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ボードゲーム制作に初めてイラレを使って、良かったこと、大変だったこと

チャオー!
今度のゲームマーケット2023春に、タルトゲームズとして3年ぶりのパッケージ新作『赤と黒』を出します。その工程で、初めて自分でイラレを触ってカード・箱・説明書を作ったので、記憶が生々しいうちに苦労話など書いておこうと思います。宣伝4割の自己顕示欲6割なので期待せずに読んでください。

作品概要

今回の『赤と黒』はオリジナル作品ではなく、400年ほど前のスペインやフランスの伝統ゲーム『トルック(Truc)』を現代向けに洗練させたものです。ルールはほとんど同じですから、pagat.com(英語)を見ていただければ元のルールは大体わかります。短期間で面白いオリジナルを作れないとき、お茶を濁すために筆者がよくやる手ですね。

でも、パッケージにして広めたいっていう気持ちは実際あったんです。喫茶マーブルさんで毎月開催している「トランプの夕べ」で草場さんに教えてもらったゲームなんですが、昨年ひさしぶりに遊んだら昔の記憶よりずっと面白くて、ただカード枚数こんなに要る? ランク覚えにくいよね? 点数適当じゃね? みたいなところも伝統ゲームですからまあまああって、そのへんのストレスを減らすデベロップだけしてます。
デベロップはぽっつ(Twitter: @pots_orange)さんの多大なご協力あっての賜物で、俺ひとりでは到底ここまで整然とできませんでした。記して感謝します。

トリックテイキングの源流のひとつにあたるゲームで、カードを1枚ずつプレイしてランクの大小で勝敗を決める点ではトリックテイキングですが、スートの区別がありません。実質はブラフゲームです。
2人戦が基本です。手札3枚で3トリックをプレイしますが、第1トリックの初手以外は裏向きにカードを出して「ダブル」を宣言できます。元の『トルック』ではダブリングキューブを使い、『赤と黒』では宣言用のカードを使います。
相手はダブルを「テイク(受ける)」するか「パス(降りる)」し、パスしたらダブルした側がディールに即勝ちます。テイクしたらゲーム点が上がってプレイを続けます。3トリック終わって勝ち数の多いほうが1ディール勝ちで、勝敗同数なら先にトリックを取ったほうが勝ちます。

簡単でしょ? 15分程度のフィラーとして割と面白いです。pagatに4人ペア戦もあったのでオプションルールとして同封しました。デッキ枚数を減らすオプションルールもつけてます。詳しくは後日公開する説明書をご覧ください(説明書もちょっとだけ攻めました)。

グラフィック作業の経緯

今回のイラストは、グッズを製作されているサークル「七色洋品店」の打木友美さんにお願いしました。普段は自宅で栽培したマンドラゴラを各種イベントに出されています。前回のゲムマでお隣のブースだったんですが、トランプモチーフの便箋やキーホルダーが可愛くて、一度何か依頼してみたいと思ってました。その機会が偶々すぐ来たという感じです。

最初は箱とカードを両方お願いしようと思ったのですが、手描きメインでPCには不慣れとうかがったため、今回はひとまず箱だけをお願いしました。でも箱のラフを拝見したら、1つは箱のフタ側に使えるとして、もう1つはそのままカードイラストにいけるじゃん! これかっこいいから使わせてください! ってラフのレビュー時にお願いして、結局カードイラスト+小物の絵も描いていただく形になりました。おかげで当初想定よりもずっと綺麗な一品に仕上がったと思います。基礎画力がものをいうイラストレーション、こればかりは私ひとりでは絶対に描けませんから、今作がいい形になったとすれば何よりも打木さんのおかげです。

なんですけど。

でも、カードと説明書はあくまで俺が作るわけですよ。美術の成績が万年2の俺が。同人誌をWordで作ることに限界を感じて昨年ついにインデザとイラレを導入したけど、グラフィック制作なんてアラフォーまで全く未経験だった俺が。原稿を。ね? マジなの? 俺はボードゲームのシステムを考えるのが楽しくて同人活動やってるのに、当初と違う方向にがんばることが増えてない???

そしてイラレの苦労

一応GIMPというフリーソフト版フォトショみたいなソフトは使い慣れてて、それを使って以前にもカードゲームの原稿を自作したことはあったんですけど、イラレってなんていうか、別世界ですね。

レイヤー右クリックしても何も出ないよ!? いらないレイヤーどうやって削除すんの!? パス……って何? 塗りの色はどうやって決めるの? カードの外枠だけ残して内枠を型抜きするのって、レイヤー内を選択してDeleteじゃだめなの? クリッピングマスク is 何?????

と、まあ初心者ですもんねって感じで、終始Google検索かけまくってあわあわしてました。途中、井上磨さんのツイートで『つくる デザイン Illustrator』という書籍を紹介してもらったおかげで初歩のノウハウがだいぶ参考になり、原稿を落とさずにすんだのはこの本のおかげです。磨さんありがとうございます。
カード裏面の繰り返し模様って、図形を描いてからリピートのコマンド使えば一瞬でできるんだ……最近の技術すっげえ……!

