“パンパンガール”を語る16【銭湯の鏡台の前に立つ男娼 ~ いじらしい“女心”】
「オトコオンナ」? 「オカマ」?
金ちゃん) これは、銭湯の鏡台の前に立つ「オトコオンナ」ね。
僕が子どもの時はまだ、「オカマ」っていうのを聞かなかった気がするんですよ。
━━ 「オカマ」って言葉がなかったってことですか、まだ?
金ちゃん) いや、あったかも分かんないけど、私は聞いてなかったし、街でも「オカマ」っていう言い方はなかったと思う。
━━ なるほど。
入るのは男湯? 女湯?
金ちゃん) 私の父親が、ちょっと先の緑ヶ丘という街に住宅団地があって、昭和25年、そこで小さな銭湯を始めたんです。
その時のお客さんの中に、この人がいた。
━━ なるほど。
金ちゃん) うん・・・
━━ ・・・ん?、当然、男湯に入るわけですよね?
金ちゃん) えっ?
━━ 男湯に入るわけですよね?
金ちゃん) ただ、この人はね、女湯に入りたいの。
━━ へっ!?
金ちゃん ) 頑として!
ただ、父親はそれを受け付けなかった。
━━ (笑)当たり前ですよ。
金ちゃん)そうしたら… 女湯の日に…小さな銭湯だからね、一日交代なんですよ 、男湯と女湯が。
━━ ええ。
金ちゃん) それで女湯の日に、銭湯が開く3時間前に来て、この人は一人だけで、女湯に入ってました。
━━ へぇ~。それ、じゃあ、お父さんが許したわけですね?
金ちゃん) まあね、「それならいいだろう」ってことでしょう。
━━ そうやってこの人、女湯に一人で入ってたわけですね、へえ~。
ということは、自分はやはり女性だっていう意識があった?
金ちゃん) 多分、そうでしょうね。 いつも和服というか、着物だったり浴衣だったりで。
色の黒い人でね。それで、首から上をマッチロに塗るんですよね。
で、髭を念入りに剃って…
━━ 湯上りに、ってことですか?
金ちゃん) そうです。ここ、銭湯の鏡台の前で化粧をしていくんです。
━━ それでまあ…商売に行く?
金ちゃん) そうですね。で、この人がどこへ行ってたかは分かんない。
━━ やっぱり、米兵相手に身を売っていたんですかね?
金ちゃん) さあ、それも分かんないです。
━━ でも…まあ男娼であることは間違いない?
金ちゃん) 間違いないね。
━━ であれば、まあ…そうなんでしょうね、きっとねぇ。ふぅ~ん。
━━ これは帯ですか?
金ちゃん) うん。
━━ 脱いだ帯ってことですね?
金ちゃん) それを描いた…。
この人の名前、私は忘れちゃってんですよね。なんとかって、呼ばれてたと思うんだけど、それを全く思い出さない。
この人がどこに住んでたかも分かんないですよ。
ただ、こういう人がいました…
━━ いたんですねぇ、ふぅ~ん…。
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