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#8 短編空想怪談「旧い旅館」

学校の七不思議と言うものは大抵どの学校にもあるのだろうが、僕の通っていた中学校には、“学校外の1不思議”という変わった話が有った。

概要としては「修学旅行で、ある古い旅館に泊まると、そこの一部屋は呪われていて、女の声が聞こえる」とか、または「子供が遊ぼうとせがんで寝かせない」とか、色々言われてるが共通して、地方の某旅館が舞台だった。

とはいえ、得てして七不思議や、学校の怪談というのは尾鰭が付いて誇張が付き物。
僕も自分の学校に存在した“学校外の1不思議”は認知はしていたが、そんな話しはウワサ程度で片付けていた。

しかし三年生になり、修学旅行の時だった。
本当にあの某旅館に泊まる事になったのだ。
ウワサ通り、かなり古い建物で、床は軋むしトイレも日の当たらない奥に押し込められて、トイレ独特の酸っぱい臭いがする。

気味は悪いが人数も多いし、それほど恐怖は感じなかった。
むしろ実在したその旅館に胸が踊った程だ。
大宴会場でみんなで夕食を摂り、後はお風呂に入って21時以降は各自の部屋へ行き来したり遊んでいた。

そこで他の同級生から聞いたのだが、僕らが居た部屋のみ、テレビがやたら古い。
全室テレビは完備していたのだが、どの部屋もちゃんとリモコンの付いたブラウン管だったが、もう90年代半ばだと言うのに、僕らの部屋のテレビはカラーではあるものの、つまみを引いて電源を入れ、チャンネルと電波は画面右側のダイアル式。

物珍しさから同室の友人達と他の部屋の友人達とでそのテレビを見ていた。
そろそろ消灯時間が近いと言う所で、最後にまたダイアルをイジっていたら、海の番組に当たった。
その番組はナレーションも無く、ただ海だけを流していた。寂しげに海の波打つザザーという音だけが部屋に響き、その謎の番組にみんな如何ともし難い恐怖を感じ、そのまま動けなくなった。
その時、その静けさを破ったのは見回りの先生だった。既に消灯時間から1時間は過ぎていて、班通りの部屋に居ない友人を連れ戻しにきたのだ。

先生に注意され、別部屋の友人数人はもとの部屋に戻された。
僕らはというと、そのまま無言で就寝。
しかしなかなか寝付けず、午前2時頃、友人の一人がトイレに行きたいと言い出した。
テレビの恐怖感を共有していたし、こう言う時、一人が行きだしたらみんなでトイレに行きたくなるもので、その部屋の全員でトイレに行く事にした。

廊下は冷たく、夕食の時の騒がしさは嘘のようだった。
友人の一人が何か違和感を覚えた。
「この旅館こんな静かだっけ?」
言われてみればそうだ。
深夜とはいえ、外の音も聞こえないし、何より床の軋む音が聞こえない。
どこをどう踏んでもあのギィギィという音がすっかり消えてる。
僕らは足早にトイレに行き、直ぐに自室へ戻るようにした。

早々に用を足し、友人の一人が先に部屋に戻った。その後も一人また一人、足早にトイレを後にし、最後に残った3人で部屋に戻った。
部屋に戻ると、初めに部屋に戻った友人数人が部屋の外で僕らが戻るのを待っていた。
「なぜ部屋に入らないの?」と聞くと「テレビが付いてる」という。

そんな馬鹿な。
最初に戻った人間のイタズラだと思ったが、その顔面蒼白ぶりを見ると、どうやらウソではない。恐る恐る後から来た僕らも部屋を覗くと本当にテレビが付いている。
しかもあの海の映像だ。怖いのを我慢して、みんなで部屋に入り、テレビのつまみを押し込むが、テレビが消えない。

流石に恐ろしくなり、全員で部屋から飛び出て他の部屋へ向かった。だが、他の部屋には誰も居ない、また別の部屋に行くも誰も居ない。
たちの悪いイタズラとしか思えなかった。
その次は先生達を探して、別の棟にも行ったがそこも誰も居ない。
絶望して、そのままその場所にへたり込んで動けなくなり、とうとうそこで全員寝てしまったらしい。
気が付いたら夜が明けていた。

すると、昨日の夜まで誰も居なかったはずの部屋から先生が出てきて、「お前ら何してるんだ!」と怒られたが、先生の怒りも他所に昨夜の話しを一部始終、なにもかもを克明に話したが信じて貰えず、罰として旅館のトイレ掃除をさせられた。

その後、部屋に戻ると部屋はキレイに片付けられていた。
布団は押入れにしまわれ、テレビも消えている。どうしても部屋に入る気にはなれず、玄関前の広間で出発の時間まで過ごした。
結局、ウワサにあった女も出ないし、子供の声もしなかったが、あの部屋には何かがある事は間違いない。


あのまま、あの部屋で一晩過ごしたらどうなっていたのか。
その旅館は今だに存在するが、もう二度と行く気は無い。

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