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海外ウェブメディア「Designboom」に作品が掲載された話

海外の大手ウェブメディア「Deignboom」に作品が掲載されました。夏の個展で発表した大型の《写光石》です。学生時代からずっと憧れだった老舗ウェブサイトに作品がアーカイブされるなんてまさに夢のよう。ここでは作品掲載のために僕がやったこと、その後の反響をお伝えします。これからDesignboomに記事を応募する方の参考になれば幸いです。

※作品掲載ページはこちら↓


Designboomとは

Designboom(デザインブーム)は、工業デザイン、建築、アートの分野を国際的にカバーするデイリーウェブマガジンである。1999年に創刊され、ミラノに本社を置くこのウェブマガジンは、これらの分野に焦点を当てた最初のウェブマガジンで、国際的なデザインフェアや新しいプロジェクトの報道に加え、著名なデザイナーや建築家のインタビューや直接スタジオ訪問を掲載している。ニュースレターは毎日発行されている。

出典:フリー百科事典ウィキペディアより

上のウェブサイトをご覧いただくとお分かりいただけると思うのですが、トップ画面にアイキャッチーな非常に洗練された雰囲気の建築やプロダクトの写真がバーンと目に入ると思います。国際色豊かなファッションや風景まで、とにかくカッコよくてオシャレ!そんなわけで僕も20年前ぐらいの学生時代からチェックしていました。

誰でも彼でも掲載される訳ではなく、専属の編集者がいて審査があり毎日世界中から届くプレスリリースの中から厳選された情報だけがここに登場し、世界クリエイティブの殿堂としてアーカイブされていくのです。これまで多くの世界中のアーキテクトやアーティスト、その業界の人たちに支持されてきたことが分かります。

日本人、特に建築家やプロダクトデザイナーもよく掲載されています。ただ、アーティストとなると話は別でデザインと比べると圧倒的に少ない印象です(アートはまた別のメディアがあるのも要因の一つ)。中でも日本人で直ぐに思いつくのは「TeamLab(チームラボ)」。佐賀県武雄市の御船山楽園を使った大規模なインスタレーションは僕も実際に見たことがありましたし、自分が実際に目にした作品が掲載されたこともあって印象に残っています。

掲載されるためにやったこと

申込方法

実は誰でもDesignboomにプレスリリースや作品の情報を送ることが出来ます。メニューの「CONTACT US」から「for submission,〜」をクリック。無料でアカウントを作成して、フォームに画像や写真を入れ込んでいくだけ。

https://www.designboom.com/readers-submit

たしか5年前ぐらいはこういう専用フォームはなくて、直接メールに画像やテキストを入力して送っていました。まあ、運営サイドも毎日世界中から各々のメール形式やフォントで大量の情報が送られてきても大変ですよね。専用フォームが作られたことで効率がよくなったし、申し込む側もやり易くなりました。ちゃんとフォームが提出できたことも確認できるので安心です。

提出物について

さて、実際に僕が申し込みフォームに送った内容を元に記事が掲載されるための重要ポイントを3つご紹介します。

1. オリジナリティのある作品
2. 洗練された写真
3. 英語のテキスト

作品提出時に抑えたい3つのポイント

1. オリジナリティのある作品
はい、結論。もうこれがめちゃくちゃ重要です。「見たことがない」「聞いたことがない」などなど、とにかく今までにはないオリジナリティがあるかどうかがアート作品は兎にも角にも大事です。アートの世界だと当たり前と言えば当たり前ですが、実は日本人のアーティストと名乗る人たちの多くが苦手、出来ていない、目を逸らしているところだなあと個人的に思います。

「美しいもの」「かっこいいもの」「時代のトレンドを掴んでいるもの」「工芸的な超絶技巧」「伝統、文脈に沿ったもの」「現代アートっぽいもの」「コンセプチュアルなもの」は得意だけど、本質的に新しい「概念」や「視点」「発見」など未知なる世界に積極的にアクセスして、きちんと言語化して作品を作れている人は案外少ないよなあ…というのが僕の肌感覚です。ちょっと脱線しそうなのでこの話はこの辺で。

建築やプロダクトは洗練されたカッコいいものだったり、社会の問題を解決したりと仕事のゴールが明確です。それに比べてアートは真逆というか、自ら問題を発見してそれを解決する訳でもなく、なんならアウトプットの着地点の方向性も自分で決めなければいけない。そんなカオス的なところがあります。

それはさておき「アートはオリジナリティこそが重要だよね」というのは誰でもわかると思うし、ここが最大の壁でもあります。

アートの世界はオリジナリティこそ命!

