻す」という理念の下これらを横行し主人公も迷いながらも悪魔の手に誘われていく。

他のリーマンショック後の問題に充てた作品と違うのは、立ち退かれ危機に瀕する人間がサブプライムで調子に乗った富裕層や貧困層ではなく、堅実にコツコツ働き続けた平均的なアメリカ人の家族たちの悲劇にスポットを当てたところだろう。

主人公も同じで自由主義社会で自由な職と競争だけを促した結果、大多数の人間は経済によってあぶれて全ての保証は自己責任に問われる非情な社会になったことをよく映し出されている。結局マネーゲームの尻拭いするのも大衆だった。

現在ではインフレによる利上げで不動産の売買も鈍化しているが、それによって空き家もなく中古相場価格や賃料も高くなって家を失う人は急増していると聞くからこれの比ではないのだろう。

まともな倫理観も失いかけているガーヴァ―と主人公は最後に公文書の偽造にまで手を出して終わっていく。終盤に主人公がそれを告発するがガーヴァ―はお礼を言う最後の瞬間がこの作品の全てだろう。

現代ではもうできないだろうがシステムの歪みを利用したほんの一部の例には思える。



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