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手紙

「6月の夕暮れ時には『プラネタリウム』がぴったりやね。」



茜色の空を背景に、心地良い風をまとう君は涼しげな顔でそう言った。コンビニから君の家までの帰り道、僕はビールとプリンを左手に持っていた。

君には君だけの「一番まぶしいあの星」が見えていたのかもしれない。

今でも見えているのだろうか。

長い間、僕は見失っていたんだ。


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拝啓

十余年が過ぎようとしているけれど、元気にしてるかな。

記憶の中の君はまだ22歳のまま。代わりに僕は随分と歳を重ねたんだ。

見失った自分だけの「一番まぶしいあの星」を探して、随分と回り道をしたような気がする。でも、それすら今は財産になったんだ。


君がくれたものは数え出せばキリがない。


西へと車を走らせた中国道。道中に寄ったサービスエリア。そこで君が何を買ったかもなぜか覚えていて。

くるりのハイウェイを聴きながら、西へ西へと車を走らせたね。一緒に見た、水平線に沈む日本海の夕日は格別だったなあ。

ああ、ごめんよ、一人のんきな事ばかりで。

「ところで、最近どうよ?」

「またそれ?」と君の声が聴こえてきそうだ。

「最近どうよ?ってふわっとしすぎやん!」

いつもそう怒られていたな。懐かしい。未だに僕は、誰に対してもこの言葉を使うんだ。君みたいにツッコミをくれる人も多いよ。


ダメだ、手紙を書こうと思ったのに筆が進まない…


「便りがないのは元気な証拠」

こんな言葉があるけれど、それを信じることとするよ。

間違いなく言えるのは、君は色褪せていない。今も、これからもずっと。自然体で輝く存在なんだ。なんせ度々夢に出てくるくらいだから。

十余年という歳月は、世の中を劇的に変えたんだ。君が「今」を見たら何て言うだろう。きっとびっくりするんじゃないかな。色々と。

でも、その中で変わらないモノも多くあってさ。

君に会いたいと願う気持ちもその一つなんだ。こうして言葉にすることもなんだか照れくさいけれど。


あれからまだ一度も君に会いに行けていないのは、僕自身の中でまだ踏ん切りがつかないからなんだ。

ごめんよ。

謝られても困るかもなあ。一方的な気持ちなのかもしれない。でも、それでもいいと勝手に思っている。この文章を読んでくれた人がいるとしたらきっと、僕の頭がおかしいと思うだろうね笑。

客観的に考えてそう思うよ。

でも、それでいいんだ。独りよがりでも。自己満足でも。


「6月の夕暮れ時には『プラネタリウム』がぴったりやね。」


毎年のごとく、君の言葉を思い出す。僕の中で君が生き続けていることは間違いないんだ。たまに心が痛くなるけれど、痛いってことは僕が生きてる証拠で。君が生きたかった「今」を、俺は謳歌しているよ。


せめてもの償いに。


R.I.P


※この物語はフィクションです

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