2. 洗練された写真
オリジナリティのある作品が用意できたら、次に重要なのは洗練されたカッコいい写真です。「自分で作品が撮れるよ」という人でも99%のアーティストはプロのカメラマンにお願いすることをお勧めします。僕もそこそこ自分で展覧会や作品の写真を撮影できますが、プロは全然違います。機材はもちろん、構図や社会が求める写真の雰囲気など客観的に提案してくれるところが最大のメリットです。

とはいえ、今回の僕の提出物はちょっとイレギュラーで、スチール(静止画)はプロのカメラマンにお願いし、動画は僕一人で撮影から編集まで行いました。制作動画がこの作品の重要ポイントであることは初めから分かっていたし、動画をプロに頼むとかなり予算が厳しくなるので。制作プロセスの画像は動画からスクリーンショットで抜き出して提出しました。

プロのカメラマンが撮影した写真
Photo by Takumix

広角レンズで撮影、Photoshopで建物の歪みや色調を補正をしています。
被写体と背景の近代的な建物のバランスのインパクトが絶大。プロの客観的な視点ならではの構図の提案がグッド!

動画からスクショした画像

ウェブ用なので解像度は低めでもOK
「これ、何してるの?」と興味を惹かせる写真選びが重要

3. 英語のテキスト
オリジナリティのある作品がつくれた、そして洗練された写真も用意できた。あとは英語のテキストで作品の説明をするだけです。英語が苦手な方もいると思いますが、実はここは英訳アプリを使って日本語をざっくり翻訳できたらOK。かく言う僕がそうでした。

愛用している翻訳アプリ↓

「作品と写真は自身があるんだけど、英語はちょっと…」という感じでしたが、「そんなこと言ってたら全然終わらない!そもそも僕は日本語が母国語で英語得意じゃないし、どんなに神経尖らせて英訳してもネイティブからしたら絶対おかしなところがある。ということは、ここにあんまり時間かけてもしょうがない。ざっくり英訳できてたら向こうがいい感じにアレンジしてくれるっしょ!」ということで日本語をばばばっとアプリに読み込ませて、えいっと送ったのでした(笑)

それが功を奏したのか、やはりいい感じにアレンジして掲載してもらうことになったのです。僕が初めに書いた日本語と翻訳アプリで英訳し提出した文章は以下の通りです。日本語は過去のnote記事からほぼコピペしました。

私は個展で「写光石」という大きな作品を発表しました。作品名は光を写した石という意味の造語。実はこれ写真作品なんです。「えっ?!これが写真??」というリアクションが必ず返ってくるこの石たち。いろんな大きさや形、色の石がありますが、これは僕が絵の具で色を付けたわけではなく、「写真」を石に貼り込んで一つ一つ作っています。今回は宗像大社の光を使って制作しました。

実はこの写光石、屋外の太陽光に当たり続けると見るみるうちに表面が褪色(たいしょく)してしまうんです。屋内で保管・鑑賞する分には5年経っても明から様な褪色は見受けられませんが、外となると話は別もの。表面のカラーはインクジェットプリントのインクなので、直射日光にさらされ続けるとあっという間に色が変わってしまうのです。

しかし、この褪色の過程を作品のコンセプトとしてしまおうというのが本作の裏テーマ。時間が経つと見た目が徐々に白っぽく変化していくこの作品。それはまるで色味を帯びた固有の光が、世界のオリジンである太陽の白い光に戻っていくかのよう。そのように見立て、考えることはできないでしょうか?

すると、この作品なんとなく東洋哲学や仏教の死生観とリンクするような気がしてきました。そう輪廻転生です。今、僕らは別々の魂に肉体が接続されているけれど、死ぬと個々の魂は元の大きな一つの生命体に戻るというような、いわゆるワンネスの概念です。つまり、写光石も最初はそれぞれ固有の光をまとっているけれど、10年、50年、100年と時間が経つにつれ徐々に白く変色し、元の太陽の白い光に戻っていく。そのような世界観をこの作品は体現しているのではないか。この辺りを深掘っていくことで、物理的な褪色現象と思想的な解釈が上手く繋がるのではないかと考えています。

日本語の作品解説

これを翻訳アプリで英訳するとこうなります↓

For my solo exhibition, I created and presented a huge work called "SHA-KO-SEKI". The name of the work is a coined word meaning a stone that captures light. In fact, it is a photographic work. What? This is a photograph? is the reaction that always comes back to me. There are stones of various sizes, shapes, and colors, but I did not color them with paints; I made them one by one by pasting "photographs" onto the stones. This time, I created them with the light of "Munakata Taisha", a local shrine in Japan.

In fact, the surface of this SHA-KO-SEKI fades quickly when exposed to sunlight outdoors. When stored and appreciated indoors, the surface will not fade after five years, but outside, it is a different story. The colors on the surface are inkjet-printed inks, so the colors will change in no time at all if they are continuously exposed to direct sunlight.

However, the underlying theme of this work is to make this fading process the concept of the work. Over time, the appearance of this work gradually turns whitish. It is as if the inherent light with a tinge of color is returning to the white light of the sun, the origin of the world. Can we see and think of it that way?

Then, I felt that this work is somehow linked to the view of life and death in Eastern philosophy and Buddhism. Yes, reincarnation. It is a concept of oneness, in which our bodies are connected to different souls, but when we die, our individual souls return to the original large single living organism. In other words, each SHA-KO-SEKI stone has its own unique light at first, but as time goes by, 10, 50, or 100 years, it gradually turns white and reverts back to the white light of the original sun. I think this work embodies such a worldview. By digging deeper into this area, I believe that the physical fading phenomenon and the ideological interpretation can be successfully connected.

