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中編・短編小説集

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kazumaの中編・短編小説集です。
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#創作大賞2023

「川に向かって、言葉を吐いて」

 ねえ、何から話そうかしら。あたしね、こういう時って、どんな風に喋ったらいいか、分からなくなるのさ。何を喋ったって、ぜんぶ同じって気がするの。あんたに話そうと思うとね、あたしはいつも森の中にいるみたいだわ。どんなにあたしが大きな声で喋ったって、あんたの耳まで聴こえやしないから。ねえ、聴こえてる? あたしの声が。ちゃんと聴こえてる? ──返事くらいしてよね。すぐに見失っちゃうからさ。あたしね、もっと遠くへ行きたいんだ。こんなところ、ほんとは一秒だって立っていられないのよ。目眩が

「君は花束を忘れた」

 気が付いた時には列車に乗っていた。覚えているのは八月の暑苦しい日に一番線のホームにやってくる列車の光を見ていたことだ。頭上の電光掲示板には「回送列車」と書かれていた。それが何時何分発だったとか、どの方面に向かう列車だったとか、そういうことは覚えていない。次の瞬間には銀色の冷たいアルミの手すりを掴んでいた。車窓からは等間隔に現れる電柱と架線が流れていって、いつ終わるとも知れない線路が続いていた。車体はつねに緩やかに傾斜しているようで、線路の上を走る車輪が軋む音がした。辺りを見