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#2 短編空想怪談「同じ夢」

私の母から聞かされた、私が産まれる時の話しだ。
臨月を迎え、いつお産が始まっても良いように、
母は2週間ほど入院していた時、
毎晩嫌な夢を見ていたという。

夢の内容は自分のお産の夢で、
かなりリアルだったらしくその夢の中では、痛みすら生々しく感じた。

病室で陣痛に襲われ、分娩室へ担ぎ込まれ、出産をする。
夢の中だからなのか苦痛に苛まれてるせいかやたらと時間が長く感じられたという。
何時間陣痛に耐えたか、というところで
やっと痛みが引いた。
だが、母に何も言わず医師たちは慌ただしくしている。
どうやら産まれた赤ちゃんが泣き声を上げていない様だ。
その状況を理解するかしないかという時、医師が悲しげな顔で「残念ですが流産です…」と容赦の無い告知と共に、
見せてくれた赤ちゃんは全身に髪の毛が絡み付き、特に首には縄のように巻き付いていて、
まるで首吊りをした死体のようなおぞましい姿だった。

その光景に驚き、飛び起きる。
そんな悪夢を見るのが入院中の日常であった。
何度か父に転院の相談もしたが、
入院期間もさほど長くならないと思われた為、受け入れてもらえなかった。

そうして入院から1週間が過ぎたころ、お産が訪れた。
すぐにナースコールで看護師さんを呼び分娩室へ担ぎ込まれた。
この時、恐ろしかったのは夢の光景と全く同じだということ。
嫌な予感が脳裏を過るが、そんな事はお構い無しに夢で見た光景は走馬灯のように過ぎていき、分娩室へ。

夢の光景と同じく、やはり難産であった。
痛みに耐えながらもあのおぞましい光景が頭から離れない。
そしてまた夢と同じく何時間かがたった頃、痛みが引き、産まれたのだと理解した。

ここからが夢と違った。
赤ちゃんの泣き声が聞こえず、
あの夢が過りイヤな予感がするが、
医師たちの動きは妙にテキパキしていてどこかいつも対応をしているように見える。

その数分後、泣き声が聞こえ、次いで医師達から「おめでとうございます!」の言葉がかけられた。
無事に出産は終わったのだ。

一旦抱かせてもらい、その後保育器に入れるため赤ちゃんを預け、母はまた部屋に戻される移動の時だった。

さっきまで自分が乗っていた分娩台の足元に、髪の毛の山が見えた。
それと用意周到に準備されたハサミやメスの刃物の類い。
自然分娩にしては必要以上の刃物の用意。

これは母の推測の域を出ないが、
医師達は何かを知っている。
だからあそこまで刃物の用意をしていのかもしれない。

この病院で何があるのか、そしてあの髪の毛はなんだったのか。
今となっては知る由もない。

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