見出し画像

サくら&りんゴ #50 ああ怪力

カナダの女性が力持ちである。

相変わらず車がないので、shoppersというドラッグストアまで歩いて買い物に行く。片道20分。天気のいい日はちょうどいい散歩コースである。
帽子にサングラス、バックパックにはマスクと買い物袋。

それはInnisfiビーチロードから住宅街へと入ったあたりだった。
てくてく歩いていると、ひとりの女性がトラックの上の芝刈り機と格闘しているのが見えた。芝刈り機と言っても乗って動かす四つのタイヤがついたタイプだ。

声をかけると、

タイヤをここに乗せればあとはスムーズに行くはずなの。

見るとトラックから地上へ伸びたランプに芝刈り機を乗せて降ろそうとしているのである。

私の力で助けになるかわからなかったが、一緒に引っ張るとどうにか芝刈り機はランプに乗った。
そしてそこからスムーズに地上へ下りていくはずが、何かに引っかかって動かなくなる。
下を覗き込むと芝刈り機底の出っ張りがランプのビスにかかってしまっている。ほんの5mmほどのことであるが、二人の力では持ちあがらない。

結局、たまたま隣家にやって来た男性に声をかけて降ろしてもらうことになった。

しかし私は感心するのである。
その女性は体格からいって、私よりひどく大きいわけではない。カナダ人平均としては小柄な方である。そんな彼女がそもそもひとりで、この大きさの芝刈り機をトラックに乗せてやって来たということに驚く。

私なんかそんな作業をするなど、はなから思いつかない。

夫のお手伝いに来ていたクロアシア出身のカリーナは、いつもメルセデスベンツに乗っていた。まだ若い彼女は働きだしたばかりで、親に車を買ってもらえる裕福な家庭のようだった。そんな彼女のメルセデスがある日故障して、今日はママの車で来たという。
ドライブウェイを見ると、なんとママの車は白いトラックであった。

私なんて足が短くて、トラックに乗るのも一苦労である。

ゴミの収集にも女性を見かける。収集用のトラックを立ったまま運転し、道路脇に出されたごみを集めていく。ごみのコンテナを持ち上げて収集車にゴミを投げ込む。トラックは背が高いのでかなり腕力がないと、そこまでコンテナをもちあげられない。

道路で作業をする女性の姿を見て、これまた感心する私である。

そう言えばそのゴミ収集の方法が11月から変わると知らせがきた。
自動化と自慢げに書かれたチラシと一緒に、ゴミのコンテナが三つ、各家庭に配布された。
それもシリアルナンバー付き(ゴミ箱に!)。
私の想像では、トラックからアームが伸びてコンテナをつりあげ中のゴミを収集するらしい。
しかしそのゴミコンテナの大きいことと言ったら。

画像1

これでホリデーの後も、コンテナからゴミがあふれる心配はありません。

とあるが、たとえば底に残ったゴミを取ろうと手を伸ばそうものなら、私なんかゴミ箱の中に真っ逆さまなくらいな大きさである。

ゴミが少ない場合はためておけるので毎回出す手間がありません。

いやいや、ただでさえ普通ゴミは二週間に一度。むしろ毎回出したい。キャスターがついているものの1か月もため込んだらどんな重さになるか。


全くキミは力がないんだから。
しょっちゅう夫が呆れていた。

家の壁に貼り込むドライウォールの片側を持ってくれと言われて、私はその重さで下敷きになりそうになったのである。

薪ストーブ用の薪も木切れだと侮ってはいけない。重ねると意外な重さで、私が運ぶからと言ったものの持ち上げられない。
仕方がないのでキャスター付き生ごみ用コンテナに薪を入れなおして、カラカラと家の中に運び入れるのである。

ある時は、排水口が詰まった時のラバーカップ(パッコン?)を店で探していてどうしても見つからない。ふと気づいたら、その持ち手の柄とゴム製のカップ部分の様なものがバラにしておいてある。
ひょっとしてこれ?
持ち手をカップに付けて、試しに床に押し付けてみる。
するとこれが、床に吸い付いてどんなに引っ張っても取れなくなった。
仕方ないので通路のど真ん中にパコンと刺さったまま、夫を呼びに行った次第である。
そんな強力吸引パッコンだが、キッチンのシンクが詰まった時、マーガレットが力を入れすぎてラバーカップを壊してしまった。
驚きの怪力である。

こんな私も東京に住んでいた頃は、女性にしては力持ちだと自負していた。
なんせ臨月間近な時期に、急に部屋の模様替えを思い立ち、家具を一人で動かして母に呆れられたことがある。

あんた、そんな力入れたら、赤ちゃん出てきてしまうやないの
(関西弁の母)

そんな私であったが、カナダ女性の力の強さはケタ違いであった。

このあたりの人々は小さいころから家の雪かきや農作業、建築作業を手伝って鍛えられているのだろうか。
人気のスポーツで、各地区にチームがあるというカーリングひとつをとっても、ストーンの重さは20kg近くある。


病で頻繁に息切れがするようになってからも夫は、家作りの力作業を続けていた。セメント袋を持ち上げてひょいと運びこんでいる。

夫はいつも私のそばにいて
どんな時も
どんな状態になっても
圧倒的な力持ち

のはずだった


この間、空気を入れ替えようとガレージの窓を開けたら、その上下開閉式のものがストンと下まで落ちて、閉められなくなった。どうやっても引っ張り上げられない。どうして窓がこんなに重いのか。泥棒より動物が入ってくるので開けっ放しにはしておけない。
仕方がない、段ボールを立てかけてガムテープでとじエリックにテキストメッセージを送る

近いうちにこっち来る?窓を閉めてほしいんだけど。

やれやれ、力持ちがそばにいないのはかなり不便である。

しかしである。
家庭菜園を始めた時は、トップソイルの土が入った一袋を、ウィールベローで運ぶのもやっとだった。
しかし最近ではおや?軽々運べるではないか。

この町の女性パラメディック(救急隊員)たちには到底及ばないが、私も少しは力をつけてきたかもしれない。
しかし何度思い出しても(ここにも何度か書いたが)この町の女性パラメディックたちの働きには感嘆しかない。
1回目の時は彼女だけが特別だろうと思った。
しかし1年余りの間にきっかり10回、夫のために911をコールして、やって来たどの女性も素晴らしく力持ちだったのである。



気温が落ちた
メイプルの葉がオレンジのグラデージョンを作り上げていく。

画像2

                                                      9/26


画像4

                                                        10/2


画像4

                10/4

人々の冬支度が始められている。




日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。