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【短編小説】じじいのめがね

「じじいはめがねの一部でもあり、めがねはじじいの一部である。」

わしの街ではこんな言い伝えがある。

わしももうすぐ78歳だが、そろそろ白髪が目立ってきた頃だ。


老眼でよく見えないが、めがねをかけるほどではない。
というのも、わしは昔からすこぶる目がよかった。

右目4.0。左目3.8。
ゲートボール中は誰よりも早く飛行機を見つけていた。
ボールには当たらない。

刺された蚊は一撃で仕留め、ばあさんとのかくれんぼは勝負にならない。
ばあさんは隠れる場所がいつもポチの家だからだ。

ポチは今、愛媛に単身赴任である。
我が家の一人娘だ。


ばあさんは目が悪い。
めがねだけでは事足りず、合わせてグラサンもかけている。

わしが電気をつけても、暗くてよく見えないと言うのが口癖だ。

しかしばあさんはめがねが似合っている。
それだけはわしの目に狂いはない。

結婚して5年。再び惚れ直す日が来ようとは。


わしの街でも、めがねをかける人が増えた。
わしの街は約5万人住んでいる。平均年齢79.9歳。
わし以外全員80歳だ。
ばあさんは2個上だ。

ポチがいれば平均年齢が下がったかもしれない。
ポチはまだ4歳なので、79.7歳ぐらいまで抑えられただろう。


しかしポチが心配だ。
2年前に愛媛へ行くと言って聞かなかったが、果たして生活できてるだろうか。

時々かくれんぼでばあさんがそっちに行くこともあるが、
ばあさんはもともと霊媒師だからな。
生活のことはよくわかってないのだぞ。


わしも再来年で80歳。
少し目がかすんできたかもしれん。

この街では、わし以外全員めがねをかけている。
つまり4万9,999人がめがねと共に過ごしている。

しかもばあさん以外、全員男。
というか、ばあさんも男。
ばあさんはわしがそう呼んでいるだけで、家族でもなんでもない。

我が家の一人娘ってのも雰囲気だけだ。
そう言いたかったのだ。
じじいの拠り所だ。
ポチのことはよくわからない。


「じじいはめがねの一部でもあり、めがねはじじいの一部である。」

わしの街のいい伝え。

今日もわしは、裸足に短パンでゲートボール場へ行く。


おしまい

これからもぶっ飛ばします。良かったらぜひ!