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53日間の御礼 あとがきに変えて

おかげ様で連続投稿53日になりました。予定して『老子と創詩』52本が終わり、きょうのあとがきをもって最終回となります。
最終回は、老子について書き残したこと等簡単にまとめています。
『老子と創詩』はマガジンに編集しておりますので、よろしければそちらもご覧ください。

いつも読んでいただいた皆様、短い間でしたが本当にありがとうございました。しばらくnoteへの投稿はお休みしして、しばらくは一読者として楽しませていただきます。
それではまた会いましょう!
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■なぜ老子に魅かれるのか
金谷治氏の『老子』(講談社学術文庫)の解説に、孔子的人間と老子的人間の人物像比較が書かれている。

前者(孔子的人間)は秀才型である。いわゆる紳士であって、世間のきまりごとをよく守って万事に勤勉。多少きゅうくつな感じはするが、社会的にはいかにも信用できて間違いない人物である。

後者(老子的人間)は野人型である。素朴で裸の人間味があり、世間のきまりはあまり気にとめない。時にずぼらなこともするが、大事なところははずさない人物である。

ふたつのタイプは、孔子と老子を対比的に解説しており、わかりやすいが、二元論に立っている。
あなたはどちらのタイプですか、孔子と老子のどちらが好きですか、という問い掛けの前段としてはよいかもしれないが、現実の人間は、そんなに単純ではない。
孔子的に振舞うときもあれば、老子的な価値観に心惹かれることもある。人間はいくつかの顔を持つ複雑人である。

田口先生は、「上り坂の儒家思想、下り坂の老壮思想」と評される。「昼の孔子、夜の老子」ということもある。
ひとりの人間の中に、孔子的な部分と老子的な部分の両面がある、とする両義性の前提に立っている点が素晴らしいと思う。

私が、老子に共鳴するのは、けっして老子的に生きているからではない。どちらかと言えば、孔子的に生きていながら、心奥に老子的な価値観や感性を持っていることを自覚しているからかもしれない。

 
ふたつの老子
拙文では、ふたつの意味で老子という言葉を使っている。ひとつは、思想家としての老子を指す際の人物呼称である。もうひとつは『老子』という書物を指す。

老子という人物は伝説的な存在である。
本当にいたのかも定かではないようだ。
司馬遷の『史記』では、老耼・老莱子・儋という三人の老子候補者を挙げている。出身地は異なり、時代も百年以上の隔たりがある。

老子は二千四・五百年程前の人だとされているが、『史記』が編まれた二千百年程前には、すでに諸説があって、よくわからなくなっていたようだ。世の中に対して半身に構えた複数の人間の言説が、いつしか老子という人物に凝縮したのではないかとも言われている。

『老子』という書物についていえば、『老子道徳経』が正式な名称で、上・下篇八十一章からなっている。
上篇三十七章を「道」篇、下篇四十四章を「徳」篇とするのが一般的なようだが、諸説あるとのこと。
元来、章立てはなかったようで、本来の文章がどこで区切られたのかは確かなことは分からないようだ。

拙文では、『老子』と記す時には、書物に限定した意味で使っている。老子と記す時には思想家として老子を指す場合と、老子の思想そのもの、更に言えば広い意味での老子的世界観を指している。
 

■なぜ、これを書いたのか
拙文は、5年程前に始まった「老子の里」勉強会に際して書いた創詩がきっかけである。「老子の里」は、『老子道徳経』を教材として、月に一回、三章ずつ読んでは、参加者が自由に意見を交わす会であった。

老子は田口先生のagora講座で三回学んでいたので、どうせやるなら何かひとひねりしたいと思って、詩を創作してみた。

これが思いのほか楽しく、他の参加者のお褒めの言葉も励みになって、二年半かけて全八十一章の詩を創ることができた。
拙文では、創詩という造語で表現することにした。

勉強会に出席できない時も創詩だけは書いて提出していた。自分が出た時には、なぜこういう詩になったのかを口頭で説明していたが、欠席の時にはそれがなかったので、この章句をどう読んでこの創詩になったのか、つながりが分からないというごもっともな指摘をいただくことがあった。

そこで勉強会が終わった後に、章句と創詩の間を埋める文章を書きはじめた。結果としてこの文章は、当該の章句のどの部分に魅かれたのかを自分自身で再確認して、言語化するというかけがいのない学びの機会になった。

「老子の里」勉強会は第二弾として佐藤一斎『言志四録』に移り、いまも継続している。素晴らしい時間と創造の機会を提供してくれた同朋達に感謝したい。
 
2022年 9月
城取一成

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