あ、で、苦労話。はい。

まずやってて気づいたんですけど、カードのそれっぽいガワだけひとまず作って、後から「あれ、このカードとこのカード、種類違うのに裏面の色味同じじゃね……?」みたいなことってあります。プレイには支障ないんですが、箱からカードを取り出して仕分けるとき、カードの見た目が似てると分けるのに手間が掛かります。ですからカードは準備のしやすさも考慮して見た目を極力はっきり区別可能にすること、みたいなのは自分でやってみて初めて実感しました。そういうUIの実装ノウハウを逐一やりながら覚えていく苦労といいますか、見落としてる改善点もたぶんいっぱいある。

もうひとつ難しかったのは、先方(打木さん)が描いてくださった手描き絵→ピクセルデータのpsdファイルを自分の環境に持ってきたとき、こちらのaiファイルの色味やサイズ感などをpsdと揃える作業です。
いつもの先延ばし癖でギリギリに作業開始して〆切も余裕なかったので、psdを取り込んでファイルをカード1種類単位に分割したあとでどこかに修正点が見つかって、自分の修正箇所をカード1種類単位で逐一直してる、みたいなことが数回ありました。
いや誤解のないように言いますと先方は全然関係なく、純粋に俺のほうでの作業不備です。イラスト+周りのグラフィックを入稿用テンプレートに合わせてみたらミリ単位の微細なずれがあるのを違和感なく修正するとか、psd画像の透過時に白フチが気づかないレベルで残ってたのを後から消すとか、そのへんの手当てを前日にちまちまやってました。もっと効率的な手順が絶対あるからカード作成のワークフローを頭に入れたい。
でも慣れたら何とかなった! 一度必死に入稿作業すれば嫌でも覚えるから、次はきっと楽になる! そういう間違った成功体験がダメなんですよ俺

というかそうではなくて、さっさと自分でサンプル画像を使って練習しとけよって話です。はい。あと印刷所さんのテンプレも早めに入手して作業しとけって以下略

自分でグラフィックをやって良かったこと

まず1つは、最初に「PC作業に慣れていない」とうかがった時点で、そのあたり諸々込みで自分が作業することを承知していたので、先方の責任範囲をあらかじめ絞った状態で作業指示&割り振りを行えたことです。カードや説明書はできないって最初に断ってくださってて、だから最初から「いざとなったら俺がやれば済む」と思ってましたから、こちらの不安は一切ありませんでした。打木さんには終始的確に、かつ気持ちよく対応していただき、本当にありがたかったです。やっぱりこういうのは上流工程での合意と進め方の共有がすごく大事だと改めて認識しました。

※ ついでに先方のご好意で、前述のとおり小物の追加イラストを発注させてもらったんですが、それを作業終盤で説明書やカードレイアウトに流用することができて、見た目のクオリティが当初想定よりも上がったことも記して感謝します。配置はなんとなくプログラミングの感覚で同人レベルのものはできるんですけど、そもそもの絵を描くのだけはイラストレーターさんのお力を借りなくてはできません。

それから、自分でグラフィックやった最大のメリットは、終盤の変更が自分の裁量ひとつですぐにできることです。こればかりは人に頼んでたらできません。いやできるんですけど、最初の指示から大きく変えるとグラフィック担当の負担が大きくなるから極力したくないし、でも仕様書をいくら綿密に切ってても実装しないとわからない改善点はあるんです。私は他人とコミュニケーションをとるのが本当に不得手なので、必要な修正点を自分の判断だけでその場で修正できるのは、すごく気楽でした。

たとえば化粧箱の身側の側面って、ルールによる特殊な要件がない限り、必須の情報を載せることは少ないと思います。だから当初の仕様ではなにも載せないつもりだったんですけど、フタと身の色合いを変える必要が出たとき「これ色合ってないと片付けるとき分かんなくならね?」と思って市販品をふと見たら、身側の側面にフタ側と同じタイトルロゴを入れてある。あっそうかー、このロゴが同じだから戻すときも簡単に合わせられるんだ! と、まさに目から鱗が落ちました。これは入稿当日に即真似しました。

そんなふうにして、自分のグラフィックスキルもぐんぐん向上しますし(個人の感想であり効能を保証するものではありません)、何よりグラフィックを描くことの大変さが肌身でわかります。この記事書いてても、自分ひとりではどうしてもやれない、どっかで人のお力をお借りしなくてはできない、っていうのが見えてきました、っていうか作業してたらどっかで必ず人にご迷惑はかけるしご好意もいただくものですね。打木さん、ぽっつさん、他お世話になった皆さん、ありがとうございます。

2023春のゲムマは5/13(土)出展

『赤と黒』の部数はいつもより少なめですが、それでも十分ご用意していますし、予約と通販も受け付けます。説明書やカバーイメージも公開します。後日見てやってください。今回はカード30枚のみの《ゲムマチャレンジ》作品にしてみました。

システムやUIの技術的な面にはほとんど触れてないので、そういうのも気が向いたら書きます。Salut!

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