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#14 短編空想怪談「ペット」

僕の住んでるアパートはペット禁止、という訳ではない。
と言っても、どの部屋でも飼ってる訳ではないけど、ポツポツとペットを飼ってる部屋はあるようで、
たまに犬を飼ってる部屋もあるらしく、散歩の出掛けの住人を時々見かける。
大抵は室内飼いで収まるようなネコ、もしくはハムスターなどの小動物しか飼ってないのか、あまり外に出してる姿を見かける事はない。

ただ、不思議なのはペット禁止ではないこのアパートはペットを飼ってる人ほど早く出ていく。
家賃もペットを許可してるアパートとしては、相場より安いのだが、それとは関係ないらしい。
僕自身はペットに興味はなく、飼いたいとも思ってないし、特にペットを飼う予定も無い。

ある時、警察が事情聴取で家に来たことがある。
話しを聞くとどうやら、このアパートで動物虐待でネコが殺されたらしい。
犯行があった部屋は僕の部屋から遠く、大した情報は提供出来なかった。

程なく、この事件はちょっとしたニュースにもなった。
テレビで言うには、飼っていたネコを殴る蹴るはもちろん、爪を根本から切り落とし、耳を切りおとし、果ては目を潰して殺したという。

犯人の供述では、『お前もやれ』という声がして、それに耐えられず殺したという。
なぜそんな凶行に及んだのか、その声の主は何なのか、その時は検討もつかなかった。

その事件から数週間後、友人が旅行に行く間、ペットを預かって欲しいとの頼みがあった。
あのニュースが頭を過り、少し迷ったが近くにペットホテルも無く、他に預かれる友人は僕しか居ないと言うことで、1泊2日預かる事になった。

「まぁ、2日程度なら大丈夫だろう」と思っていたが、それが間違いだった。
その日、預けられたネコにエサを与え、自分もテキトーな食事を採っている時、寝室の方からネコの弱ってる声が聞こえる。
まさか友人から預かったネコに何かあったのかと思ったが、預かったネコは変わらず食事をしている。
ではこの寝室からするネコの声は何なのか、確認するために寝室へ向かい、中を見ると男がネコの首を締めて殺している。

その男は目が合うと、ネコの首を締めながら「お前もやれ」
と言ってきた。
直ぐに預かったネコを連れて家を飛び出し、警察を呼んだが、家には誰も居なくなっていた。
とりあえず、何かの見間違いか何かで片をつけられ、警察は帰っていった。


「あぁ、みんなこれを見てるんだ」と僕は思った。ペットを飼ってる部屋にだけ現れるネコを殺す男。その男が何なのか知ったのは引っ越す時だった。


警察が帰った後、僕は家を出て、友人が帰ってくるまで外で待つことにした。
時間にして、夜も0時を回っていた。
理由は警察が返った後も、姿こそ現さなかったものの、あのネコを殺す男の声が聞こえ続けたから。
この時点で、あの男がそこに実在する人間では無いことは分かったし、それが怖かったのもあるが、それ以上に、
「お前もやれ、お前も殺せ」と言われ続けるのは一晩だけだったとしてもかなりキツかった。

コンビニやファストフード店を転々としながら、なんとか一日を乗り切り、次の日に直ぐ友人に預かったネコを返した。

それから男はやはり姿を現さず、声もしなくなった、僕も部屋の更新を機に引っ越す事にした。

この日の事を大家さんにすると、大家さんはある話しをしてくれた。
昔、このアパートには大層ネコを可愛がってる男の人が住んでいた。
その人は結婚を機に引っ越したのだが、引っ越しの間際にネコが亡くなったらしく、落ち込んだ様子だったという。

「この人だ。そして恐らくは亡くしたのではなく、自分で飼いネコを殺してる。」
理由は定かじゃないが、この人がこのアパートで、自分の可愛がっていたネコをわざわざ殺し、その後引き払ったのだ。

でもなぜ?
考えられる理由は幾つかある。
結婚相手が動物嫌いだったのか。
次の引っ越し先がペット禁止だったのか。
或いは単純に、飼いネコに飽きたのか。
とにかく連れていけない理由があったの事には間違いなさそうだ。

そして、どういう訳か同じ思いをさせようと、嫌がらせの様に、ペットを飼ってる住人にペットを殺すよう仕向けている。






理由はどうあれ、気分の悪い話しだと思いつつ、改めてペットは飼わない様にしようと僕は思った。







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