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#7 短編空想怪談「写真の人」

私の曽祖父の最後は奇妙でした。
齢100を過ぎて、痴呆も入っていたのでだいぶ苦労はしたが、大抵は穏やかに過ごしていた。
だが時より、思い出した様に何かに謝り続けていた。誰に何を謝っていたかは未だに分からないが、恐らくは曽祖父の若い頃、迷惑を掛けた人物だったのだろう。

その曽祖父の最後、容態を悪くし、このまま逝くのだろうかと家族で見守って居た時、
曽祖父は急に叫びだした。「すまない!申し訳無い!許してくれ!」
そう叫びながら、みるみる曽祖父の手足が黒く変色。
曽祖父はさらに断末魔を叫ぶ。
そして、苦しみに満ちた恐ろしい形相で亡くなった。
黒く変色したのも医者からは原因不明と言われたが、しかし葬式の死化粧の時には、いつの間にか、すっかり変色は消えていて、あれはなんだったのか、この時はまだ解らなかったが、真相を知ったのは葬式も終わり遺品の整理をしていた時。

最後の10年、20年は身体を動かす事もままならず、その都度要る物、要らない物を曽祖父に聞き、捨てたり残したりしていたので、遺品整理自体はさほど大変では無かった。

ただ唯一、絶対曽祖父が誰にも触らせようとしなかった物がある。
それは仏壇の端に置いてある小さな桐の箱。
いつからあったのか、祖父も父も、
自分が生まれた時から存在したいてらしく、私もその箱の存在は薄々気にはしていたが、
箱自体も古く、茶色く経年劣化していてどこか気味の悪さを感じていたので、特に自分からは触れようとはしなかった。
その箱を曽祖父は絶対誰にも触らせようとしなかった。
なぜそこまで触らせなかったのか、怖い物見たさで気味が悪いながらも、私は中身が気になり、その箱を開けた。

中身は写真だった、白黒でかなり古い。恐らくは戦前か戦中か。
丁寧に写真の日付だろうか、裏に手書きで日付も入っている。
その内の数枚には女性の写真もある、日付も写っている女性もみんなバラバラ。
私がなんとなく察したのは、写真の女性は曾祖母ではない。
恐らく曽祖父は浮気をしていた。
「なるほど、だからか」と思い、触らせなかった理由を知った気がした。

その夜、写真も曽祖父の名誉の為にもこっそり処分する事を考えて床に入っている時だった。
金縛りにあったのだ、意識ははっきりしている。自分の人生で初めての、金縛りで私は恐怖した。
なんとか金縛りを解こうとするが、やはり解けない。
するとだんだん自分が何者かに囲まれてる事が分かった。
あの写真に写っていた女性たちだ。
さらによく見ると女性だけではない、男性もいる。恐らくこの男性達もあの写真の人物だ。
写真と同様白黒で、見た目も荒い画質の様にガサガサで、一目で人ではないことは確信した。

みんな何かを訴えているが、声がくぐもってよく聞こえない。しかもどうやら日本語ではなさそうだった。
そうすると、その周りの人たちが一斉に叫びだしたのだ、ある人は燃え上がり、ある人は身体中にイボが出来、みるみる醜い顔になったり、吐血をしたり、とにかく人が、亡くなる瞬間を一気呵成に見せつけられてるようだった。
その中で、気になったのが曽祖父の最後の様に手足が真っ黒に変色して叫ぶ人だった。
10人以上は居た人がその光景を晒して全員が死にきった後、金縛りは急に解けた。

明くる日、昨日の光景は何だったのか考えてたらその写真の人物が自宅に居るではないか。
他の家族は気づいて居ない、自分だけが見えている。
そして、金縛りの時と同様、叫び、自らの死に際をこれでもかと見せつける。

それから何日かそんな光景が日常に入り込んできた。
時間も状況もお構いなしに、気まぐれに死に際を見せてくる。
気が付いたら自分が曽祖父と同じ様に許しを請うようになっていた。

流石に他の家族が見かねて病院に連れて行かれたが、そこで若年性アルツハイマーと診断された。直ぐに誤診だと主張したが、聞き入れて貰えず薬を渡され帰された。

もちろんそれで良くなるハズはなく、変わらずあの写真の人物達は責め立てるように、叫び、醜く焼けただれたり、イボに塗れたり、黒く変色したり、吐血しながら、見るに堪えない姿で死ぬ。

流石にまずいと写真を持って単身お祓いに行った。
すると住職の方が、「あぁ、これはいけない、直ぐに供養しましょう」と対応。
するとぱったり、あの写真の人物達は現れなくなった。
「写真はこちらでお預かりします。」
と住職さんに言われるまま、曽祖父の遺品である写真を渡した。



曽祖父の過去に何があったのか。
あの写真の人達と、曽祖父の関係はなんだったのか。住職さんに聞こうとしたが、その勇気は私には無かった。


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