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データ可視化は「届ける範囲」によって3種類に分けられる

データ可視化を作る上で重要なことを議論する際に、それがどのようなデータ可視化であるかを意識する必要があります。たとえば社内でデータダッシュボードを作るときと、報道でデータ可視化コンテンツを作るときでは、もちろん基礎的な注意点は共通するでしょうが、最も強くフォーカスすべきポイントは異なるでしょう。

切り口は様々あるでしょうが、一例として今回は「データ可視化を届けたい人の範囲」を軸に切り分けます。大きく「自分のため」「組織のため」「社会のため」と3つに分かれます。

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「自分のため」のデータ可視化

まず最も小さな円から説明していきます。「自分のため」とは、自分があるデータの概要や傾向を知るために作るデータ可視化のことです。たとえば仕事で大量のデータを渡されるとします。そのデータはExcelやテキストファイルなど、グラフになっていない生のデータです。そのようなデータを自分で理解するために使うのが「自分のため」のデータ可視化です。

Excelの表で渡されたデータをグラフにして、あれこれと眺めてみたり、ふと自分の仮説を思いついて検証してみたことがある方は少なくないでしょう。場合によっては、気心の知れたごく小さなチームや○○分野の研究者同士といった前提知識が揃っているメンバー間で共有されることもあるかもしれません。

「自分のため」のデータ可視化で重要なのは「網羅性」と「柔軟性」です。データに関して自分が理解していないところから始めるので、当然ながら可視化も様々な切り口に対応したものでなければなりません。ここでは明確な解釈を1つ得るというよりは、細かい点も含めてデータが持つ様々な側面を出来る限り正確に把握することが求められます。

逆に言えば、わかりやすいユーザーインターフェイスや明確なメッセージは自分が必要なければ省いても問題ありません。文章でいうと、自分用のメモに例えることができます。自分で作って自分で消費するものであるため、最低限「未来の自分」が理解できる程度であれば十分です。


「組織のため」のデータ可視化

次の円は「組織のため」です。自分の会社や部署に向けたデータを整備する仕事です。おそらくこのエリアが、従事している人のボリュームでいうと最も大きいでしょう。

社内向けのデータダッシュボード作成、従業員向けの月次レポート作成などはここに入ります。注目を集めるデータサイエンティストの可視化仕事も、基本的にはデータの分析結果を社内に向けて発表することがほとんどでしょうから、ここに入るケースが多いと思います。

「組織のため」のデータ可視化では、自分のためのデータ可視化に必要な網羅性や柔軟性ももちろん必要ですが、それと同時に「わかりやすさ」が求められます。データ可視化を作る人は、きっとデータの扱いに慣れているでしょうが、それを見て実際に活用する立場にある一般の社員はそうでないケースがほとんどでしょう。忙しい通常業務の合間にデータを見るという環境を考えると、事前の学習を必要とすることなくシンプルに一目でわかるデータ可視化を見せることが理想的です。

また、ユーザーの統計知識や、グローバルな組織の場合には文化的背景といったバックグラウンドも多様です。たとえば色による区分はなるべく避ける(もしくは白黒でもわかるような色分けにする)、性別や人種などのステレオタイプを用いない、といったユニバーサルなデザインに注意を払う必要があります。場合によっては、多言語での対応も必要になるでしょう。

業務内容や扱うデータによっては、すべてのデータを可視化できなくてもよいかもしれません。また、データの解釈も必要であればつけるケースがあるでしょう。

文章でいうと、社内向けの報告書やメール文章と似ています。明晰さ、ロジック、簡潔さなどが強く求められるケースです。


「社会のため」のデータ可視化

最後の最も大きな円は「社会のため」のデータ可視化です。これは報道コンテンツやアート作品など、広く社会にデータを伝えるためのデータ可視化を想定しています。私が普段従事しているのはこのエリアに該当します。

自分のための、あるいは組織のためのデータ可視化に必要な網羅性や柔軟性、わかりやすさや簡潔さも大切ですが、このエリアにおいては「あまり興味のない人にも知ってもらうこと」が重要になります。

もちろんデータ可視化の報道やアートに触れる人は、元からそのデータやトピックに興味のある人が多いでしょうが、仕事で触れる場合よりも必要性が薄いと考えるほうが自然です。そのようなユーザーにも見てもらうためには、「正確に伝わる」「わかりやすい」に加えて、データを見ることそのものが楽しいと感じてもらうような仕掛けを用意する必要があります。

新型コロナウイルス 国内感染の状況」は、トピック(=感染状況)への注目度が異例と言えるくらいケースだと思われますが、それでもHUDデザインといったビジュアル面での工夫がなかったら、今よりも読まれていなかったのではと考えます。

技術的にも、インターネット上で公開するのであれば多様なデバイスに対応する必要があります。業務用のデータ可視化ツールでは、PCでの閲覧を前提としているケースが多いでしょうが、今やネットのトラフィックの大部分をスマートフォンが占めています。スマートフォンでもタブレットでもPCでも、まったく同一とまでは言いませんが、ほぼ同じユーザー体験を提供しなければなりません。

社会のためのデータ可視化では、正確性や明晰さと同時に、多くの場合でデータを絞り込んだり加工したりといったデータの「編集作業」が必要になるでしょう。文章でいうと新聞や雑誌の取材記事、あるいはアート作品であれば小説やエッセイなどと同じ立ち位置になるかもしれません。取材の内容をいくら正確にわかりやすく書いたとしても、一貫したストーリーがなければ「取材メモ」に終わってしまうのと同様に、社会に向けたデータ可視化は一貫したコンセプト(必ずしもメッセージとは限りません)のもとにプロダクトを設計する必要があります。


嬉しいことに日本でも徐々にデータ可視化のコツや知識を共有する書籍やブログ記事が出てきましたが、それがどのようなデータ可視化を指すのかを意識すると、ナレッジを効果的に活用できるでしょう。

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