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英雄マックスによる「公共と秩序の再建」ミッションはフュリオサへ【映画「マッドマックス」シリーズまとめ】

マッドマックスの最新作フュリオサが今月公開されるということでアマプラに復活してきた過去シリーズを見返してみた。

前作の怒りのデスロードでさえ9年前とかになるので見方も大分変ってくる。

周知のとおりディストピアから行政や司法の管理もクソもないポストアポカリプトまでの荒廃世界を描くシリーズ。

ド派手なアクションや奇抜な悪人たちの振る舞い、イカレタバイクの作りなどを見て楽しむのもいいのだが、

どういう経緯でそんな世界になってゆくのか、

またもしそんな未来がやってきたときマッドマックスに代わる個人のミッションはなんなのかという視点で追っていくと面白いと思うのでその辺を語りたい。



マッドマックス


シリーズに共通する「英雄マッドマックス」のミッションとは


あらすじ
旅先でトッカーター率いる暴走族グループに、最愛の、妻子を殺されてしまったマックスは、暴走族用に開発された追跡専用パトカー<インターセプター>を駆って、たった一人で壮絶な闘いを仕掛けていく!


砂漠化した世界のイメージが強いマッドマックスシリーズだが、1ではまだ街が残っておりギリギリ公的機関が残っていながら経済破綻によって格差は二極化、治安と公衆衛生が悪化していく荒廃世界の狭間の街から始まっていく。

そこからデスロードまでに至る荒廃世界に至る大元の因果は直接的に描かれるわけではない。

ただ見えるのは血気盛んな男たちが暴走族化したことだけがこの終末的世界の象徴ではなく、

そこに住んでいる市民もまた司法省や警察に任せきりであり、その公職の人間たちもまた市民の治安や未来に無関心であるということも最大の象徴として見て取れる。

市民や役人は公共機関は常に正常で盤石のものであると過信している傍ら、公職にいる側は公共のものを裏で私物化している。

作品ではマックスなどの警官たちはバイクや武器などを勝手に改造して正当防衛することを楽しみ、

役人はそれを目をつむっていることで「ギリギリ警察として存在している」ことがこの無法の狭間にある世界の象徴的なシーンでもあった。

各々の私財や身銭を少しずつ供託管理させることで「公共」が成り立っていることが忘れられると、

公共意識はますます外部化したものになり私利私欲を追う個人が増えることで少しずつ国や街のシステムが成り立たなくなっていることを1の序盤では間接的に見せる。

主人公のマックスは仲間の死を機会に腐敗した警察組織からも離れ、個人の正義によって無法者たちと戦っていく。

ここからシリーズとして英雄物語になっていくがマッドマックスの共通のミッションとしては街ごとの秩序を戦うことで取り戻し、荒廃した街の公共を再建させていく話でもあるのだと思う。

公共は公共として成り立っているのではなく、私人の財と秩序の集合で成り立っていることを思い出させていく話。


マッドマックス2


あらすじ
家族を失ったマックスは、最強マシン(インターセプター)とともにガソリンを求めて彷徨っていた。中東戦争の勃発で石油が貴重品となり、各地で壮絶な奪い合いが続発している。やがてマックスは製油基地を守る人々と暴走族の抗争に遭遇。

完全に世界は荒廃し砂漠化した世界での旅が始まっていく。

2では石油をめぐる製油基地と暴走族の抗争にマックスは巻き込まれる。

ここも石油を管理する製油基地の人間らが3000キロ先にあるとされている楽園を求め、独占しようとしてしまったのが全ての始まりだった。

公共財として分配する意思が個人個人に働けばこんなことにはならない。

時代背景的にもオイルショックを風刺して作ったものだと分かるが、第2次の危機が来た時には各国は前回の反省を生かし行政が国民の消費量を制御させてゆるやかに乗り切ることができたとも言われている。

その辺も公共意識が希薄だった製油基地の人間たちとマックスが来て戦ったことで緩やかに反省が生かされるその先の行方が告げられて終わっていく。

資源や公共が揃っていると場所だと言う楽園についてもほとんどが希望的観測であり、石油や私財は独占し盤石であるはずと信じる公共財も受け取ろうとしている姿勢は彼らの在り方を上手く反映している。

マックスも基地の人間を助けたことで楽園に誘われるが、鼻で笑いながら断るのも対比として描かれていた。

その後の作品でもマックスは外部化されたユートピアに誘われても信じない方がいいと提言をしながら断り続け、その街の秩序を再建させることを選ばせる。

それは1に通じる私欲だけで選ぶ楽園に未来はなく、再建もできなかった自身の故郷の痛みを知っているからだともいえるのだろう。


マッドマックス サンダードーム



あらすじ
核戦争により世界が灰と化して15年。女帝アウンティ・エンティティの支配する街ではサンダードームで開かれる一対一の死闘に熱狂していた。戦士を求めていたアウンティの罠に落ちたマックス。彼を待ち受けていたのは、最強の怪人マスター・ブラスターとの命を賭けた闘いだった!

