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まる男は礼儀正しい

1973年生まれのまる男は小学校1年の頃から、ある理由でプロも通うボクシングジムで学校以外、ボクシング漬けだった。そして、中学校、友達に誘われて野球部に入る。運動神経は怪物だけど、常識のだいぶずれた少年の物語である。

まる男が野球部に入って数日が経った日曜日。2年3年は練習試合で他校へ行き、1年生たちはグラウンドに集まっている。今日、まる男たちを指導してるのは、監督でなくコーチだ。
「これから、ノックの練習をする。順番にサードに入れ、そして、ボールを取ったらファーストに投げろ」
「はい!!」口々に1年たちは返事をする。
「何か質問あるもの」コーチは一応だが、流れでいってみた。
「はい」まる男が手を挙げている。コーチは嫌な予感がする。
「何だ、何がわからない?」
まる男「サード、ノック、ファースト。この単語の意味が分かりません」
コーチ「はぁ!?」
まる男は大きな声で念を押す様に言った
「サ、ー、ド。ノ、ッ、ク。ファ、ー、ス、ト。その意味が分かりません」
コーチ「え~と・・・。マネージャー!」
グラウンドにいる唯一の女子、今日子を見た。3年生だが、入部後3か月で体重が20㎏は増量した娘だ。マネージャーというのは、それだけ気苦労の多い役目なのだ。
コーチ「こいつに野球のルールを教えろ!」
今日子は、まる男をベンチに座らせると隣に座り話始める。
・・・・数分後・・・・
コーチがまる男の方を見てみると今日子でなくまる男が何やら話している
野球ってそんなに難しいかなあ、と2人に近づいてみる。
「・・・・ですから、アメリカに忖度して北方四島は返してもらってないんです・・・・」
ーーーん?ーーー
コーチ「お前ら。何話してるんだ」
まる男「日本の国際情勢ですが。何か?」
コーチは額に手をあてると、うつむき加減になり、その後顔を上げていった
「今、何の時間だと思ってるんだ?」
まる男は目をぱちくりさせて言った
「・・・グレゴリウス暦を使ってる・・・であってる?」
コーチ「いや、そうでなく、今、俺たちは野球場で何をやってるんだ?」
まる男、即答で「人間!」
「てめえ。いい加減にしろよ!」
コーチは、とうとう怒った。彼にしては遅いぐらいだ。
まる男は平気でいう。「俺としては程よい加減ですが?」
コーチは更に語気を強める「真面目にやれ!と言ってるんだ!」
「真面目に日本の外交について語ってるんじゃないですか!」
まる男が大声で怒鳴る。獅子の咆哮を思わせる怒声だ。
コーチはひるむ。・・・・が、今日子の助け船だ。
「いやいや。コーチの方が正しいでしょ。
まる男君の話に引き込まれたけど、今は部活中なんだから野球の話しなくちゃ」
まる男は間抜け面で、「あっ。」やっと気付いた。
コーチは「ちゃんと野球の話をしろ!」怒鳴った後は優しく
「ノックについてはどこまで分かった?」
まる男はは得意げにしゃべる
「大丈夫です。人の部屋に入る時は必ずやってますから。」
コーチは眉をへの字に弱々しくつぶやく
「え~。そこから~。」


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