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以前友だちだったアコは、いつのまにか結婚して、子どももいた。三人の親子の住む汚いアパートに訪ねて行った日、私は頭痛がしていた。狭い入口をはいると、下駄箱のわきに洗濯物が積まれていて、部屋はひどくちらかっていた。雨が降っていたせいかもしれない。何もかも、目眩の原因だった。彼女と同じ教室ですごした記憶も、突然学校をやめた彼女が何も理由を語らなかったことも、その後の消息不明も、そしてロビンという男の写真と、人見知りしない幼いユークンも。 その目眩が液体のように頭の中に広が
(1) 広い廊下だった。天井がやけに高く、手術用の担架が二台ならんで疾走してきてもよけられるくらいの幅がある。人の匂いがしない。気配もない。ふつうの病院なら、冷たいなりに生活感があるものだ。それが、ここには感じられない。張紙や棚がないからだろうか。急に体が小さくなった気がして、知らないうちに歩幅が狭くなる。ひとりの靴音がひびいて消えた。 都心から離れた駅で電車をおり、タクシーに乗ったのは、十五分ほど前だった。手帳に書き取った場所を告げると、運転手はいちどだけ返事をした