PC-100 - 早すぎたGUIな世界
1983年、アップルからLISAが登場したこの年、研究段階だったGUIの実用化が見えてきました。大型機もワークステーションもパソコンも、電源を入れればコマンド入力可能なことを示すプロンプトが表示され、カーソルが瞬いているだけのテキストな画面が当たり前だった世界に、複数のウィンドウを開け、マウスで操作を指示する世界が実に画期的だったのかは、それが当たり前の今からは想像できません。
NECは既にPC-9801(無印)を出していて、ちょうど2代目のPC-9801E/Fがリリースされた頃です。まだPC-8801時代のソフトを移植して動かしているような時代で、MS-DOSはまだ普及し始めた頃です。詳しいことはわかりませんが、どうやらアスキーの西氏が積極的にNECに働きかけてGUIなPCの必要性を説いていたようです。
PC-100
懐パソカタログ NEC PC-100
NEC PC-100
一番目を惹くのはGUIというよりも縦型のディスプレイ(横置きにも出来た)で、モノクロ(カラーはオプション)でテキストVRAMを持たず512✕720ドット(内部的には1024✕1024)のグラフィック画面を持っていることでした。2台の5インチドライブ(360K)を内蔵し、MS-DOS上で VSHELL というグラフィカルなシェルを使うことでGUIを実現していました。BASICもROMに持たずMS-DOS上で動くN100BASICが同梱されていました。
【日本電気】 PC-100
PC-9801のように市販アプリが揃うのは時間がかかり過ぎることが予想されたので、DOSやBASICだけでなく、ジャストシステムが開発した日本語ワープロJS-WORDや表計算のMultiplan、そしてなぜかロードランナーも付いてきました。
1983年 GUIを提案した日本初のパソコン「PC-100」 - NECパソコンの歴史
https://support.nec-lavie.jp/navigate/application/history/20120911/index.html
翌1984年には「あの」マックも登場し、いよいよGUI時代の到来かと期待は高まったものの、当時の技術ではGUIは決して操作性の良いものではなく、その遅さばかりが目立ってしまっていました。そして何よりGUIに対応したソフトを作るのは難しいです。テキストな時代から画面分割という手法を取れるアプリはあったものの、自由にフォントを切り替えるような使い方は時期尚早です。結局、窓を開いてテキスト画面をいくつも出して使っている有り様でした。ある意味、NECはグラフィックを強化するために何が必要なのかの経験は積んだようです。
PC-100と、新規開発すべきASICたち
PC-100とダイナウェア
PC-100の革新性は市場に伝わりましたが、対応ソフトが少ないことと価格がネックとなり、NECとしてもPC-9801との棲み分けの困り、その方向性は定まりませんでした。結局、後継機が出ることもなく、そのノウハウはPC-9801に引き継がれていきます。
NEC PC-100という不遇のパソコン
思い出のパソコン NEC PC-100
そしてやはり1984年にはワークステーション向けのGUIを実現するプロトコルとしてX-WindowsがMITからリリースされ、特定の機種にとらわれないGUIの仕組みが育っていきました。もちろんマイクロソフトも黙っているわけではなく着々とWindowsの開発を進めたのですが、オーバーラップも出来ないウィンドウを使えたバージョン1をリリースしたのは1985年も終わりに近づいた頃でした。
X Window System
Microsoft Windows
実はご本家マックでも、その革新性の割にはビジネス的に成功したのかと言えば難しいところもあり(ジョブスも追い出してしまいましたし)、GUIという未来は見たものの、その普及には長い道のりが必要でした。なおシェルとしてのGUIとしては、日本でもダイナウェアが頑張った記憶がありますし、海の向こうでもデジタルリサーチがGEMという環境を用意して一定の普及をみた覚えがあります。
ダイナデスクとデスクトップパブリッシング
Graphics Environment Manager
結局、GUIが普通に使われるようになったのは、マックを除けばWindowsバージョン3(1990年リリース)ですし、XもX11(1987年リリース)からです。GUIは単にその見かけだけではなく、メッセージ駆動のイベントベースのプログラミング手法が必須となり、オブジェクト指向の普及が必要でもあったので長い時間がかかったのでしょう。
PC-100発掘記念に付属ソフトを起動してみた
対応ソフトが少ないので、動かす対象が見つからないのですが、ちゃんとエミュってあるんですね。
ePC-100 謎WIPページ
この隙間の時期に、グラフィック画面は重すぎるのでQuickBASIC(MS-DOS版)などで、テキスト画面を使ったウィンドウ・ライブラリを作って愛用していた気はします。
Quick BASIC - テキスト画面でGUIを作れた構造化BASIC
ヘッダ画像は、以下のものを使わせて頂きました。https://ja.wikipedia.org/wiki/PC-100#/media/ファイル:NEC_PC-100.jpg
htomari - NEC PC-100, CC 表示-継承 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=80020526による
#レトロPC #NEC #PC100 #GUI #VSHELL #ダイナウェア #GEM #XWindow #JSWORD #ロードランナー