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O Bêbado E A Equilibrista

João Bosco と Aldir Blanc によって作られました。
邦題「酔っ払いと綱渡り芸人」。

ポルトガル語歌詞はこちらです。

O Bêbado E A Equilibrista / João Bosco e Aldir Blanc
(酔っ払いと綱渡り芸人)

日が落ちていった 橋の湾曲のように曲線を描きながら
喪服を身に着けた酔っ払いが チャップリンを想わせる
売春宿の女主人のような月は
冷たい星たちそれぞれに 借り物の輝きを強いた
そして雲は空のインク吸い取り紙
拷問による苦しみの痕跡を吸い取っていた
なんという苦悩!狂気じみてる!
山高帽を被った酔っ払いは、
数々の無礼をはたらいていたんだ ブラジルの夜に
私のブラジルよ!

エンフィウの兄弟と
一緒に立ち去ったあまりにも多くの人々が
帰ってくるのを夢見ること
それは困難なこと
愛する優しい母国は泣いている
マリア達、クラリス達、たくさんの女性が泣いている
ブラジルの大地で
けれども私は知ってるんだ
そんな辛辣な痛みが無意味ではないことを
希望
それは小さな傘を持った綱渡りみたいに難しい
細い細い綱の上での歩みは、けがをする可能性だってある
不運なこと!
綱渡り芸人の希望
そのために全ての芸術家がショーを続けなければならないんだ

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なんて難しいのか。
意訳もしきれず直訳もしきれず、迷う迷う。。
いつも以上に納得いっていない部分多々。

これまでにnoteに記録したものとはだいぶ趣が違う曲。
私がこの曲と出会ったきっかけは、
ラジオで流れてきたJoão Boscoの音源。たぶん。
たぶんというのは、その時は曲のタイトルも何もわからなくて、
みんなで歌っている感じと、その楽しくて素敵なメロディをなんとか記憶に留めただけだったから。
後々たしか今度はyoutubeで見つけて、ようやくタイトルに辿り着けた。
その時はたぶんエリスレジーナだったな。

しかし、まさかこんな歌詞が歌われていようとは予想だにしませんでした。
ブラジルの文化を語る上で、軍事政権の話は必ず出てきますが、
これまさにプロテストソング。
1977年の年末に書き始められ、
1979年にエリスレジーナのアルバム " Elis, Essa Mulher "に収録され有名になったようです。

前半は色々な隠喩を使っています。
そうと分かっても、売春宿の女主人のくだりは
何かもうひとつなんだよな。
もう少し背景にあるものを知る必要があります。

後半は具体的な名前も出てきてます。
エンフィウ(Henfil) は、ブラジルの風刺画家で、
そのお兄さんは社会学者であり、人権活動家だったそうですが、
軍事独裁政権の抑圧が強くなって、'71にチリへ亡命、'79に帰国しているようです。
ここ、ここんところ、"Que sonha"から"rabo de foguete"までが
全く納得いってない…

「マリア達」「クラリス達」としたところは
”Marias” 、 ”Clarisses”
と、それぞれ名前が複数形になってます。
マリアは、拷問で亡くなったManoel Fiel Filhoの娘、
クラリスは、同じく拷問で亡くなったVladimir Herzogの妻のことのようです。
当時は同じような苦しみを味わった女性たちが多くいたことを
複数形にすることで表しているのではないかと思われます。

もうひとつ。
前半のほうに出てくるチャップリン。
ポルトガル語歌詞の ”Carlitos” です。
João Bosco のチャップリンへの敬意がこもっているようです。
チャップリンが1977年12月25日に亡くなっていることを考えると、
書き始められたのはこの後からだったのかなと。
チャップリンの "smile" にインスパイアされているとかいないとか
そんな話も聞いたことがあります。
Stacey Kent のレコーディングで、
Smileの前にこの曲が演奏されているものがありますので
下に貼り付けしておきます。

だいぶ長くなってしまいました。
しかし私の浅い知識でも、まだ書ききれていないこともあります。

また、知識を得られたとしても、経験していない私にはとても訳しきれない、もっと深いものも込められているのだろうと思います。

大変な時代を生きて、この曲を生み出し、世に送り出してくれた
João Bosco、Aldir Blanc、Elis Regina に
たくさんの敬意をもって歌いたいと思います。

エリスレジーナver.
エリスレジーナの声はやはり圧倒的。訴えてくるものが違う。
最初のアコーディオンもとても印象に残ります。

ジョアンボスコver.
これ聴いて、まさかこんな歌詞だなんて思わない。

そしてジョアンボスコver.もういっちょ。
本人ほとんど歌ってません。
客席のみんなで歌ってるのがほんといい。
ブラジルのライブ動画ではよく見られますよね。

ステイシーケントver.
記事の中でお話ししている、smileの前に演奏されているのがこちらです。
シンプルな編成で全ての魅力が生きている感じがします。
特にsmileの出だしのピアノが好きです。

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