英訳アプリで翻訳したもの

…正直言って、これがどれくらい正確に訳されているか分かりません(笑)。ですが、これをそのままフォームに貼り付けて送ったのでした。

そして、こちらが実際に記事なったテキストです↓

KAZUTAKA SHIOI’S SHA-KO-SEKI STONES REFLECT NATURAL LIGHT
For his solo exhibition, artist Kazutaka Shioi introduces SHA-KO-SEKI, a series of large light-reflecting stone formations. The project, named after the word indicating ‘a stone that captures light’, is, in fact, a photographic work. While appearing as ordinary stones of various sizes, shapes, and colors, each structure is meticulously crafted by affixing ‘photographs’ onto its surface, capturing the essence of light from Munakata Taisha, a local shrine in Japan. The stones’ surfaces are colored with inkjet-printed inks, causing them to swiftly undergo changes when consistently exposed to direct sunlight.

FADING COLORS SYMBOLIZE CONCEPTS OF REINCARNATION
SHA-KO-SEKI undergoes a deliberate fading process when exposed to sunlight, representing the artist‘s conceptualization of the natural cycle of life and death. The fading colors symbolize a return to the origin, echoing Eastern philosophies and Buddhist concepts of reincarnation. As individual stones gradually turn white over time, the work embodies a profound connection between the physical fading phenomenon and a philosophical interpretation rooted in oneness and the eternal cycle of existence.

Designboom の記事より抜粋

ね、めっちゃシンプル!いい感じにアレンジして編集してくれたのがお分かりいただけると思います。そして彼らが作品のどこに注目して何を面白いと思って掲載したのか、この記事を書いたのかも推察できて面白いですよね。

この記事を翻訳アプリで日本語に訳すとこんな感じです↓

自然光を反射する塩井一孝の写光石
アーティスト塩井一孝の個展では、光を反射する大きな石の造形シリーズ「SHA-KO-SEKI」を紹介する。光を取り込む石」を意味する言葉から名付けられたこのプロジェクトは、実は写真作品である。様々な大きさ、形、色の普通の石に見えるが、それぞれの石の表面には「写真」が貼られ、日本の神社である宗像大社の光のエッセンスが取り込まれている。石の表面はインクジェット印刷されたインクで着色されており、直射日光を浴び続けると石は急速に変化する。

色あせは輪廻転生の概念を象徴する
写光石は太陽光を浴びると意図的に色褪せるプロセスを経て、生と死の自然のサイクルを表現している。色褪せは原点回帰を象徴し、東洋哲学や仏教の輪廻転生の概念と呼応している。個々の石が時間の経過とともに徐々に白くなっていくこの作品は物理的な色あせ現象と、一体性と存在の永遠のサイクルに根ざした哲学的解釈との深い繋がりを体現している。

Designboom の記事を日本語に翻訳したもの

初めの段落では制作プロセスについて、2段落目は作品の概念(コンセプト)について書いていることが分かります。見出しの付け方から察するに、「見たことない技法」「東洋哲学的なコンセプト」に注目してくれたのかなあと思います。

個人的に嬉しかったのは、写真におけるネガティブな褪色現象を作品の重要なコンセプトとしてポジティブに捉えることを肯定してもらえたことです。実際、個展でも「それは講釈を垂れてるだけじゃないの?面白いけど難しいよね」という方も多く、やっぱりムズイのか〜と半ば諦め気味のところがありました。しかし、こうして海外の大手メディアが背中を押してくれたような気がして今後の展開にも自信がつきました。

掲載その後

こうして晴れて夢のメディアに作品が掲載されたのでした。しかし、実は思った以上に周りの反響がなかったりもして….。

「え?あの Designboom に作品が載ったのに周りの反応ってこんなもの?公式ツイッターにも投稿が上がっていたけど、"いいね"の数ってめっちゃ少ないじゃん。海外からDMやメールでの問い合わせがガンガンくると思っていたのにメールボックスは空のままじゃん…。」

と、そうこうしている間にウェブサイトには新しいアートニュースが続々と現れ、僕の作品記事はあっという間に過去のアーカイブへと回収されていきました。デイリーマガジンだけあって新陳代謝は活発。毎日世界中から数百件近く記事の申し込みがあるんじゃないか?(筆者予想)と思うと、「作品が掲載されたことって、やっぱりすごい…はずだよなあ…」という日々を当初は悶々と過ごしていました。

それから約一ヶ月経ってみると、意外や意外。リアルでお話しすると「塩井くん、Designboom 見たよ〜」という声も多く。特に人と話したり、初めましての業界の人と話すといい感じに効いている気がしています。これってそういえば宗像大社に作品を奉納した時と似ていることに気づきました。後からじわじわ効いてくるやつです。最近とあるTV番組に出演したのですが、「世界遺産・宗像大社に作品が奉納されました」というワードは地上波で結構なパワーがあることを実感したのです。2年ぐらいでじわじわ効いてくる感じ。これと同じような現象がきっと「Designboomに作品掲載」でも起こるんじゃないかと。そんな未来を期待してこれからも頑張ろうと思います。


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