唯一駄作とも言われる作品。

派手なアクションや悪党の登場が少なく、場所と人間が移り変わるストーリーに軸を置いたのが不評の原因だった。

サンダードームは資本主義社会を小さく囲った話に対して、マックスが逃げた先に文明を知らない部族の子供たちを登場させたが上手く世界の対比として話が機能しなかったのは否めない。

マッドマックスのタイトルとしては損をしたと思うが、サンダードームによる貨幣経済の退化も目をした中で文明の知らない部族の子供に残っている都市に解放させて託すというのは新鮮だった。ただそこがどういう論理なのかはよく見えなかった。

これらがデスロードに繋がることも踏まえて見ればそんなに悪くはなかったがマッドマックスの論理としては上手く機能しないで終わってしまったのは惜しい。


マッドマックス 怒りのデスロード

あらすじ
石油も、そして水も尽きかけた世界。主人公は、愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元・警官マックス。資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配するジョーの軍団に捕われたマックスは、反逆を企てるジョーの右腕フュリオサ、配下の全身白塗りの男ニュークスと共に、ジョーに捕われた美女たちを引き連れ、自由への逃走を開始する。

当時は「ただ行って帰ってくるだけ」とも揶揄された作品だったが、あらためて見ても素晴らしい作品だった。

淡白に見ようと思えばただ緑の地と故郷を往復しただけの話に見えるが、

こうした往復による移動による話の構造は「英雄の旅」の神話としてよく引用されている。

平たく言えば主人公は日常から別の非日常に向かい、何らかの試練を経てまた日常に帰還する構造である。

これによって日常に戻ったときに前回とは別の意志と力で世界を観るようになり、景色は同じでも話の構造は真逆になる。

マッドマックスシリーズは殆どこの構造を採用しており、先述した公共の再建の流れもここに通ずる。

1を除いて序盤は必ずマックスは街を支配する組織の捕虜になり、取引によって悪党に勝ち、再び戻り信頼を得て、秩序の再建に繋げる英雄となって終わる。

本作はそこにフュリオサと逃げてきた女性にも採用され「人間の尊厳を取り戻す」話とも言われる。

女性らは元々人間としては扱われず「子供を産み、母乳を出す機械」と扱われていたため、緑の地に逃げていたのだった。

だが緑の地は荒廃しており、マックスは例のごとく外部化されたユートピアへの希望を持つことを辞めさせ再び逃げてきた故郷に戻ることを選択させる。

ボスであるジョーに勝てば再び自分たちで公共と秩序を再建させることができるからだ。

そこから同じ場所に戻っている時は捕虜や奴隷として逃げているのではなく人間としてのを取り戻す英雄としての帰還の話に逆転していくのである。

ボスのジョーらがあれだけ女性たちを追いかけたのも子孫繁栄できないだけでなく、ウォーボーイの統括や子供らの忠誠心に関わるほどの尊厳や管理力を一気に失ってしまうからだろう。

そうした女性たちの流動によって自治体は一気に消滅していくと言われる現代社会でもあるが、

「街」というミクロな視点で女性の流動に危機を抱く男の話はマッドマックスシリーズでも他の映画でもあまり見たことはなく今見ると秀作だったと分かる。


マッドマックス:フュリオサ


あらすじ
世界崩壊から45年。バイカー軍団に連れ去られ、すべてを奪われた若きフュリオサは故郷への帰還を誓い、MADな世界(マッドワールド)に対峙する——巨大なバイカー軍団、その頂点ディメンタス将軍は可愛い熊の人形を引っさげ改造バイクで絶叫し、さらには、白塗りの兵隊ウォーボーイズたちが神と崇めるイモータン・ジョーは鉄壁の要塞を牛耳り、互いが覇権を争っていた。生き残れるのは狂った奴だけ。怒りの戦士フュリオサよ、復讐のエンジンを鳴らせ!

最新作はデスロードで登場したフュリオサの過去編に。マッドマックスとしては前日譚に至るポジションになるのだろう。

書いてる時点では未見なので予測で書くが、ユートピアだった約束の地からジョーの街ディストピアに攫われる話を描く意味では

1のマックス以来の荒廃した過程を見せる英雄誕生記になる。

現代版におけるディストピアになる過程は描かれると思えるのでこの辺は期待したい。女性視点での公共の再生の話は興味深い。

メルギブソンは勇退しトムハーディに継いだのも良かったが、作品の出来によってはマックスはここでお役御免の可能性もあるなら寂しい。

伏線もつけそうな予告編だったからデスロードの年齢までシリーズ化もあるかな。

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