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滝口悠生 長い一日

滝口悠生氏の本を図書館で探して読む。滝口悠生氏の作品は私小説なのかな。こちらの本の方が、『ラーメンカレー』より発刊が早いので、私の読んだ順番が逆なのだけど、一人称語りの主人公の若い作家の名前が『滝口』である事がでてくるし、友人の『窓目』の話も登場する。奥付を見ると、『本』の2018年4月号から2020年12月号が初出。最後は2020年12月号だけどコロナ禍の前の話で、コロナ禍の話は出てこない。携帯電話が普及してからの生活が変わった様に、コロナ禍の後だと主人公の生活への考え方は変わってくる筈で、それはまだこの小説には出てこないので。

世田谷区の外れの老夫婦の家の二階を借りて住む主人公夫妻が引っ越しをする話が、時系列が反対になったり、語り手が主人公の妻になったり(ここの書き方は絶妙。主人公が妻の内心を描写。視点の揺らぎが独特で面白い)、普通の日常が描かれている。 家を変える事は一日中、家にいる作家業の人にとってはサラリーマンで会社勤めの職業よりこだわりが強くなると思うが、この辺りの主夫業の語りを読むと、私は村上春樹氏の小説、エッセイを思い出してしまう。

小説の中では、主人公のスーパー『オオゼキ』へのこだわりを描いた『スーパーの夫』が面白い。これは妻の視点で作家である夫のこだわりと引っ越しで生活の場所が変わった事で感じる淋しさが上手く描かれていて、私自身の昔の引っ越し直後の気分を思い興させて懐かしい。そのまま『オオゼキ』の広告になりそうだけど。

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