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金縛りとゴースト

ああ、金縛りにあったことは一度や二度じゃない。というより、定期的に訪れる古い友人のようだ。俺は仕事から帰るとベッドにぶっ倒れる。テレビの音だけがぼんやりと部屋に漂う。そこに浮かんでくるのは金縛りだ。全く動けなくなって、ただ息が出来るだけ。ゴーストが部屋に立ってる気配。何をしに来たのか、何を求めているのか分からない。ただ、そこにいるだけで、なんだか重たい。

ある晩、また金縛りになっていると、天井からフェードインしてくるような姿が見えた。ああ、またお前か、と呟く。だが、なぜか今夜の奴はちょっと違う。その顔はなんとなくあきちゃんに似ていた。ムーディーな照明の下で、あきちゃんのお気に入りのルージュを塗った唇がほのかに笑っていた。

「あきちゃん、お前、何でここに?」俺は問いかける。まさか、あのスレンダー美人が俺のベッドに飛び込んでくるなんて、一体全体何が起きているのだろう。

「ええ、そうね、何でここにいるのかしら。」あきちゃん、いや、あきちゃんに似た幽霊は微笑んだ。なんとも優雅でエレガントな微笑みだ。

「お前、何しに来たんだ?俺を金縛りにして、何を考えてるんだ?」

「ほら、あんた、これから二人で楽しい時間を過ごすのよ。」その声にはいつものあきちゃんらしさがあった。

俺は固まって動かない首を振ろうとした。まさかあきちゃんがゴーストになって俺の元に来るなんて。そんなバカな。でも、一体何が目的なんだ?それとも、これは夢なのか。

「あんた、私のことが好きやろ?」あきちゃんがにっこりと笑った。その微笑みには、昔の恋人が持つような甘い毒が混じっていた。

「ああ、あきちゃん。俺が好きなのは本物のお前だ。ゴーストじゃないお前だよ。」

「そういうとこ、好きやねん。」彼女はそのまま消えていった。

次の日、ナオコにその夜の出来事を話した。ナオコは大声で笑い、あきちゃんがどうやって俺をからかったのか、その詳細をほしがった。でも俺はそれを話さなかった。だって、それは俺とあきちゃんの秘密だからだ。

とにかく、金縛りは気味が悪いものだが、それがあきちゃんとの夜の一時を作り出すなら、少しは歓迎できるかもしれない。それに、金縛りの経験がなければ、こんなに面白い話はできないだろう。

それにしても、あきちゃんがゴーストだなんて、誰が信じるんだ?でも、これはハードボイルドな人生の一部。金縛りもゴーストも、すべては人生のスパイスだ。ただ、次にあきちゃんが現れたら、今度こそは金縛りにならずにちゃんと話をしたい。それができれば、俺はもっと人生を楽しむことができるだろう。

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